第19話

「って訳で俺も宿題終わって、夏までにどれくらい鍛えるべきかなあって」


「へー、アタシも今月初めには終わった感じ」


「俺は先月だな」


食堂で一緒にご飯をしているのはナツミさんとゴウ君。……と前は呼んでいたがお互い呼び捨てになっている。

部屋が近いゴウと、クラスの席が近いナツミとはよくこうして情報交換も兼ねてご飯を食べている。


「アタシはツェルニ先生に聞いたんだけど、次学期はいきなり★3にぶつける……なんて事はないから安心しろって」


「まあ……流石に★1から★2と★2から★3は格が違うからな……」


「でも次はって、それいつかはやらせるって事だよね……」


微妙な顔でオムライスを食べるゴウ、火鳥の焼き鳥定食を頬張るナツミ。

俺は普通に焼き魚を食べている。

食用に適したモンスターというのは結構多いのだが、特定スキルを以て倒さないと肉を落とさない敵もいる。高級食材を専門に狙うパーティーもあるとか。


閑話休題。

俺達に共通した悩みは、9月の2学期までの期間をどう過ごすかだ。

9月から別の何かがある以上、俺達も全く準備しないという訳にはいかない。各自スキルレベルを上げるため、或いは装備の為に狩場に行くつもりだが……。


「どこら辺まで頑張るかだな」


「うーん、★2をねえ」


★2モンスターを3回以上単独で狩っていると言っても、じゃあ毎回俺達が余裕で勝てると言ったらそんな事もない訳で。

とはいえ★1モンスターは基本的に小遣いにしかならない。

じゃあどうするかというと。



2日後、妖怪の山。

俺達は4人で妖怪の山に来ている。


「うし!今日は中層まで行くか?」


「馬鹿言うんじゃないの」


「よろしくお願いします……!」


3人でパーティーを組んで、どれだけ素材とお金を稼げるか試してみないか?と言われた。ので、折角だからとミユキも誘ってみた。

4人パーティー。基本的にパーティーの最高人数はこれだ。

戦闘時は俺とゴウが前衛、ナツミとミユキが後衛となる。

ゴウは大剣術2にナイフ術2。

ナツミは弓術2に察知2。

ミユキは砲術2に陰陽術2。

俺が刀術3に火魔法1。サモナーは戦力外とすると、戦力的にもバランスが取れている。


肩慣らしという事で、ナツミにはミユキよりやや前に出てもらい、察知スキルで感知してもらいながらそちらに走って行く。

彼女の察知スキルは文字通り生き物を察知するスキルだ。一度察知して目視した生き物等は綺麗に察知できるし、例えば餓鬼を覚えた場合、同種の餓鬼にも割と通じる。

逆に言うと知らない種族についてはよくわからない何か程度しか分からない。また敵意や好意も察知できない。

レベル以下の★モンスターまでしか正確に察知できないというのもあるか。

何かあっては遅いため、前衛は一身札を持っている。


「もう少し行ったら餓鬼4!」


「オッケー!ゴウどうぞ」


「いいぜ!」


視界に入った餓鬼をまとめて切り飛ばすゴウ。こういう時、範囲が広い攻撃手段を羨ましく感じる。火魔法を上げていけばいずれ取れるだろうけど。


「あ!河童1匹!水辺に近いけどどうする?」


「それなら私が!みんな止まってください!」


今度は前衛が止まり、ギリギリ気付かれない場所でミユキが砲撃を撃つ。

河童の胴体に直撃し、水辺と逆方向に飛んでいくのを確認してゴウと走って行く。


「どっちがトドメを刺せるか勝負……っておいおい」


河童に矢が何本も刺さり倒れるのを見て、ゴウが悲しそうに素材に変わっていく河童を見る。


「ほ、ほら……ゴウ、楽なのはいい事だから……」


「そうよ、良いじゃないのこれで、ねー?」


「は、はい」


まあ★1ばっかだともう鈍るよね、身体が……。

★2でも全く問題がないため、複数いるのを狙っていこうと提案する。

みんなも問題なさそうだったので、2〜3匹の相手を見て行く。


「近くには……大蝦蟇が3、いるわ」


「大蝦蟇は是非倒したいですね……」


ミユキにとっては美味しい相手か。こちらも一度戦った相手だし、やってみよう。


