婚約0日婚

天満仁乃

第1話


「完成しました」というメイクアップアーティストの言葉で、純白のドレスに身を包んだ私はゆっくり目を開ける。


鏡にうつる姿は、普段よりも目鼻立ちの際立つメイクを施されていた。

丸く縁取りされた瞳を囲むまつ毛はマスカラで強調され、チークや口紅も自然の頬の色よりも赤いものが差されている。


普段はナチュラルメイクばかりしているから、自分の姿の変化に軽く目を見張る。


——これがいわゆる“舞台衣装”というものなのかな。


見慣れぬ姿に、これから自分の進む道がいかに非凡なものかを改めて実感させられた気がした。


「たいへんお綺麗ですよ。今日参列される方は皆さん、本郷ほんごう様に釘付け間違いなしです。本当におめでとうございます」

「ありがとうございます」


メイクアップアーティストの言葉に、私は赤く塗られた唇に笑みを浮かべ、会釈を返した。


たしかに、こんなにがっつりメイクをしていたら、昔馴染みの友達や家族には驚かれるかもしれない。

馬子にも衣装じゃなくて、茉莉花まりかにもプロのメイクだな、なんて?


あはは、と心で笑いながら、「それでは、式まで少々お待ちください」と言って出ていくメイクアップアーティストを見送った。


壁いっぱいに広がる窓から外の景色を見ると、どこまでも青空が広がっている。

文句のつけようがないほどの、“門出の日”だ。


真っ白な長手袋の中でじわりとかく汗を誤魔化すように、手と手を合わせギュッと握り締める。


緊張してるんだな、私も。

そりゃそっか。今日、私の夢が叶って、新しい人生の一歩を踏み出すことになるのだから。


私の夢は、子供の頃からずっと『お嫁さん』だ。それはただの夢ではなく、決められた運命でもある。


幼い顔つきで若く見られることが多く、まだ学生かと問われることもあるけれど、この前の誕生日で既に私は二十五歳になった。


世間では結婚するには早い時期と言われるかもしれない。でも私にとってこの結婚は、長年の誓いがついに果たされる瞬間だった。


あの日から、二十一年も経ったんだなぁ……、と自分の人生の転換点となった日を思い返すと感慨深くもなる。


扉から小さなノック音が聞こえ、「どうぞ」と返答すると、そこから入ってきたのは待機していた母だった。


母は私の姿を見ると、目を輝かせつつ近づく。その目もとに浮かぶ涙は、晴れ姿の娘を見られた感動と、手塩にかけた娘を手放す寂しさの両方が含まれている気がした。


「茉莉花、すごく綺麗よ! これなら、本郷家のみなさんもきっと喜んで迎え入れてくださるはずだわ」

「ありがとう、お母さん。まぁ正直、ここまで来て、『こんな嫁はいらない』って言われても困っちゃうけどね」


私の言葉に、母も苦笑いを浮かべていた。



私たちの家族は、とりわけ裕福な家庭ではない。

父は下町の工場の社長で、家電の部品を作っている。従業員十数人ほどの小さな工場だ。


そしてその元請である本郷グループの後継ぎと、今日、私は結婚することになる。


本郷家は、遡れば明治時代から続く名門一族で、今では家電製産、ホテル経営、飲食店経営まで手を広げる本郷グループの総本家である。

その分家の分家……、ほぼ末端にいるのが私たち一家だ。


家系の繋がりがあるとはいえ、そんな超一流の御曹司と平凡一家に生まれた私。

普通であれば交わることのないふたりを引き合わせたのは、本郷家に古来から続くしきたりだ。

それは、“本郷の家を継ぐ男は分家に生まれた娘から嫁をもらうこと”、というもの。


その娘は『本郷』の姓を名乗っており、年齢は本郷家の世継ぎとの差が十才未満の者、という規定だけが存在している。


もちろん、分家を名乗るためにもそれなりの条件があり、『本郷』という姓を名乗っていれば誰でもなれるわけでもない。

それこそ、当時は茉莉花の父が営む工場の売り上げはそこまで好調というわけではなく、次の代で分家でもなくなるだろう、なんて話もされていたらしい。


とはいえ、本郷の姓を名乗る分家に生まれた娘で、年齢の規定を満たすのは、私ひとり。


そのため、拒否権も与えられぬまま私は本郷の婚約者となったのだ。


「今思い出しても、不思議な気分。たしか、四歳になってすぐくらいだったよね。婚約の話が来たのって」


私の問いかけに、母は「そうだったわねぇ」と懐かしそうにつぶやく。


あの日の記憶は、いまだに鮮明だ。それくらい、自分には衝撃的だったということかもしれない。


私が幼稚園から帰ると、見知らぬ男性がソファに座っていた。

彼は私の帰宅に気がつくと、素早く立ち上がり、ためらうことなく私のもとへ来てひざまずいて、『茉莉花様』と呼びかけた。

そして事情も理解できぬほど幼い私に、『おめでとうございます、あなたが義人よしひと様の婚約者となることが正式に決定しました』と告げたのだ。


現在の本郷の跡取りであり私の婚約者でもある、本郷 義人さんは、私の六歳年上。

後から聞いたことだが、その日は義人さんの十歳の誕生日だった。つまり、これ以上条件を満たす女児が生まれないことが確定したのがその日だったのだ。


まぁ、そんなことなんて知る由もない私は、訳も分からぬまま婚約者というものになり、それからの二十一年間は、彼の婚約者として相応しい女性に育つための人生を送ることになった。



礼儀作法や家事、茶道、華道などのお稽古ごとに至るまで。求められたありとあらゆる技術を身につけた。

それは全て、今日から始まる本郷家の嫁としての生活のためにやってきたものだ。


四歳の時に決められた婚約者と実際に政略結婚だなんて……、周りから見れば時代遅れなのかもしれない。

でも、私にとってそれは、自分の前に用意された道を必死で進む人生だった。


「ね、お母さんはこの婚約の話を初めて聞いたとき、どう思った?」

「え? そうね~……、パパが本郷グループの分家のひとつっていうことだけでも驚きだったけど、本郷家を継ぐ男性は分家から嫁をもらうのがしきたりで、しかも今回はうちの娘をなんて。もちろん初めは信じられなかったわね……」


