『未来』

佐伯佑

~人類滅亡の黙示録~

――このまま人口の増加は収まらず、近い将来に人口大爆発を引き起こすだろう。


 世界の総人口がいよいよ百億目前へと迫る中、国連はそのような懸念を発表した。曰く「食糧生産が比例的であるのに対して人口増加は指数関数的であり、農畜産物の供給が追いつかず、世界的飢餓に陥るだろう」と。だが多くの専門家の予想に反し、ある時代を境にして人類の個体数は減少し始める。


 予兆はあった。人口増加を支えていたのはその全てが発展途上国であり、先進国はむしろ高齢化と共に出生率は『2.0』を大きく下回っていた。そして後進国もまた文明の発展が追いつくと、先進国を模倣するようにやはり同様の道を辿るのだった。


 人口減少による国力低下を為政者たちは何も指を咥えて眺めていたわけではない。


 かの共産主義国は過去政権の過ちを認め『一人子政策』ならぬ『兄弟姉妹政策』を打ち出した。だが結婚や子育てを含む人生設計は個人の裁量によるところが大きく、そこに政治が介入しようと考えること自体が間違いなのである。


 またある国は同性愛者を非生産的であるとし、その存在を取り締まることにした。これについては差別的だと世界中から非難を浴びた。そもそも少子化における要因は性的マイノリティのみに起因するものではなく、文化の成熟による多様なる可能性が人類に生物であることの自覚を失わせ、繁殖以外の選択肢を与えたのだった。


 彼らの傲慢さは今に始まったことではない。それは己の属する種族を「霊長類」と名付けたことからも分かる。他生物が未だかつて獲得し得なかった理性と知性こそが万物の首長たる人類を恒久に繁栄させるのだと信奉して。


 かつて人類滅亡はその主たる原因が人間の愚劣さによるものだと考えられていた。あるいは大規模な自然災害か。どちらにせよ不断の努力により排除可能である、と。だが皮肉なことに、戦争でも疫病でもなく豊穣こそが人類を収束へと導くのである。


「グレートフィルター仮説」とは、宇宙人の実在に関する有名な思考実験であるが。それを持ち出すまでもなく、人類は今まさしく進化の障壁にぶち当たったのである。

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『未来』 佐伯佑 @hakujinsya

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