少し走った所にいた大蝦蟇達に、まずミユキの火炎弾、ナツミの矢、俺のファイヤーボールが炸裂する。

流石にほぼ死に体か。ふらついた所をナツミの追い討ちで倒れる。


まず1匹。


次に2匹。当然ながらこちらに威嚇してくるが、今回は単独で対処できる前衛が2人いる。

俺はファイヤーボールで牽制を、ゴウは大剣を振れる程度に密着してインファイトでやり合う。


多分これは……ゴウの方が早いな。


「ミユキ!ナツミ!ゴウの方先倒して!」


両方の大蝦蟇に平等に来ていた援護が、ゴウの方に集中する。

程なく2匹目が倒れ、それまでに足を切り付けられて動きが悪くなっていた大蝦蟇をゴウと2人で始末した。


「ここまで楽なもんか?」


「うーん、どうなのでしょう?」


全く苦戦する要素が無かった。

前大蝦蟇と戦った時より強くなっているし、それに加えて人数も倍になっていればそんなものか。


「もう1戦くらいやっていかね?」


「そうね……矢の余裕は……もうちょいなら」


というわけで、大蜘蛛を3匹、更に木の葉天狗を1体撃破した。

合計としては7匹。悪くはないが、4等分すればそこまで多くもない。

みんなも思ったより……といった感じだ。決して悪くはないのだけれど。


と、いう話をツェルニ先生にしてみた所。


「ああ、それは〜、みんながパーティーを組むには微妙なところといいますか〜」


俺以外の3人も分かっていない様だが、ツェルニ先生はクスクスと微笑ましそうに笑う。


「2学期まではですね〜、それこそ帰省でスキルレベル1の子の引率でもない限り、皆さんはソロか2人ペアの方がいいと思いますよ〜」


「は、はい。わかりました……?」


禁止というわけではないらしいが、ともかくそういう事になった。

まだ答えを探す段階でもないみたいだし、購買のお姉さんや鍛冶屋のお兄さんに会いに行く。


「こんにちはー」


「ハルキ君。夕方に来たって事は狩りの成果はどうだい?」


「えーっと、大蜘蛛の糸、河童の魔石、あとは★1がそれなりに」


「大蜘蛛の糸はいいね。軽めの防具に使えるよ。河童の魔石は……水属性が微かにあるけど、これで鬼火の様な事はできないな」


「まあまあ、★2の刀、いっそ河童の魔石と何か適当な素材で作っても良いんじゃないかしら?これからハルキ君はまだ成長するし、どれも繋ぎになるわけだから」


お姉さんのアドバイスも尤もだが、それなら今一番強力なものが欲しい。他の領に行く以上、何かあった時の備えが……ってそうだ。2人に何も言っていない。


ナンバ領の夏祭りに行くと言うと、2人は驚いた顔をした。


「あれに行くのかあ……良いなあ、あのお祭り、本当に珍しいものがいっぱいで」


「私も行きたいお祭りなんだけど……私達、ここで仕事しないといけないのよね、夏休みも……」


ああ……2人の背中が煤けて見える……。夏にこの学校に残って修行する子も多いらしく、サポート要員の2人はそこまで休めない。それぞれ1週間ずつくらいは休みがあるらしいが。


余談だが、購買にも鍛冶屋コーナーにも他に人はいるが、2人と仲が良くなりすぎて入ると彼らの元に通される様になった。


「あー、じゃあ、買えそうなものなら何か買ってきましょうか?」


「私はいいわ。1年生1学期を頑張ったんだから、お祭り楽しんできなさいな」


にっと男前な笑顔を浮かべて頭をわしゃわしゃとしてくるお姉さんとは対象的に、お兄さんは「いいのかい!?」と凄い勢いでこちらに向き直る。


「む、無理のない範囲で………」


そう言われると彼はかなり悩み、悩み悩んだ所でいくつかの鉱石の名前と相場をメモにしてくれた。


「これを、これ以下で売ってたら買ってきてくれるかな。勿論お礼はするとも!あ、でも本当に無理はしないでよ。まず自分の欲しいものを買ってから、余裕があればだからね。学生なんだから」


「あ、はい」


そんな勢いじゃなかった気もするが……?

夏休み、大丈夫かなあ……。

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