第67話 玉座

「リコさん」


 フォリスさんが平伏している、リコさんに声をかけました。

 もう一人は、ロホウさん、そして一際体の大きな人は、リコさんのお父さん、第一王子サダルさんでしょうか。


「皆さん、楽にして下さい」


 僕の言葉で、リコさんが顔を上げて、心配そうな顔で僕を見つめます。


「よかったですね」


 僕の言葉でリコさんの目から涙が、ポロンポロンと落ちました。


「アスラ様ーーー!!!」


 この騒々しい声はオウブさんですね。


「何ですか、騒々しい!!」


 フォリスさんが、オウブさんをたしなめます。

 どっちが大人かわかりません。


「ご、ご無事でしたか。うおっ……」


 オウブさんが、ロホウさんとサダルさんに気が付き驚いています。


「オウブさん、コウケンさんの家族はどうしましたか」


 フォリスさんが、視線をオウブさんに移し、質問しました。


「は、捕らえて、逃げないようにしました」


 オウブさんが、どや顔をしています。


「オウブさん、すぐにシュザクを護衛につけて、コウケンさんのもとに帰してあげて下さい。家財があればスザクに運ばせて下さい。他にも家族とはぐれた人がいれば、全員家族が一緒になれるよう手配をお願いします」


「……!!」


 オウブさんは、驚いた顔になりましたが、すぐに意味を理解して悲しげな顔になり、部屋を出て行こうとしました。


「オウブさん、我がままを言ってすみません。これが僕とフォリスさんの気持ちなのです。お願いします」


「いえ、イルナ様の事を知りながら、家族を引き裂くような愚かな事をしてしまいました」


 オウブさんは、僕の方を向き、膝をつき深く頭を下げてくれました。


「家族は、一緒にいられるよう、配慮して下さい。お願いします」


「ははっ」


 オウブさんが元気に返事をして、出て行きました。


「魔王様、玉座には座らないのですか」


 リコさんが笑顔で話しかけてきました。


「はい、ここに座るのは、配下がそろってから堂々と座るつもりなので、今は座りません」


「そうですか」


「サダルさん」


 僕は、やっとサダルさんに話しかけた。


「私は、兵を向わせた敵軍の将です。どの様な罰も受ける覚悟は出来ております」


 その顔は、死を覚悟した顔に見えます。

 その代わり、娘の命だけは助けて下さいということでしょうか。


「では、罰を与えます。まずは、魔王アスラへの絶対の忠誠、そして王都の混乱の収拾をお願いします」


「あの……」


 サダルさんが驚いていると、リコさんがサダルさんの手を優しく握りました。


「そうですよ。僕は前魔王とは違います。魔人の命は一つも失いたくありません」


 僕は、リコさんの優しい表情に癒やされながら続けます。


「では、サダルさん。僕の人気が無いばかりに街の人が無駄に逃げだそうとしています。サダルさんが説明してくれた方が街の人が落ち着きそうです。まずは、この仕事をお願いします」


「ははっ」


 サダルさんと、リコさん、ロホウさんが出て行くのを見送って、玉座の前に立ちます。

 じっと玉座を、見ていると横にフォリスさんが立ってくれました。


「ようやく、ここまで来ましたね」


 フォリスさんは玉座の方向を見たままつぶやきました。

 その目はどこか遠くを見ているように感じます。

 遠く離れたイルナの姿を見ているのでしょうか。

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