話を聞きつつ、私は鏡ごしに母を見つめていた視線を下へ逸らした。

母は私の後ろに立ち、そっと肩に手を置く。その顔は、結婚式前には似合わない、悲しげなものだ。


「茉莉花、本当にいいの? このまま結婚してしまって……」


心配そうに見つめてくる母親を安心させるため、ニッと歯を見せ大げさ気味な笑顔を浮かべた。


「何回も言ってるでしょ。私は物心ついたときから、本郷の嫁になるために育てられたんだから、今更そんなこと思わないってば」


肩に置かれた手に茉莉花は左手を重ね、鏡の向こうにいる母親に向かって明るめの声をつむぐ。


「それに、義人さんは優しい人だもの。会えばいつも穏やかに接してくれるし。きっといい旦那さまになってくれる。でしょ?」


私の言葉に、母も緊張の解けた表情を浮かべる。


そう、私は夢だったお嫁さんになるの、運命の相手と。その瞬間まで、あと少しなんだから。

私はひたすらそう自分に言い聞かせ、緊張で高鳴る鼓動を落ち着かせようとした。


するとそこに、強めのノック音が鳴り響く。「どうぞ」と告げると、素早くドアが開いて、同時に「失礼しますっ」と少々せっかちに聞こえる声が響いた。


驚いてそちらを見やると、そこにいた人物は本郷家に古くから仕える秘書の塚田つかださんだった。

わずか四歳の私に婚約の決定を述べ祝福をしたのも、他ならぬ彼である。

彼は切らした息を整えつつ、私たちを見据える。

いつも冷静沈着な彼にしては珍しいその行動に、私も母もただならぬ様子を感じた。


極力焦りを感じさせぬよう、ゆっくりと塚田さんに問いかける。


「塚田さん、どうかされたんですか? そんなに急いで……」

「茉莉花様、落ち着いて聞いてください。……義人様が、消えたんです」


塚田さんの言葉に私はかすかに目を見開いた。

表情に表れる部分は少ないかもしれないけれど、その瞬間、思考は完全に停止していた。


「茉莉花! 茉莉花! 大丈夫? 義人さんが消えたって……、そんな……」


しばらく放心している私の肩を、母がせわしく叩く。その衝撃に我に帰り、私はゆっくり深呼吸した。


義人さんが……消えた……。私は頭の中で、その言葉を復唱する。


意味はわかる。けれど、その理由は、意図は——。


いろいろなことが頭を駆け巡るけれど、脳にもやがかかったようで、思考力はなかなか正常に働いてくれなかった。

かろうじて理解できた中で、必死に言葉をつむぐ。


「その、義人さんが消えた、というのは……、どういうことなんですか?」

「……これが控室に残されていました」


塚口さんから差し出したメモを見て、めまいが起きそうなほどの衝撃を受けた。


そこには、数行の細い字が並び、


《すまない、茉莉花。君とは結婚できない》


と端的に書かれていた。


線が細いけれど温かみのある字は、見慣れている義人さんの字だ。

ただどこかへ行っただけ、という儚い希望さえ、その紙一枚に否定されてしまった。


「……本当なんですね。義人さんがいなくなったっていうのは」


私の問いかけには誰も答えなかった。それくらい、みんなショックを受けているということだろう。


私ひとつ深呼吸をしてから、先ほどまで腰かけていた椅子に座りなおした。


「まぁ、まずは落ち着きましょう。焦っても仕方ないですし、ね」


そう言ってニコリと微笑むと、塚田さんは心底信じられないと言いたげな、眉根をめちゃくちゃに寄せた顔をしてくれた。


「茉莉花様……、ショックでは、ないのですか?」

「ショックです。なんでよりによって、今日だったんだろう、って。結婚したくないなら、今まで何度だって言うチャンスはあったのになんで今日になって、って……、そんなこと考えちゃいます。でも、今それを考えても、何も解決しないなら、……もっと大事なことに頭を使わないと」


塚田さんは呆気にとられていたけれど、覚悟を決めたのか、姿勢を整えると真剣な面持ちで言葉を紡いだ。


「茉莉花様の言う通りです。まずは、今日の結婚式についてなんとかしなくては……」

「とは言っても……、中止、するしかないですよね」


新郎不在で挙式、なんて聞いたことがない。

しかも、参加者にとってこの式は義人さんと私の結婚式ではない。

本郷家次期当主の結婚式、だっだのだ。

それなのに、そのメインホストの次期当主がいないなんて、格好がつかないにも程がある。


「まず、私は本郷のお父様とお話ししてきます。そして、お客様のほうへ私と本郷のお父様とで、お詫びさせていただきます」


善は急げと私は立ち上がり、ドアのほうへ向かおうと足を踏み出す。


せめてこの時くらい、本郷の嫁として責務を果たしたい——そんな責任感が私を奮い立たせていた。


けれど、ただでさえ歩きづらく慣れないウェディングドレスを着ているのだ。その上焦って動いたせいで、私は案の定、という感じでドレスの裾を踏みつけ、前へと転がりそうになった。

