第30話 ドマスの屈辱【ざまぁ!】


 レルギアに負けたドマスはしぶしぶFクラスへの転落を同意した。


「くそうこの僕があんな奴に負けるなんて……絶対に卑怯な手を使ったに違いない……!」


 文句をいいながらも、仕方がないのでFクラスへと向かう。

 だがその歩みは重かった。


「ああ、お父様になんといわれることか……。まあいい。僕の実力ならすぐにまたAクラスへと戻れるさ……!」


 ドマスは自分で自分を元気づける。

 すると不思議と足取りも軽くなった。


「やあFクラスのみんな! 僕はドマス・イデオット。まあ名の知れた王家だから知っているものも多いだろう。だが決して緊張する必要はない! 僕には気さくに接してくれていいからね?」


 Fクラスの扉をくぐり、意気揚々とそう告げる。

 だがFクラスの生徒たちの反応は、ドマスには思いもよらぬものだった。


「なんだ……? アイツ……」

「さぁ……?」

「なんか前髪キモくない?」

「あ、たしか噂できいたけど、彼、レルギア君に負けたそうよ」

「えーそうなんだー。まあレルギア君には負けるよね! さっすがレルギア君!」


 ドマスはあっけにとられてしまう。


(な……なんだ……?)


 彼はしばらく考えて勝手に結論を出した。


(……っは! そうか、彼らはFクラスにいるような落ちこぼれの下級貴族や平民ばっかりだ。だから僕のことを知らなくても無理はない! まあそのほうが僕としても気楽でいいな!)


 そんなことを考えて、ドマスが扉の前で立ち往生していると、後ろから膝をカックンとされた。


「おっとっと……」


 ドマスが振り向くと、そこにはFクラスの担任教師、ハリヤマ・ハリネズミがいた。


「おい、お前。今日からFクラスなんだってな。そんなところで立ち止まるな。通行の邪魔だ」

「は、はい……すみません」


 若干邪険に扱われ、ドマスはムカッとするが、まあ教師の言うことももっともなので素直にその場を退く。

 そして自分の席へと歩を進めた。


「よし、今日は剣術の日だったな……演習場に移動するぞ」


 ハリヤマがそう言って、みんなは教室を出た。


「おいドマス・イデオットお前ちょっとこいつと試合してみろ」


 ハリヤマが指名したのはドマスとFクラスの太った小汚い生徒だった。


「Fクラスのみんなに元Aクラスの僕の実力を見せつけてやりますよ!」

「ふん、Aクラスを落ちこぼれたくせによく言うぜ! コテンパンにしてやる」

「な……! 僕は決してAクラスを落ちこぼれたのではない! レルギアとの賭けに負けただけだ!」

「ま、どうでもいいけどよ」


 太った生徒はドマスを見下して挑発した。

 ドマスとしては絶対に負けるわけにいかない。気合を入れて剣を握る。


「よし! 試合開始!」


 ハリヤマが言うと同時に、ドマスは魔力を練った。


「うおおおおおおお火炎弾ファイアボー――!」

「おいおいちょっと待った待った!」


 だがドマスの攻撃はハリヤマによって静止させられる。


「なんですか先生……」

「これは剣術の授業だから魔法は禁止だ」

「……っは! バカな! Aクラスでは剣術の授業だろうが魔法を駆使して戦うんですよ!?」

「Aクラスではそうかもしれんが、これはFクラスの授業なんだ……。そんな高度なことはまだ早い」


 ドマスは自分の実力が軽んじられたような気がして憤慨する。


「そんな軟弱なことを言っていては成長しませんよ! それに僕は理事長の親戚なんですよ?」

「それがどうした……? これは俺の・・授業だ。俺の言うことがきけないんなら、出ていくか?」


 ハリヤマは一切ひるまずに、部屋の出口を指さした。


「……ふん! 従いますよ……」


 ドマスは気分が悪かった。だがとりあえずここはしぶしぶ従う。


「よし、じゃあ気を取り直してもう一度試合開始だ!」


 再びハリヤマが試合開始を告げる。


「まあいい、剣だけでも僕が勝つのは目に見えてるからな!」


 ドマスも再び剣を構える。


「うおおおおおおおおおおお!!」


 ドマスは剣を大降りにして太っちょ生徒に襲い掛かる。


 ――スカッ。


 しかしドマスの剣は大きく空振りに終わる。


「あっれぇ……?」


 太っちょも思わず声を上げて驚く。


「……っく、今のは少しミスをしただけだ……」

「ふん、そのミスが戦場では命取りなんだよ!」


 ――ドス!


 太っちょ生徒の攻撃が、ドマスに直撃して、ドマスは倒れた。


「勝者! カイン・ホード!」


 ハリヤマが勝者を告げる。


「ふははははっははははははは!! 俺の勝ちだ! やっぱAクラスっていっても落ちこぼれた奴は大したことねぇなあ……」


 カインが勝ち誇ってドマスを挑発する。


「……っく」


 ドマスは地に跪いて悔しがっている。


「あのドマスとかいう人よっわー」

「口だけだったわねぇ……」

「あのデブ……カイン・ホードって名前だったのか……」


 観戦していた生徒たちが口々に感想をこぼす。


「くそう……僕も魔法さえ使えれば……」


 まだ負けを認められずにうじうじしていたドマスに、ハリヤマが駆け寄って言った。


「ドマス、お前は魔法に頼り過ぎなんだ……。才能はあるんだからこれから俺が鍛えなおしてやる」

「ふん! お前のような落ちこぼれ教師に教わることなんてない!」


 ドマスは捨て台詞を吐くと、急いで演習場から出ていった。


「あ、おい!」


 ハリヤマが呼び止めるも、無駄のようだ。

 やはりFクラスで授業を受け、しかもコテンパンにやられてしまうなどということは、ドマスにとってプライドが許さないのだ。

 ドマスのようにコネでAクラスになったものの中には剣術が苦手なものも多かった。

 彼らも貴族だから幼少期から剣術を習ってはいるものの、それでも実戦経験の乏しさは仇となる。

 反対にFクラスにいるような平民出の生徒は、喧嘩慣れしていることもあって剣術のほうが得意だったりする。


「……ったく……俺、教頭に怒られたりするのかな……?」


 ドマスを見送ったあと、ハリヤマはひとり愚痴をこぼした。

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