第22話 実技試験―剣術「俺にとっては常識なのだが?」


 実技試験の第一科目は剣術だった。

 女騎士であるティナには簡単なものだな。

 ライゼのようなお姫様に剣術ができるのかは疑問だが、意外なことに、ライゼは幼少期から王族御用達の剣術を学んでいるそうだ。

 そういえば、俺は剣なんて握ったことがないな。

 今まで戦闘で苦労したことがないから、武器を持つなんて発想がなかった。

 アイリの持っていた聖剣とやらは、掃除道具になってたしな。

 俺にとっては武器イコール掃除道具って感じだ。


「おや、君は剣を持っていないようだな。貸出武器ならこっちで借りられるぞ」


 試験官が俺にそう言って話しかけてくる。

 試験開始間近だというのに、手ぶらで突っ立っているのは俺とカンナだけだった。


「いや、問題ない。武器は自分で用意する」

「そ、そうか……? アイテムボックスでも持っているのか……?」

「いや、アイテムボックスではない」


 俺は空中に、どこからともなく剣を出現させた。

 ちなみにこれは創造のスキルでもない。

 単なる魔法の応用現象だ。

 それを見た試験官は、冷や汗をかいて驚いた。


「な!? い、今のは!? アイテムボックスでないとすると……転移魔法の一種か? どこから取り出したんだ……!?」

「いや。転移魔法でもない。この剣は、いま作った・・・・・

「は……?」


 初めて魔法を見たとでもいうような、そんな顔をする試験官。

 まあ、剣術試験の試験官だったら、魔法に疎くても仕方がないのか……?


「ちょ、ちょっと! まったく意味がわからない。俺に説明してくれないか?」


 試験官は俺のしたことに興味津々の様子だ。

 仕方ない、説明してやるか。


「よし。まず、魔力を練るだろ?」

「あ、ああ……」


 俺は手元で棒状に魔力を練って見せる。

 魔力を視認できているようなので、どうやらこの男も魔法が使えないというわけでもなさそうだ。


「ちょ、ちょっとまて……今魔力の形状を変えたのか……!?」

「え……ええまあ。でも、こんなこと、普通でしょう?」

「本来魔法を使うための魔力を、こんな使い方をするなんて……初めてみたぞ……?」

「そうなのか? 俺にとっては普通なんだが……」


 本来魔法を使うための魔力――か。

 実際はその逆なんだがな。

 魔力っていうのは本来もっと自由なもので、人間の根源的なエネルギーそのものだ。

 だからこそまあ、その魔力がゼロだった俺は赤子のときに捨てられたりしたわけだが……まあそれはいい。

 その魔力をより扱いやすくするために、魔法が生まれたという歴史だったはずだ。

 現代人はそのことをすっかり忘れているようだが……。

 少なくとも俺は、アイリからそのように教わっている。


「そして棒状にした魔力を、具現化させる。これでまあ、人をこのままぶん殴っても攻撃できるようになるわけだ」

「ちょ、ちょっと待て、魔力を具現化……!? な、なにを言っているんだ……!?」

「いやだから、普通の魔力のままだと、物理的な攻撃力はないだろ? だから、具現化させて触れれるようにしたんだ」

「魔力を……触れるだと……!? い、意味がわからない……」


 マジか、こいつ魔力の具現化も知らないのか……。

 もしかしたら、外の世界の魔法のレベルは、俺の想像よりもはるか下にあるのだろうか。

 魔力の性質変化や具現化といった、簡単な魔力操作なんて、基本中の基本だと思っていたのだがな……。

 まあ、魔法さえ使えればそれでいいという考えなのかもしれない。

 でも、基本を押さえたほうが魔法の威力や精度も各段に上がるというのにな。


「でもまあ、棒状の魔力を具現化させただけだと剣と呼ぶにはあまりにも不格好だからな。そこで、魔力の形を形状操作で剣の形に変えるだろ?」


 俺はちょちょいのちょいで、魔力をかっこいい剣の形に変えて見せた。

 アイリの倉庫でいろんな聖剣を目にしているので、かっこいい剣の見た目のストックには事欠かない。

 適当な聖剣の見た目をパクって、それそっくりの魔力剣を作り出す。

 まあ、俺の魔力のほうがそこらの聖剣よりも威力も上だしな。


「ちょっと待て……もう全然なにがなんだかわからないぞ……。ついていけない……」

「それだけじゃないぞ? 次は魔力の材質変化を使って、剣とまったく同じ材質に変化させる。これで魔力を消費するだけで完璧な剣のレプリカの完成だ。まあ、俺の魔力の方が剣よりも威力が上だから、レプリカといいながら、完全な上位互換のコピーだな」

「どういう仕組みなんだよ……」

「だから、今説明した通りなんだがな……?」


 どうやら俺の話は高度すぎて、ちっとも理解されなかったようだ。


「それで、俺のこの剣で試験を受けることは問題ないか?」

「ああ、もういい……好きにしてくれ……」

「よし」


 俺は魔力から作りだした剣で無双した。

 剣術の試験は対戦形式で腕を見られるものだったが、正直、俺の敵になる奴は誰一人もいなかった。

 なにせ相手は市販の剣や、よくて家に伝わる聖剣とかだ。

 俺の剣と打ち合えば、まず間違いなく刃が負ける。

 剣を失いたくないあまり、棄権する奴もいたな。

 俺はあっさり剣術試験をクリアした。

 ちなみに、カンナも魔王城から魔剣ダークヴルムを持ち出してきていたようで、あっさりと他の受験生を蹴散らしていた。

 次の実技試験は、いよいよ魔法の実技のようだ。

 俺にとって魔法は、剣術よりも大得意。朝飯前だ。

 さっきからの試験官の反応からしても、この国の魔法水準はそれほど高くない。

 正直、今から余裕で合格できそうだと思ってしまうが、まあ油断はしないでおこう。

 なにが起こるかはわからないのだからな。

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