視界が揺れ、体は勢いよく傾く。


「きゃあっ!?」

「茉莉花……!」


母の叫び声を聞きながら、私は倒れる衝撃に身構え目を瞑った。

けれど訪れたのは衝撃や痛みなどではなく、温かく柔らかいものに包み込まれる感触だった。


恐る恐る目を開け、自分がとても強い力で抱きしめられていることを知る。


「……危なかったな」

「…… 和雅かずまささん?」


和雅さんは私の体勢を整えると、肩に手を置き「大丈夫か?」とたずねてきた。

それに私は小さく頷きで答える。


彼の名前は、本郷 和雅さん。私の婚約者だった義人さんの弟にあたる。

年齢は私の五歳年上の三十歳。


彼は義人さんのサポート役として、本郷グループの経営、主にホテル経営を担当している。彼が担当するようになってから、ホテルの売り上げ成績は右肩上がりだという。


「ったく、いくつになってもそそっかしいな」


彼のため息が肩にかかる感触に、自分の体勢が客観的にどう見えるかを悟る。

私は床に座り込み、肩と反対側の腕を和雅さんに支えられている。私のウェディングドレスはビスチェタイプだから、彼の手のひらは私の素肌に直接触れていた。

私は両手を彼の胸もとにつき、必死で距離とった。


「か、和雅さん、ありがとう。助けてくれて。もう、大丈夫、一人で立てるから、離していいよ」

「何強がってんだ。足元フラフラなくせして。ほら、立つぞ」


彼は強引に私の体を抱きかかえ、立ち上がらせる。

和雅さんの言う通り、私の足は生まれたての子鹿並みに震えていて、とても一人では立っていられそうにない。

私は彼に抱えられたまま、連れていかれ、ソファに座らされた。


「……ありがとう、助かった」

「別に。ちょうど扉開いたらお前が倒れそうだった。俺が一番近かったから支えた。それだけだ。それよりも……」


和雅さんはしれっとした態度で塚口さんのほうへ向きなおった。


「兄貴の件は俺も聞いた。それで? 何かいい案は出たか?」

「案と言いますか……、茉莉花様が表に出て参列者に謝罪してくださるという程度しか……」


塚口さんの言葉に、和雅さんは私のほうへ視線をやる。それがまるで私を品定めするみたいなものだったから、私は体を縮こまらせた。


「茉莉花、本気か?」

「ほ、本気よ、任せて! せめて今日だけでも、本郷の嫁の務めを果たして見せるからっ」


私は彼に対し強気な表情で答えた。けれど、そんな私に対して和雅さんは安心した表情はしない。

念を押すように「大丈夫……」と呟く私を、和雅さんはジッと探るように見つめている。


「ダメだ、お前じゃ」


そして、彼はため息と一緒に、私の案をあっさり切り捨てた。

彼の対応に、私も塚口さんも、目を点にする。慌て気味に私は彼に説明を付け加えた。


「も、もちろん私一人じゃないわ。本郷のお父様にも出ていただく必要はあると思う。でも、私が責任もって……」

「お前が責任もつって、本気で言ってるのか? 参列者はただの一般人じゃないんだぞ。政界の大御所に、一流企業の社長、会長……、そんな奴らを前にしてお前、平静に説明できるのか?」


