第12話 あっさり解決しちゃいました
「魔王は別に世界を滅ぼす気なんてないと思うぞ……?」
「は……? れ、レルギア殿、なにを言って……」
魔王というやつが俺の知ってるやつと同一人物であれば、問題はすぐに解決するはずだ。
まああんなバカでかい魔力を持ったやつ、他にいないだろうから、あいつで間違いない。
「俺、魔王と知り合いだからきいてみてやるよ」
「そ、それはいったいどういうことなんだ……!?」
ティナは終始困惑を隠せないでいる。
そんなに驚くようなことなのかな?
「魔王って、カンナヴェイル=ガルガンティアのことだろ?」
「ま、魔王のフルネームまで知ってるのか!? た、確かに、魔王カンナと呼ばれてはいるが……」
「そいつなら、大魔境に住んでるぞ?」
「は……?」
大魔境には、他にも破壊神だの四天王だの、いろんな二つ名を持った奴らが住んでいる。
人間は誰一人として立ち寄らないような場所だが、魔人や悪魔の類は結構な数が暮らしている。
まあどいつもこいつも人付き合いの悪い連中だから、めったに顔を合わせることはないけどな。
それに、大魔境はとてつもなく広いから、普通にしていたらまず会わない。
俺とカンナは前に何度か遊んだことがあった。
アイリがカンナの親と知り合いで、小さいころに何度か一緒に食事をしたことがある。
外の人間との交流はなかったが、アイリはよく俺をそうやって連れ出してくれたっけ。
「じゃあ、さっそく呼んでみるわ」
「え……?」
俺はカンナにだけわかるように魔力の波長を合わせた。
そしてそれをカンナのいる方角に向けて飛ばす。
するとそれを受け取ったカンナが、すぐに俺のもとまでやってきた。
どうやら俺のことを覚えていてくれたみたいだ。
――シュン!
「おうおう! なんだなんだ!? 私になんの用じゃ!?」
現れたのは、赤紫の髪をツインテールに結んだ可愛らしい美少女だった。
あれからカンナも成長したみたいだが、胸のほうはそこまで成長しなかったらしい。
体形はアイリよりさらに幼く、そのくせ態度は馬鹿でかい。
「こ、こいつが……魔王……!?」
ティナとライゼはカンナの見た目が意外だったらしく、目を丸くして驚いている。
まあ、俺も最初はこんなちっこいのが魔王だなんて、信じられなかった。
カンナが自分を魔王だと言ったとき、子供のままごとかなんかだと思ったもんなぁ……。
だけどまあ、俺が魔力に覚醒して、こいつの魔力をちゃんと感じられるようになってからは、それが本当だとわかった。
そういう俺も、一応竜王なわけだしな。
「なー、カンナ。久しぶりだな」
「おう! レルギアか! 元気そうじゃの!」
「お前さぁ、確か魔王だったよなぁ?」
「そうじゃ! 私こそが崇高なる魔王である! それがどうしたか……?」
うーん、なんだかこいつの口調、アイリに似ていて、アイリの顔がちらつくなぁ……。
アイリが青色で、カンナがアイリの赤バージョンって感じだ。
どうにもこいつと話すのは、調子が狂う。
俺は単刀直入に問いただす。
「お前って、人間滅ぼすつもりとかあったっけ?」
「んにゃ? 人間のことなど、正味どうでもいい」
「だよな。……だってさ」
俺はティナとライゼの顔を見やる。
二人はまったく信じられないというようすで、口を開けて呆けている。
ぽかーん、と顔に書いてある感じだ。
「そ、そんなはずは! な、なら今暴れている魔王軍はどうなっているんだ!? それに、魔王といえばもっとこう……邪悪なのを想像していたのだが……」
とはいっても、こいつが魔王なのだから仕方がない。
カンナの両親は、とうの昔に魔王を引退して、今は隠居しているしな。
「暴れている魔王軍? そんなの我は知らんな……?」
「し、しらばっくれるつもりか!?」
しかしカンナの言い方にはなんの含みもなく、単に本当に知らないだけみたいだ。
そもそも、嘘をついたりできるような奴でもないしな。
「第一、彼女が本当に魔王なのか!? 我々の把握している魔王は、こんな可愛らしい少女ではなく、漆黒のローブを纏った邪悪な初老の魔術師なのだ!」
ティナが簡単な絵を描いて俺に説明する。
たしかに、その情報はカンナとは似ても似つかないな。
その絵を見たカンナがなにかを悟ったようで、急に憤慨しだした。
「こやつは私の部下のアイヘンベルクというやつじゃ! まさか魔王の名を騙って、人間に戦争をしかけておったとは……」
「なるほどな、魔王があまりに人間に興味ないのを逆手にとって、勝手をやるやつが現れたってことか」
「許せん……! 人間の命などはどうでもいいが、私以外のやつが魔王を名乗るなど……!」
「じゃあ、あとはカンナに任せていいか?」
「おう! この命知らずを消し炭にしてやるわ。ついでに他の部下にも、人間たちに過度な干渉はしないように言っておいてやろう」
「おう、頼む」
それだけ約束すると、カンナはあっという間に部下を殺しに飛び去ってしまった。
「あ、あっさり解決しちゃいましたね……」
あまりにあっけない結末に、ライゼが腰を抜かしてしまった。
ティナも拍子抜けという感じで、言葉を失っている。
「じゃあこれにて一件落着でいいか?」
「あ、ああ……これで魔王軍の攻撃が本当に止めばいいのだが……」
「ま、大丈夫だろ。安心しろ、カンナは悪い奴じゃないよ」
「魔王なのにか……」
「魔王なのにだ」
別に魔王だろうと、あいつはそもそも人間に興味ないからな。
それに俺も竜王だけど、人間の命なんてあまり興味はない。
俺が興味あるのは、おっぱいだけだ。
「それにしても、今のほんの一瞬の話し合いだけで魔王から世界を救ってしまうとは……レルギア殿はどこまでも規格外だな……」
「本当です。レルギア様には、いつまでも驚かされてしまいますね」
二人して俺を変人扱いかよ。
「我々はレルギア殿に救われてばかりだ。つくづく運がいい」
「レルギア様には感謝してもしきれないですね」
なんだかそこまで言われると照れるな。
俺は別に、特になにもしたつもりはないんだけどな。
「まあ、俺はおっぱいさえ揉めたらそれでいいからな。よし、じゃあ約束通り二人は俺の嫁になってくれるんだったよな?」
「え、ええまぁ……その約束でしたね。私も、レルギア様と婚約できるなんて……うれしいです」
「よし、じゃあさっそく子作りをしよう!」
「へ…………?」
ライゼたちは生娘らしく、顔を真っ赤にして戸惑っていた。
可愛い。
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