第6話 海の上の家

「あんちゃん、大丈夫なのか」


 おちびが、集まっている男達の数を見て心配している。

 まあ、数は多いが、多くの男達は野次馬のようだ。

 とはいえ、こんな子供を大の大人が大勢で囲んで、脅かすとは厳しい罰が必要だ。


「心配するな、俺は何万ものモンスターに囲まれて全滅させたことが有る。数百の人間など恐れるにあたいしねーさ」


 まあ、その時から比べれば、ステータスが1割に減っているからどこまでの強さかわからないが、人間程度には遅れをとらない自信がある。


「ほ、本当か?」


 おちびが驚いている。


「ふふふ、そこで黙って見ていろ」


「ほ、ほどほどにね」


 ふふふ、おちびのやつめ。

 俺のことを信じたようだ。

 俺が負けると思っていない言い方だ。


 俺は、右足にぐっと力を入れた。

 そして、囲んでいる男達の中に突入する。

 少し本気を出したから、男達は俺の姿を見失った様だ。


「ぐあああ、いてーーー」

「ぎゃあああ」

「ひいいい」


 男達がパニックにおちいっている。

 俺は男達の膝を蹴りながら進んでいる。

 へし折ると治りが遅いから、膝で脱臼させているのだ。

 これなら、関節をいれればすぐに歩けるようになるだろう。

 だだし治す時にも激痛が走るけどな。


 時々目のいい奴が、攻撃を入れているが俺の防御力は、そんな攻撃ではダメージを受けることも無い。

 そういう奴は、ご褒美に両膝蹴り飛ばしてやっている。


「やめろーー、ぎゃっ」

「やめてくれーー、ぎゃああー」


 数十秒過ぎた頃には、逃げ出す奴が現れた。

 俺は、逃げ出すことも許してやる気は無い。

 弱いものいじめをしようとした罰なのだからな。


「強者殿、そこまでにしてくだされーー」


 あと、数十人というところで、鼓膜がビリビリするほどの大声がした。

 おちびの横に、すげー立派な体の男が仁王立ちしている。

 髪も髭も真っ白な爺さんだ。

 おちびが両耳を押さえて見上げている。


「おい爺さん、すごい声だなー」


 俺は素早く爺さんの前に移動すると声をかけた。


「うお……すまんのう。海の男は声がでかいでな」


 俺が突然目の前に現れて少し驚いたようだ。


「て、提督」


 親方が爺さんに歩み寄り声を出し驚いている。


「お前達もわかったであろう、このお方はお前達が手出しして、よいお方ではない」


「へ、へい」


 ちっ、親方の奴ぺこぺこしている。


「おい、親方、このちびは俺が預かって、罰を与える。文句はねーな!」


「だんな、こいつも可哀想な奴なんです。殺さねえでやってくだせえ」


 だったら、盗みとかやらせてんじゃねえよ。


「こ、殺さねえよ」


「ふふふ」


 爺さんが笑っている。


「爺さん、あんた提督なのか」


「ふふふ、元海軍提督でしたが今は、貨物の船長です」


「なんだ、そうか」


「強者殿、わしの言葉を聞いて下さりありがとうございました」


「俺はアスラだ。その強者というのはやめてほしい」


「わかりました。アスラ殿」


「爺さん、少し聞きたい事があるのだがいいか」


「ふふふ、わしでわかることなら」


「この街で、住むところを探したい。いいところを知らないか」


「ほう、それなら一つ心当たりがありますな。付いてきてくだされ」


 俺は、おちびの手をつかんで、爺さんのあとをついていった。

 爺さんは港の外れにずんずん進んで行く。


「これでどうですかな」


 そこには、ぼろい木造船が一艘浮かんでいた。


「うわあ、すごーーい。なあ、お爺さんここに住んでもいいのか」


 おちびが、目をキラキラさせて喜んでいる。


「ほほ、気にいっていただけましたかな。好きなだけ住んで下さいな。何かありましたら、港で声をかけてくだされ」


 爺さんは、笑顔で帰って行った。


「よし、おちび、我が家に入るぞ」


「あんちゃん、俺はイルナだ。先に入っていいかー」


「構わねえが、気を付けろよ」


 イルナは喜んで船に乗り込んで、あちこち見て回っている。

 小さいが、しっかりとした造りの船だった。

 船の中は、何も無くて、住めるようにするには、少し物資を買いそろえなくてはならないだろう。




 ――その夜


 ぐえーえー


 イルナの奴が船酔いをしている。

 停泊している船でも船酔いするようだ。


 ――その二時間後


 ぐえーーえ


 俺も船酔いをした。

 と、とんでも無い家だ。

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