厳しい現実を突きつけられ、否が応でも怯んでしまう。


たしかに、本郷家が相手にしているのは、私の考えも及ばないような人たちだ。そんな人たちを招待し、実際に参加してもらえる。つまり、対等にやっていけるのが、本郷家。

それがこのグループの経済的立ち位置を表している。

それに対して私なんて、ただの次期当主の婚約者。

しかも、次期当主に逃げられてしまっているなんて。


……うん、私でも思う。こんな小娘に謝罪されても、なにも伝わってこない。


「じゃあ、どうすればいいの……。私じゃ、なんの力にもなれないなら、私どうすれば……」


顔をうつむかせ、悔しさで下唇を小さく噛む。


すると、目の前に人影を感じる。顔を上げると、和雅さんが足もとで跪いている姿が目に飛び込んできた。私は惚けた表情で、何度も瞬きを繰り返す。

まるで王子様がお姫様にダンスを申し込むみたいなそんな姿に、つい見入ってしまった。


「ごめん。意地の悪い言い方だった。……お前はなんの力にもならないなんて、俺は思ってないから」

「本当?」

「あぁ。今回だって、茉莉花の力があればなんとかなるから」

「えっ、和雅さん、何か案があるの!?」

「あぁ、安心しろ。俺が、お前も本郷家もまとめて面倒みてやる」


和雅さんは迷いのない瞳で、私をまっすぐ見つめてそう言った。


『まとめて面倒見る』って……、それってどういう意味?

混乱する私を残したまま、彼はまず、塚口さんと母を部屋から出て行かせた。ふたりきりで秘密の話がしたいと、そう言っていた。


普通、結婚式直前の花嫁と男性をふたりきりになんてしないけれど、今は非常事態だから仕方ない。

彼は再び私の隣に腰掛け、唐突とも思える計画を告げた。


「まず、結婚式はこのまま決行する」

「えぇっ!?」


その提案に私は思わず目を剥き声をあげてしまった。

だって、そうだ。誰一人そんなこと考えもしない。当の私でさえ、そうなのだから。


「このまま決行って……、何言ってるの!?」


うっかり声が強くなってしまったが、目の前に座る和雅さんはそんなこと気にも留めず真面目な表情を向けてくる。

でも、このありえない状況でさえ動じない和雅さんも、彼から繰り出された提案も、私は理解できなかった。


花婿不在の結婚式なんて、できるわけがない。丁重に真摯に、参列者の方々へお詫びを……、そう思っていたのに。

でも、婚約者の弟でもあり、この豪華結婚式場を有するホテルの責任者、本郷 和雅さんは『このまま式を執り行う』と言うのだ。


「花婿がいないって言うのに、そんなの無茶よ。出来るわけないっ」

「出来るか出来ないかじゃない。なんとしてでもやるんだ。今回の式に、どれだけの年月と資金がかけられたと思ってる? それをここまで直前になって中止なんて……、本郷の顔に泥を塗る気か」


改めて現実を突きつけられ、ぐぅの音も出ない。

もちろん、私だってその事実をわかっている。わかった上で、それを受け入れようとしていたのだ。


「だって、そうするしかないじゃない……」

「そうやって端から決めつけるから、可能性が見えないんだ」


可能性……?

