第2話 《魔力解放》なんかでりゅ!!!!


 ある日のこと、アイリが俺に魔法の使い方を教えてくれるという。

 そしてその前に、まずは俺のこの『魔力ゼロ』状態を解決する方法があるのだという。

 そういえば、毛穴がどうとかって言ってたな。

 魔力の泉にアクセスができないだけで、俺にも潜在魔力が眠っているとか。


「レル、今からお前の魔力栓を解放する」

「それを解放すると、どうなるんだ?」

「お前の身体に眠っている、生命力としての魔力を使えるようになるじゃろう。だが、今まで魔力ゼロだったからな。いきなり魔力を浴びると危険だ」

「そうなのか?」

「ああ、だからこの歳になるまで魔法の話はしなかった。今のレルなら、魔力を制御できるじゃろうと思ったから話したのだ」

「俺って魔力ゼロなんだろ? だったらその魔力栓とやらを解放したところで、微々たる魔力しか得られないんじゃないのか? それなら、そんなに心配することもないだろう」


 俺は思った素朴な疑問を口にする。

 たしかにいきなり魔力を手にしてしまったら、暴走したりする危険性があるっていうのは、なんとなくわかる。

 だけど、アイリも目の前についていることだし、大げさな心配のような気もする。


「なにを言っておる。レル、魔力解放をすれば、お前の魔力はとんでもない量になるんじゃぞ?」

「え……? そ、そうなのか?」


 俺の魔法適正がすごいって話はきいたけど、魔力量まで多いなんてきいてなかったぞ?

 魔力ゼロの俺が、ちょっと蓋を外すだけでそんなことになるものだろうか?


「たしかにもともとのお前の魔力は並みの人間以下じゃった。しかし、レルギアと名付けたのは他ならぬ我じゃ」

「ああ、そうだな。それがどうしたっていうんだ?」


 自分でも、この名前は気に入っている。アイリには本当に感謝していた。

 捨てられた俺を、ここまで育ててくれてるんだからな。


「いいか? 名付けという行為には、特別な意味がある。特に上位種の生物が、下位の生物に名前を与える場合はな。ようは、その名付け親の眷属となるということじゃ」

「っていうことは、俺はアイリの眷属なのか。それで、具体的にはどうなるんだ?」

「眷属となったものは、上位種に進化したりもする。特に、我ほどの高位のドラゴンに名付けられたお前の場合はな。それに伴って、魔力の量なんかも飛躍的に向上しているはずじゃ」

「じゃあ、俺は人間離れした能力が使えるってことか?」

「ていうか、人間ではない」

「は……?」


 速報。俺はもはや人間ではないそうです。

 まあ、人間扱いされずに捨てられた結果今に至るわけですけども。

 そういう意味じゃなく、マジで俺は人間じゃないのか?


「我に名付けられたことで、お前は人間の上位種に進化しているも同義じゃ」

「おぉ……マジか。ドラゴンの眷属ってことは、俺はあれか? 竜人族とかそういうやつなのか?」


 竜人族という種族の話は、俺も前にきいたことがある。

 ドラゴンとゆかりの深い種族で、非常に高い知能と魔力を持つそうだ。


「いや、それも違う。他のドラゴンに名付けられてたらそうじゃったかもしれんが、お前は他でもない我に名付けられておるからの。お前は、『竜王』じゃ」

「りゅ……竜王……!?」


 なんだそれ……。俺は知らぬ間に王を冠する生物になっていたのか……。


「ようは竜人族のさらなる上位種。しかもお前しかいない、ユニーク種じゃ!」

「おお……! なんかすごい。でも俺が王かぁ……。じゃあ、アイリが姫ってことか?」


 俺は何の気なしに、そう言っていた。

 すると、アイリは珍しく頬を赤く染めて、少女のように照れだした。


「な!? わ、わわわ我は姫とかいう柄じゃないわい! おかしなことを言うでない! もう……! レルはとんだマセガキじゃな……! ぷんすか」

「あはは……ごめんごめん」


 アイリは居住まいを正した後、軽く咳ばらいをして話を元に戻す。


「おほん……では気を取り直して。今からお前の体内に魔力を流し込む。それで、無理やり中から魔力栓をこじ開けるのじゃ!」

「おう、たのむ!」


 真剣な顔つきで、アイリが俺に近づいてくる。

 長く一緒に暮らす家族とはいえ、ここまで顔を近づけられると、絶世の美少女なだけあって、さすがに照れる。


「お、おい……なにするんだ」

「いいから、じっとしておれ」


 アイリの吐息が、俺の首筋に当たってぞわぞわする。

 ふわっとしたいい匂いが、鼻先をくすぐる。

 そしてそのまま体を寄せ合って――。

 アイリは俺の首筋にガブリ、と嚙みついた。


「いてぇ……! なにすんだ……!?」

「へっへっへ。これが『龍の噛みあと』じゃぞ? よろこべ、竜の王よ」


 なにやら芝居がかった声色で、アイリが意味深なことを言った。

 すると、その龍の噛みあととやらが、鈍く光を帯びて、俺の身体に紋章となって深く刻み込まれた。

 その紋章から、全身になにかが流れこんできて、あふれ出しそうになる。


「な、なにこれぇ……!?」

「いいから、そのまま身をゆだねるのじゃ!」

「な、なんか来る……!? なんかでりゅううううう!!!!」

「我慢しないで! そのまま出すのじゃ!」

「うわあああああああ!!!!」


 俺の全身から、魔力が噴き出した。

 なぜか意図せずにおねショタ的セリフをやり取りしてしまったが……。ていうかアイリのやつこれがやりたかっただけだろ……。

 とにかく、俺の全身に力がみなぎる。みなぎっていた。

 今までろくに感じたこともなかった魔力が、ありありと感じられる。


「これが……俺の魔力……」


 今まで赤子のとき以来、他の人間に会ってないので基準はわからないが……とにかくこの魔力がすさまじい量だということは、嫌でもわかる。

 森の中の他の生物たちと比べても、明らかに異常な量の魔力だ。

 おそらく普通の人間では、一生かけても到達できないほどの領域。


「ぐへへ、ショタの魔力を開通させるという、かねてからの夢が叶ったわ」

「なんちゅう夢持ってたんだよ……」


 そもそもショタの魔力開通とかいう二ッチすぎる謎概念はいったいどこから受信したんだよ……。

 俺はショタコンドラゴンにあきれながらも、自分の魔力量に恐れおののいていた。

 これほどの力、俺に扱いきれるのだろうか。

 そんな俺の不安な表情を察したのか、アイリは。


「大丈夫じゃよ。これからその制御を、我と学んでいこう」

「はい。よろしくお願いします」

「なんじゃ、畏まりおって」

「いや、一応魔法の師匠だからな。それに、修行するんだろ?」

「ああ、そうじゃな。ビシバシいくからの! ショタをしごけるまたとない機会じゃ!」

「結局それかよ……」


 この日から、アイリによるスパルタ魔法教室が始まった。

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