悪魔にできる精一杯の正義/お題:幼い悪魔/制限時間:15分
幼い悪魔は不思議に思っていました。なぜ、悪魔は悪いことをしなければならないのかと。
大人の悪魔は皆、口を揃えていいました。悪を働くのが悪魔だ、たくさんの悪を働いてこそ一人前の悪魔だ、と。
幼い悪魔は大人の悪魔に言われて、悪事を働こうとしました。人間に悪さをしようとしたのです。しかし、幼い悪魔はそれができませんでした。幼い悪魔には感情があったのです。悪魔には普通、罪悪感は存在しません。良いことと悪いことの区別はついても、悪いことを行うことになんの躊躇いもないのです。ですが幼い悪魔は違いました。悪魔にして、罪悪感を抱くことができたのです。
大人たちは幼い悪魔のことを、出来損ないだと罵りました。そして幼い悪魔は、自分は出来損ないだと信じて育ちました。
幼い悪魔は成長し、もう幼い悪魔ではなくなりました。でも、相変わらず悪さをすることはできないので、まだまだ一人前とは呼べません。そんなある日、悪魔は人間界へ仕事に出かけました。今日という日は悪魔としての職務を果たしてみせると心に誓い、人のたくさんいる小学校へと向かいました。
小学校には子どもたちがたくさんいました。さて、誰に悪さを働こうかとうろうろしている時、悪魔はトイレの方から何やら不穏な声を聞きつけました。
「ほら、いいから舐めろよ!」
「で、できないよ……汚いもん……」
「ぐだぐだ言うな!」
五、六人の子どもたちが、ひとりの少年を囲んで輪になっていました。中心にいる少年はとても気弱そうで、おどおどしています。
(いじめ……)
悪魔は心が痛くなりました。少年を助けようと手を伸ばしたところで、慌てて自分は今悪さをしなければならないことを思い出しました。今ここで少年を助けるのは悪いことではなく、良いことです。悪魔はがっかりして、立ち去ろうとしました。でもやっぱり思いとどまって、今度はいじめている子どもたちの方に近づきました。
(えいっ!)
悪魔は心を決め、子どもたちに向かって指を振りました。すると、歩き出した子供の一人が突然転び、まるでドミノ倒しのように次々と子どもたちが転んでいきます。さらに、そばにあったバケツが倒れて子どもたちはみんなずぶ濡れになりました。無事なのはいじめられていた少年だけです。
(よかった……のかな?これで……)
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