和雅さんの言葉に私は首を傾げた。


ここまで最悪な状況下で、打開策など考えることすらできなかった。けれど、その中でも彼には何か良案があるようだ。


暗雲立ち込める中、光が差し込んだように私の心にも希望が生まれる。


「じゃ、じゃあ和雅さんの言う案って何? 早く教えてよっ!」


私だって結婚式を中止にするのは最終手段にしたい。悔しいけれど、中止にする以上に良い案があるのなら、それに縋りたかった。


すると和雅さんは、私のほうへずいと顔を近づける。

端正な顔が視界いっぱいに広がり、緊張感も相まって、心臓が駆け足を始める。


「教えたら、なんでもするか?」

「もちろん! この身はすでに本郷に捧げたも同然。本郷のためなら、なんだってする覚悟はある」


私の決意表明を聞き、満足したように和雅さんは口角を上げた。まるで企みが成功したような笑い方だ。

「それじゃあ茉莉花、俺の嫁になれ」

「……え?」

「俺が、茉莉花も本郷家もまとめて面倒見てやる。だから、俺と結婚しろ」


その言葉に胸が大きく高鳴った。

彼の真剣な瞳を一心に受けて、つむがれたプロポーズ。

……けれど私は残った理性をかき集めて、正しいほうへ思考を導いた。


違う違う。たしかに義人さんの弟の和雅さんに、私は結婚を申し込まれてる。でも、それはこの結婚式を中止にしないための手段ってことよね。

それ以外に方法がないから、仕方なく私と結婚する。彼が言いたいのは、そういうことだ。


「つまり、和雅さんが義人さんの代わりになるってこと?」

「まぁ、結果論としてはそういうことだな。俺が本郷の当主になる。そして、茉莉花は予定通り、本郷の当主の嫁になる」

「なるほど……」


たしかに和雅さんの案を実行すれば、全てが丸く収まる。けれど、私はひとつのことがとても気がかりだった。


「あの、和雅さんは、その、大丈夫なの? そんな……、自分の人生を犠牲にするみたいな……」


次期当主になって、本郷グループを支えていくなんて、生半可な気持ちでできることじゃない。かなりの覚悟が必要だ。

しかも、結婚相手も自由には選べなくなる。私なんかでいいのか……、そんな懸念が頭をよぎった。


「本郷を守るためだ。背に腹は変えられないだろう」


けれど私の心配を、彼はそんなひと言であしらった。


なるほど。和雅さんにとっての最重要事項は、本郷家の存続と安定なのだ。

そのためなら、自分の払う犠牲も、自分の結婚相手も、大したことではないのだろう。


「茉莉花も、この式をぶち壊さないためなら、好きでもない俺と結婚するくらい、大したことないんじゃないか?」


好きでもない、なんてちょっと失礼じゃない?

そうツッコミたかったけれど、追求すると面倒な事になる気がして、あえてスルーする事にした。


たしかにさっき私は『なんでもする』と言ってしまった。

でも、和雅さんの妻なんて……。そんなの、考えたこともなかった。


躊躇する私は膝の上で組んだ手をじっと見つめる。

すると左から「茉莉花」と優しい声が聞こえてきた。

ゆっくりそちらへ目をやれば、和雅さんの真剣な眼差しに射抜かれる。

ブラックダイヤモンドのように輝く瞳が私をじっと見つめていて、私の視線を捉えて逸らさせない。


「俺も覚悟を決める。だからお前もこの運命を背負え」

「運命……」


その言葉に、私の意識は塗り替えられていく。


義人さんの妻になり本郷家を支える。それが自分の運命だと信じていた。——でも、今、その運命が大きく動こうとしている。


私は再び膝の上で握りしめた手に視線をやった。


四歳の時、義人さんと初めて会って、『彼と一生一緒にいるんだよ』と教えられた。そしてその暖かい手を取って、自分の運命を受け入れた。

その運命の中でも何が一番幸せなのか考えて、自分なりに答えを探してきたんだ。


そして今、私の目の前に和雅さんとの未来が置かれている。

今もこれからも私の生き方は変わらない。

自分の運命を受け入れて、その中で幸せを探すの。

次は、この人とともに。


握った手に一段と強い力を込め、顔を上げて和雅さんを見据えた。私の心から、さっきまでの迷いや当惑は消えていた。


「決めたよ。和雅さん、あなたと生きていく。あなたと人生を共にする」

「……交渉成立だな」


「そうと決まれば」と言って和雅さんは立ち上がり、少し乱れたスーツを整えた。


「このこと、親父には俺から伝える。兄貴の件ももう知ってるから、すぐに話は通るだろう。あとは、参列者への説明を加える場を準備してもらうことだな……。とにかく、式と披露宴のことは俺に任せろ。茉莉花は、予定通りにこなしてくれればいい」


