数十分後に婚約破棄&冤罪を食らうっぽいので、野次馬と手を組んでみた
月白ヤトヒコ
前編
「レシウス伯爵令嬢ディアンヌ! 今ここで、貴様との婚約を破棄するっ!?」
高らかに宣言する声が、辺りに響き渡った。
公爵のうつけ息子と有名な馬鹿が、公衆の面前でやらかした。
事前の情報通りの展開。
「おおー、マジでやりやがったよあのお花畑」
「では、手筈通りに」
「オッケー。んじゃぁ、気ぃ入れてやるしかないねぃ」
「行きますか」
「口調変えねーと」
「へいへい、手加減は無しってな」
「野次ってやんぜ」
と、二人は約束通り、
―-✃―――-✃―――-✃―-―-
「レシウス伯爵令嬢ディアンヌ! 今ここで、貴様との婚約を破棄するっ!?」
胸を張った、高らかな婚約破棄宣言が辺りへ響き渡る。
今日は午後の授業が無く、代わりに数ヶ月に一度の全体集会の日。
講堂に全学年の生徒が集合する。そんな、講堂へ向かう途中の道での愚かな宣言。
きっと、『衆人環視の前で婚約破棄する俺、かっこいい!』とでも思っているんでしょうね。キモっ!
「婚約破棄、了承致しました。つきましては、理由をお伺いしても?」
でも実は・・・よっしゃっ、やったっ! な気分なんだけど、努めて冷静に。
「ふっ、知れたこと! 貴様は、わたしの愛するこの可憐な」
「よっ、まさかの自分からの不貞の告白!」
「憎いねこの色男!」
ドヤ顔して、なんぞ花畑なことを言い掛けた言葉が、飛んで来た核心的な野次に遮られる。
「なっ!? だ、誰だ今のはっ!?」
「ただの野次でしょう。人通りが多い場所でこのようなお話をされるものですから、
「だから、貴様がわたしの愛するか弱いっ」
「婚約者を蔑ろにして育てた不誠実な真実の愛!」
「女泣かせたぁこのことだね!」
「そして、婚約者がいる男に擦り寄るか弱い女!」
「か弱いだぁ? 図太ぇ神経した厚顔女の間違いじゃぁねぇのかい!」
再び飛ぶ野次に、ドッと沸き起こる笑い声。
「ふっ、不敬だぞっ!? それに、わたし達のこの愛はみんなに祝福されているんだっ!!」
「流行りの演目がただ見の特等席で観れるとあっちゃあ、そりゃぁ馬鹿を
「豚も煽てりゃ木に登る!」
「道化たぁこのことだね!」
「ぶ、豚に道化だとっ!?!?」
「あら、野次の言葉になにか心当たりでも?」
「なっ!? そ、そんなことはっ……」
「それで、わたくしがなんでしょうか? 学園入学時より婚約者に蔑ろにされ、近付くなと命令されていたので、どこぞの女性と四六時中べったりとくっ付いていた方々に、わたくし自ら近付いた覚えはないのですが。そのわたくしが、なんでしょうか?」
「され妻!」
「なっ、こんな女と結婚はしていないっ!?」
「あいや、しまった! まだ婚約者だった!」
「よっ、憐れ寝取られお嬢様!」
「寝取っ……っ!? なっ、なにを言ってっ!?」
「学園中で盛ってんなぁ周知の、いやさ、羞恥のことでさぁ!」
「あんだけべったりしてりゃあ、邪推の一つもされるってもんだぜぃ!」
「よっ、厚顔無恥で傍若無人なふてぇカップル!」
「不逞で不貞、恥知らずのご両人!」
飛ぶ野次に、婚約破棄をかました男に寄り添っていた女の顔が蒼白に変わる。
「なっ……か、彼女を侮辱することは許さんぞっ!?」
「そうですわね、女性の大切な名誉に関わることですものねぇ? ええ、そうですわ! 不貞の疑惑を晴らすためにも、教会で調べて頂けば宜しいかと思いますわ!」
パチンと両手を合わせ、さも名案という風に提案すれば、浮気男も蒼白な顔でしどろもどろになって黙る。
「どうされました? 教会で、
「そ、それは……」
ざわざわとする物見高い見物人達。
「では、わたくし個人としては、婚約破棄を承りました。両家へのご連絡は任せましたわ、元婚約者様。慰謝料の請求などは、後日連絡が届くかと。それでは、わたくしは傷心の為これで失礼致します。ごきげんよう、皆様」
と、浮気男とその相手の女を置いて
「これぞ、冤罪被せからの理不尽断罪婚約破棄!」
「からのぉ、断罪返しってぇやつかい!」
「お後が宜しいようで!」
最後の野次が飛び、野次馬は三々五々に散って……ではなく、全校集会の為に講堂へ向かって行った。
そして、わたくしは講堂へは向かわずに踵を返し――――
裏門で待っていた二人へ頭を下げる。
「見事な野次でしたわ。お陰で助かりました」
「いえいえ、お誉めに
「それで、成功報酬はわたくしの身柄、でしたわね」
覚悟を決めて、相対した二人へ問い掛ける。
元婚約者様こと、先程の浮気自爆男がわたくしへ冤罪を掛けて断罪し、恋人との新しい婚約をするだの寝言を宣っているのを偶然聞いたのは、つい数十分前のこと。
あんな馬鹿げた茶番の断罪劇で・・・「婚約破棄ができる、これから新しく婚約を結び直せば堂々と二人過ごせる」、という風なことを中庭で、イチャイチャしながら語っているのを見てしまった。
午後の全体集会をブッチして早退しようと思ったけど、それも大した時間稼ぎにはならない。
しかも、公衆の面前で婚約破棄を宣われたところで、貴族の婚約は基本的に政略だ。
うちの親なら・・・ああやって公の場でわたくしが罵倒されたとしても、家に利益があるのならば、あの元婚約者の浮気自爆男へと平気な顔で嫁がせるくらいはする。あの男の家は公爵家で、伯爵家のうちより格上。
あの男が愚か者で、わたくしが有能だからと結ばれた、あの男のお守りをさせる為の婚約。
そして、あのクソ男に『俺のことが好きだからと、両親に媚を売ってまで結婚させた女』などと屈辱的な勘違いをされたまま、虐げられる生活が待っている・・・
まぁ、普通に考えて地獄の結婚生活と言えるだろう。
修道院へ逃げるか、どうするか? と、真剣に悩んでいるときだった。
「そこの、思い詰めた顔で悩んでいるお嬢様。悩みがあるのなら、お聞しきますよ? ちなみに、我が帝国には神殿がありまして。よく、行き場の無い女性が他国から
と、声を掛けられた。
直接的な言葉ではないけど、あからさまな、亡命のお誘いと言える。
それで思わず、ついさっき聞いた元婚約者の計画を話してしまった。
すると、あれよあれよという間に、「それならこういうのはどうです?」となって、あの野次作戦と相なったというワケだ。
わたくしから彼らへ保護を求めた、という
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