第11話 占い師の少女 

「じゃあ、さっそく占ってくれ」


 占い師の少女は「了解」と言うと、机の上でタロットカードを混ぜ始めた。

 

 その顔はとても真剣だ。


 占いの準備をしながら何か話しかけてくると思っていたが、少女は口を閉ざしたまま。黙々と準備を続けている。


 とても暇なので、俺は椅子に座ったまま体の向きを変える。

 このあたりは食べ物の屋台が多いからか、食べ歩きをしている人がけっこういる。


 ……占いが終わったら俺もなんか食べようかな?


 昼まで我慢しようと思っていたが、ポケットの中にはさっき現れた銀貨がある。

 元々なかったお金なので、全額使っても問題はない。


 それからしばらくして少女の声が聞こえた。

 

「結果が出たよ」


 俺は椅子に座ったまま体の向きを戻す。


「これから占いの結果を話すけど、心の準備はいい?」

「ああ」


 占い師の少女は自信たっぷりの表情で語り出した。


「あなたは、ここから近い土地で生まれた」

「……いや、とても遠い土地だ」

「兄弟は3人いて、兄はすでに独立している」

「……俺はひとりっ子だ。親は初婚同士だから兄弟はいない」

「…………」

「…………」

「りょ、両親は農業の仕事をしている。それほど収入がないので、つつましやかな生活を送っている」

「俺の両親は貿易関係の仕事だ。二人とも仕事人間で、それなりの地位にある。当然だが、けっこう収入がある。二人ともそのお金を惜しげもなく使うから、つつましやかな生活とはほど遠いぞ」

「…………」

「…………」


 当たらねー。かすりすらしねえ。


 だが、占いなんてこんなものだ。


 一部の占い師が当たると言われるのは、何らかの方法で相手の情報を得ているから。彼らはそれを踏まえて、相手へのアドバイスや、将来に起こりそうなことを言う。当たる確率も多くなる、と。


 だが、それでいいんだ。

 だって占いは人生相談だから。


 プロの占い師はまず、占いの準備をしながら相手の情報をさりげなく聞き出す。次に、どうアドバイスするか考えながら相手を占う。最後に、占いの結果を絡めて・・・アドバイスをする。


 本当に重要なのはアドバイスだ。占いじゃない。

 だから、占いが当たるかどうかは二の次らしい。


 すべて先輩の受け売りだが、たぶん間違いない。


 だから、俺もそういうことを期待した。


 なのにこの子は、俺の情報を聞き出そうとはしなかった。

 普通にタロット占いをして的外れなことを言っただけだ。

 

 プロの占い師としては失格だと思う。

 これで料金を取るなら占ってもらったことを後悔したかもしれない。


「なあ、もう帰ってもいいか?」

「ちょ、ちょっと、まだ帰らないで! 今から本気出すから」


 今からって……それじゃ今までのは何だったんだよ?


 占い師の少女は並べられたタロットカードをあわただしく片付けると、端に置いてあった水晶玉をテーブルの中央に移動させた。


 今度は水晶占いを始めるらしい。


 だが、タロット占いがひどかったのだ。

 どうせ的外れなことを語るだけだろう。


 占い師の少女はしばらくのあいだ無言で水晶玉を見つめていたが、


「……すごい。こんな世界があるんだ……」

「……?」

「あなたは異世界人だ」

「…………」


 おい、今なんつった!? 異世界人って言わなかったか!?


「……本当に好きだったんだね。メガネをかけた女の子のことが」

「――――!?」


 俺が片思いしている先輩は少し視力が悪かった。だから、勉強をする時や本を読む時はメガネをかけていた。もしも『メガネをかけた女の子』が先輩のことを指しているなら、見事的中したことになる。


 もしかしてこの子、スクライング(何らかの物体を見つめることで幻視を得る)の能力があるのか?


 と、そこで、少女の顔が悲しげになった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る