急ぐ和雅さんの様子を見て、今さらながらに緊張感を抱いてしまう。


——私、本当にこの人と一生を共にしていくんだ……。


不安がうっかり顔に出ている様子を和雅さんはめざとく見つける。そして私のもとに近づくと、いきなりキュッとほっぺたをつねった。


「痛っ! な、何するのっ」

「なんて顔してるんだよ、花嫁が。もともと少ない幸せが逃げるぞ」

「ちょっ、……も、もともと少ないって失礼でしょっ。しかも今それ言うって無神経すぎ……っ!」


私が怒って顔をあげると、頭をそっと撫でられた。

セットされた髪とベールを乱さない程度の柔らかさだったけれど、私はその温もりをしっかり感じ取れた。


「今までは、だ。俺と結婚したら、お前をもっと幸せにしてやるよ」

「和雅さん……」

「茉莉花は何も心配するな。ただ俺についてこればいい」


和雅さんは微笑むと、颯爽と控室を立ち去っていった。


取り残された私は、思いのままため息を吐く。その吐息は、今までのどれよりもはるかに深く、長いものだ。


扉が慌ただしく開き、そこから控えていた母が入ってくる。ノックすることも忘れるほど、焦っているようだ。


「茉莉花、どういうことなの? いま、和雅さんがいらっしゃって、『茉莉花は自分の嫁になる』だなんて……」

「本当だよ、お母さん。私、和雅さんの妻として、本郷家に嫁ぐことになるの」


言葉にするとやはり、違和感を抱かざるを得ない。


当然だよね。いままで婚約者の弟として見ていた人が、自分の夫になるんだもの。そんなこと考えもしなかったし、そもそも考えるはずがない。私にとって、一生を共にするはずの相手は義人さんひとりだったのだから。


母は私の言葉を聞くと口もとを押さえ、「そう……」とつぶやいた。


「じゃあ、本当なのね。……どうしましょう、今まで義人さんのことばかり気にしていたから、和雅さんにはそこまでご挨拶できていなかったけど……。茉莉花は大丈夫なの? 相手が和雅さんに変わって……」


