第14話



「グレース、本当に、キミが料理したの?」


 お口に合うといいんだけどな。

 作ったのは二品、あとはメインとかスープはテッドなんだけど、わたしはサラダと、あと前世を思い出して作ってみたのはロールキャベツです。

 トマトソースベースで。

 期待してくれている伯爵様の表情との対比が激しいのは隣に並んでいるブレイクリー卿だ。

 一応、盛り付けだって綺麗に見えるように頑張ったのよ?

 気に入らないならブレイクリー卿は無理に食べなくてもいいのよ?

 そんなわたしの心の声は聞こえることなく……。

 伯爵様とブレイクリー卿は一緒に、わたしの作った料理を口にする。

 テッドに味見してもらって「いや、奥方様は料理もできるんですな!」と感心されたから、うまくできたはずなのよ。


「すごくおいしい、グレース!!」


 ぱあっと顔を明るくさせる伯爵様。

 はい、「美味しい」のお言葉頂きましたー! 愛情込めましたよ! 

 思わず、わたしは素でニッコリ笑っていた。

 料理作っていて思ったの。こういう料理もいいんだけどさ、伯爵様は軍人だから、軍用のレーションの開発とかもしていいんじゃないかなって。

 ユーバシャールの今後の食料生産によるんだけどね。

 せっかく湖あるんだし、治水して水耕栽培してみたい。

 何をって?

 米ですよ。

 何年か前に、東の小国がラズライト王国の属国になったのよ、そこで生産されてる穀物、どうも米っぽいの。

 ラッセルズ商会がさっそく仕入れたと聞いて、わたしはウィルコックス家にてちょっと料理したことがある。

 ちっちゃい塩むすびだったけど、ジェシカとパーシバルが「え、何コレ、もちもちしてる! あとなんか甘い!」って割と気に入ってた。

 前世日本人のわたしとしては、米が炊けたら、味噌と醤油が欲しくなるのはサガだと思うのよ。

 ラッセルズ商会食品部門に問い合わせて、この調味料があるか尋ねたら、やっぱり米と一緒に取り扱ってるらしい。伯爵様にお願いして輸入してもらう? この土地で生産できるならしてみたい。


「まったく、貴族令嬢が自ら料理なんて、はしたない、これだから貧乏貴族は……」


 うるさいなー。ブレイクリー卿。

 あんたの為に作ったんじゃないわ。

 ブレイクリー卿は実に優雅な所作でカトラリーを扱い、一口、食して黙る。

 そして、皿にある料理とわたしを見比べて、黙々とカトラリーを動かす。

 あ、食べるんだ……。


「メインの焼き物に使用したソースも、グレースが王都で作ったんだって?」

「はい。ダーク・クロコダイルの肉は、淡泊な感じですので、甘辛いソースが合うと思ったので試作してみました。これはユーバシャールの特産……串焼きに使用させてみようと、レシピを村の飲食店に回してます。試食もそうですが、事後報告ですみません」

「全然、そうか、特産品ね……」

「ユーバシャールの食料問題は目下急務ですから、飲食店を商う者と協力して、こうした商品を作っていくのはどうでしょうか」

 もちろん、この領主館の料理長のテッドをトップに据えてね。

 領主様の料理長だって、領民のことを考えてるよー領民みんなで美味しいものを作ろうねって先導してもらうのよ。

 食の名産品を作ってもらう。近隣領地から距離がありすぎるからね。自給自足を豊かにしていこう。

「そうだね、ウィルコックス領の穀物の支援もあって、領民は食生活が向上してると報告があがってる」

 ウィルコックスの食料支援は、わたしの持参金みたいなもの。

 陸路での運搬に限界があるんだ。

 一応さ、ラッセルズ商会にごり押しして、ラズライト王国鉄道の貨物車両を一両借り切って、ミルテラ駅にまで運んでもらってそこから陸路よ。

 唯一の救いはミルテラからこのユーバシャールまで、マクファーレン領の領地で湯治観光名所の街道沿いなもんだから、警備厳しくしてるんだよね。盗賊とかの物取りには厳しく取り締まりをしてる。だからこの街道、通行料かかるんだよねえ。でも安全には代えられませんよ。

 マクファーレン侯爵……出来るお方だ……。


 あ~あ~河川があれば、船作っていけるんだけどなー。そしたら沢山荷物運べるし、輸送もスピーディー。

 でも河川があっても魔獣の存在が、が、が……。ファンタジー世界いぃいぃ!! うぐぐって感じ。

 とにかく物資を遠方に運ぶにはこの長距離、まじでなんとかしたいわー。

 わたしがこうして領地に来るのも時間がかかるしさ。

 ……だから目の前にいる、顔はいいけど、いけ好かないブレイクリー卿のスカイウォーク社には期待してんのよ。頼むよ? いい道作ってよ?


「人口が一気に増えましたから……多分これからも増えるでしょう。人間食べないと生きていけないんですから、少しでも美味しいものを特産にしたいと思います。領地開発に携わってくれる方のモチベーションも上がりますし……あと、せっかく湖があるので、水耕栽培する穀物を試しに作ってみたいのですが……」

「そんなことも考えてるのかい?」

「とりあえず、作れそうなものは作ってみて、上手くいきそうなものは特産品にしていく方向で。伯爵様がご領主となる土地は、豊かになると、領民にも理解させていきたいです『住めば都』という言葉が遠い東の国にもありますが、ユーバシャールを『都』にしましょう」


 ユーバシャールの畜産業は、ダーク・クロコダイルのせいであんまり発展してないんだけど、家畜の質はいいのよ、大きく育つし、肉質も悪くないんだ。

 のびのび放牧させるからなんだろうな~。

 実際、今日の食事に出された牛肉のワイン煮とかも、美味しゅうございました。

 とにかく、わたしの持参金もどきのウィルコックス領の食料支援だけだと心もとない。領地は広いしやりようはあるんだから、頑張って、食料自給率上げてこー。おー。


「うん。やっぱりグレースは頼りになるな」


 伯爵様はアメジストの瞳を細めて微笑む。

 わーい! 褒められた!

 わたしと伯爵様がお話してると、ブレイクリー卿はまじまじとお皿とわたしを見比べている。

 何よ、そんな顔したってお代わりなんかないですよ。

 それにしても……ブレイクリー卿、がっつり食べたわね。



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