第29話 始動

 俺たちはドローイングルームに通され、俺が上座に座らされた。

 後ろにフォリスさんとクザンが控えてくれている。


「まずは護衛に奴らを出そう」


 外壁と門を壊したのでさすがに物騒なので、ダンジョン最下層の雑魚モンスを十匹ほど出した。


「クザン、こいつらの名前は何かあるのですか」


「シュザクとスザクです」


 明るい赤色の個体がシュザク、どす黒い赤色がスザクというらしい。


「シュザクは六百体でスザクの上位体になります。スザクは六千体います」


 ダンジョンの最下層に六千六百体の雑魚モンスターがいたと言うことらしい。今適当にこの中から十体転送したが、シュザクが一体、スザクが九体転送されたようだ。


「そ、そんなにいるのかー、凄い数だなー」


 俺が驚いているとフォリスさんが進行をかわってくれた。


「じゃあ、あなた達スザク四体で、外の警備をしてください。では、会議を始めましょう。アスラ様、何か質問はありますか」


「まあ、この領地の現状は、見てきてだいたいわかった」


 俺は、この部屋の隅に、収納してあった、レベル1ダンジョンの宝物庫の中身を出した。


「おおおおー」


 どよめきが起った。


「この宝物を使って、ここの商業を発展させてほしい。バンさんとエドさんに任せたいのですが、よろしいですか」


「ま、任せてくれ、そのためにここにいるんだ」


 バンさんの目が輝いている。エドさんもニコニコしてうなずいてくれた。


「オウブさんとロアドさんには隣の領地との交渉をお願いします」


「と、言われますと」


 ロアドさんが質問してきた。


「ふふふ、素直に配下になるか。武力による支配を望むのか。と、いうことです」


「武力……、戦争になってもよいと言うことですか」


「はい、その時はオウブ将軍に、一番槍をお願いいたします」


「おおお」


 今度はオウブ将軍の目が輝いた。


「しかし、情けない話しですが、この国の兵力は二百程度です。とても勝ち目はありませんが……」


 ロアドさんは弱気のままだ。

 俺はもう一山宝物を出した。


「これで、兵士と武器を調達してください。ただ、足りないようならスザクの軍勢を用意します。数をそろえるのでは無く、質の方を重要視して下さい。それと、今いる兵士の半分を、国境の警備にまわして下さい。賊の退治をして治安の向上をお願いします」


「は、はい」


 ロアドさんも納得してくれたようだ。


「ここにいるスザク五体も置いて行きます。自由に命令して下さい。役に立ってくれると思います」


「は、はい」


「僕たちは、隣の領地の下見に行きますので、次は隣の領地の領主屋敷でお目にかかりましょう」


「は、はははーーー」


 ロアドさんもオウブさんも、バンさんもエドさんも、僕に頭を下げてくれている。

 年端もいかない、こんな僕を魔王と認めてくれたようだ。

 重臣として大切にしていきたいと思う。


「じゃあ、フォリスさん、ランロン、クザン、シュザク、行きましょうか」




 俺たちは中央広場に移動した。

 すでに日が暮れかかっているのでこの街の、宿に泊まることにした。


「あ、あの、ご主人様」


「おっ」


 食事とお風呂が終って部屋に戻ったら、シュザクが話しかけてきた。

 話せるとは思っていなかったので驚いた。

 しかも、女性のようだ。

 見た目では男か女かまるでわからない。


「な、何ですか」


「は、はい。お願いがあります」


 なんだか、もじもじして、かわいい。


「僕に出来る事なら。何でもして上げますよ」


「本当ですか」


 飛び上がりそうなくらい喜んでいる。かわいい。

 僕は大きくうなずいた。


「姿を、人間に見えるようにして下さい」


 あーそうか。全身真っ赤のモンスターのままの見た目だ。

 お風呂じゃあ、目立っただろうなー。

 可哀想なことをした。

 たしか魔王の魔法に姿を変える魔法があったはずだ。


「では、いきます。――ヘンシン」


 手の平をシュザクに向けると、金色の魔法陣が出て、シュザクの全身が金色に輝いた。


「なーーーーっ」


 フォリスさんが大声を出した。


「美しいです。女神の様です」


 シュザクは鏡の前で、全裸でぴょんぴょんはしゃいでいる。

 フォリスさんが凄い顔で僕をにらんでいる。

 そして、収納してある自分の服を出した。


 シュザクはそれを身にまとった。


「少し胸がきついです」


 フォリスさんの顔が鬼の様になった。


「どういうことですかーーーーーーーー!!!!」


 たぶん過去いち怒っている。

 僕は、シュザクをフォリスさんの、大人の時の姿にしてしまったのだ。

 しかも、少しだけ、ほんの少しだけ、胸を盛ったのだ。

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