母を落ち着かせようと、私は満面の笑みを向けた。


「和雅さんも素敵な人だよ。義人さんもよくそう言って褒めてたし、安心していいから」


その言葉に母は少し安堵したのか、胸をなでおろした。


そう、彼は本当に素敵な人だ。

からかってくる時もあるけれど、根は優しくて、面倒見が良くて、頼りになって。昔から、彼はそんな人だった。


彼に向けられた眼差しや頭を撫でられた感触を思い出すと、再び鼓動が高鳴る。


幼い頃から、本郷家の婚約者である私と本郷家次男の和雅さんは何かと交流する機会が多かった。

それこそ子どもの頃は、一緒に遊んだことも何度もある。

彼の手のひら、大きくなってたな。

昔、遊んだ時とはまるで違う。

ちゃんと大人の男の人の手だった。


「茉莉花、私、お父さんに伝えてくるわね」

「あ……、うん、わかった。お願い」


私は頬をペチペチと叩く。


いけない、いけない。ボーッとしてた。とにかく今日の式が無事に執り行われるように、がんばらないと。


私の願いは、ただそれだけだった。



***



直前の騒動があったにも関わらず、式は予定の時間に開始した。


扉が開き、父親と共に歩を進める。着慣れないウェディングドレスでの歩き方も、しっかり練習した。


違うのは、向かう先にいる人だけだ。


途中、心配そうに私たちを見つめる母親と弟のつとむの姿が目に入った。私は『心配しないで』と伝わるよう、笑顔を浮かべる。


父親は和雅さんの所まで到着すると、「娘を宜しく頼みます……」と呟いた。その言葉には、練習以上の重みが感じられ、私の心も苦しく縮む。


最後まで心配かけちゃってごめんね、お父さん……。


浮かべた笑顔が、八の字眉毛で台無しだろうな、なんてことを思っていると、そっと体が引き寄せられる。彼の大きな手のひらは、私の体をしっかりと支えてくれた。


「必ず娘さんを幸せにします。どうか見守っていてください」


和雅さんのはっきりとした言葉に、父は安堵した様子で、「ありがとう……」とつぶやいた。

私の不安も、霧が晴れるように和らいでいく。


この人は本当に私の人生を背負おうとしてくれているのだ。

その覚悟を、今の言葉で決意表明してくれた。そんな気がした。


彼の隣に立ち、参列者のほうへ向き直る。

その数の多さに改めて圧倒される。私の動揺が伝わったのだろうか。隣の和雅さんはいっそう私の体を強く支えてくれる。


そもそも、私は幼い頃から“本郷家の後継者”の妻として育てられてきた。

その後継者が義人さんから和雅さんに変わったことで、私の結婚相手が変わったのだ。


そう考えると、私の立ち位置はなんら変わってはいない。むしろ、大きく変化したのは和雅さんのほうだ。


彼は、本郷家の後継者の弟として支える立場から、本郷家を背負う身になってしまったのだ。


彼の変化に比べたら、私の身に起きたことなんて大したことではない。


背後に座る参列者の中からは急に変わった花婿についてはばからず噂する声も聞こえてくる。

彼はそんな重圧も含めて、今回の件を背負うと言っているのだ。


その覚悟を私も支えたい。

たった数時間の間に私の思いはここまで変化していた。


「本郷 和雅。あなたは夫として、本郷 茉莉花を妻とし、病めるときも健やかなるときも、愛し続けることを誓いますか?」

「誓います」


会場に届くほどはっきりとした誓いの言葉。彼の覚悟を感じられる声に、私の目もとには涙が滲んだ。


「本郷 茉莉花。あなたは妻として、本郷 和雅を夫とし、病めるときも健やかなるときも、愛し続けることを誓いますか?」

「誓います」


私も、真摯な気持ちで誓いの言葉を口にする。


成り行きだけど、私はこの人とこれから先の人生、生きていくんだ。

できる限りの努力で、彼を愛そう。本郷の妻として、彼の役に立ってみせよう。


この誓いの言葉は私にとって、そんな決意表明でもあった。


「……それでは誓いのキスを」


司会の促しで、和雅さんはベールを上げる。視線が合い、私の心臓はひときわ大きな音で波打ち始めた。


……まさか、本当にキス、しないよね? だって、まだ結婚が決まって数時間で、やっと覚悟が決まったところで……。


「茉莉花……」


いろんなことを考えたが、真剣に見つめる和雅さんの姿に、私は覚悟を決めギュウッと目を瞑った。


暗闇の中、口づけの感触を受け入れる。けれどそれは唇ではなく、額だった。


「そんな顔してたら、ムードもへったくれもないぞ」

「なっ……」


耳もとでそう囁かれ、カァッと頬が熱くなる。


む、ムードもへったくれもない顔って……何よ、花嫁に向かってその言い草はっ!


私はふてくされつつ、でも実際にキスしなかったことに安堵も覚えたりしながら、最後の言葉に耳を傾けた。


どこにも触れることのなかった唇の熱を持て余し、少し下唇を噛みしめた。


そりゃそうだよね。和雅さんだって、好きでもない人とキスなんてしないよ。


そう言い聞かせて気持ちを切り替え、式の残りの進行を見届ける。


「新郎新婦、退場」の合図で、私は和雅さんの腕に手を添え、出口へと向かった。


入ってきた時よりも、私の心は晴れやかだった。

たった数十分の式だったけど、それはこれからの和雅さんとの暮らしに安心感を与えてくれるものだった。


出口の扉が閉まると、隣から「お疲れ様」と告げられる。


「和雅さんも、お疲れ様」

「なんとか滞りなく済んで良かったよ。花婿が変更したことも、新婦入場前に説明したから、そこまでの騒ぎにはならなかったし」


和雅さんは、ネクタイを緩め、背伸びをする。純白のタキシードには不似合いのその動作に、少し笑いが漏れてしまう。


「和雅さんでも、やっぱり気疲れするんだ? 結婚式っていうものは」

「お前……。俺を超人か何かだと思ってるわけ? 俺だって初めてのことをやるときは緊張のひとつやふたつする」


ふぅ、とひとつ深く息をつくその横顔は、余裕綽々ないつもの彼とは違ってどことなく固い。

彼も私と同じだとわかって、ちょっと安心した。


「本当にお疲れ様」


そう言って私は、彼の頭に手を伸ばした。身長差のせいで、おでこあたりにしか届かなかったから、その辺りを軽く撫でる。


手を離すと、和雅さんは目を見開き、呆然とした表情を浮かべていた。


「お前、何して……」

「え? 頭ポン? よくがんばったね、って」

「わかってるよ、それは。なんで新婦が新郎の頭撫でてるんだよ」

「え? ダメ? だって、なんかしたくなって……。嫌だったのなら、ごめん」


申し訳なくなり、軽く肩をすくめる。

すると向かいの彼は深くため息をこぼし、「悪い、また言いすぎた」と呟く。

見上げた彼の頬がほんのり赤くなっているから、その珍しい表情に釘付けになった。


「見るなよ、恥ずかしいんだから」

「えっ、なんで恥ずかしいの?」

「何って……、緊張して、慰めてもらって、しかも逆ギレなんて……さっき『安心して任せろ』って言ったくせに、格好悪いだろ」


困ったようにうなじをかくその姿に、先ほどの頼もしい彼に感じたのとは違う、胸の疼きを覚えた。さっき、うっかり頭を撫でてしまった時とも違う、むしろもっと大きく抱きしめたいような、全てを包み込みたいような……。

でもそんなことはできないから、私はその衝動を言葉に変えて紡ぐ。


「ね、超人じゃないんだったら、……疲れたり、緊張したり、怒ったりする普通の人なんだったら、ひとりで何もかも背負おうなんて思わないで」

「……茉莉花?」

「成り行き任せではあるけれど、これからは、私たちは夫婦なんだもん。だからこそ、責任も困難もふたりで分け合いたい。……そう思うのっておかしいかな?」


私の言葉に、和雅さんは柔らかく目を細めた。

それがあまりにも愛おしげな瞳だったから、私の胸は思わず飛び跳ねた。


「茉莉花にそんなこと言われると思わなかった」

「い、一応、気を遣ったつもりだったんだけど……」

「ありがとな、ちょっと気、楽になった」


彼はそう言って歯を見せてこちらに笑顔を向ける。


あぁ、何年振りだろうこんな無邪気なこの人の笑顔。

切なさと嬉しさともどかしさが一緒に込み上げて、私の鼻先をツンと刺激する。

私はそれを誤魔化すように鼻を啜った。


「じゃ、まぁ、……これからよろしく、奥様」

「はい、こちらこそよろしくお願いします。旦那様」


そうして私たちは、ウェディングドレスと白いタキシードで、契約成立の握手を固く交わした。



***



結婚式の夜。私は眼下に広がる美しい夜景を眺めていた。


式と披露宴が終わって、そのままホテルの最上階のスイートルームへ向かった。今夜はふたり、ここで一夜を過ごすのだ。


普通だったら、こんな超一流ホテルのスイートルームなんて、泊まれるはずがない。


窓から見える広大な夜景は、自分がこれから乗り込む世界のすごさをありありと見せつけているかのように思えた。そのせいで、せっかくの綺麗な光景も一種の疲れを感じさせるものになってしまう。


はぁ、とため息をこぼし、私はソファに腰掛けた。そのソファも一級品で、座り心地はうちの実家のものとは比べ物にならないくらい良い。


私はソファの肘掛に身を委ね、今日一日で起きたたくさんの変化を振り返る。


ただでさえ、結婚することで大きく変わるとは思っていたけれど、まさかその相手まで変わってしまうだなんて……。


披露宴では少しザワついたものの、もともと義人さんが後継者の権利を放棄していたこと、和雅さんが新たな後継者として選任されていたことが告げられた。

私との結婚も、すでに当人同士で話は付いていると同時に報告された。


その間、私はただ黙って微笑を浮かべていることしかできなかった。


「結局、私は無力なんだな……」


思わずそんな弱音が漏れてしまった。


これまで本郷の役に立つために努力してきたつもりだった。でも、あの場になってみたら、急遽跡取りになったはずの和雅さんのほうがリードしてくれていて……私にできることなんて、何もなかった。


「茉莉花? どうした?」

「あ……、和雅さん。や、なんでも、ない、け、ど……」


肘をついていた頭を上げ振り返ると、シャワーを浴びた和雅さんがシャワールームから出てきたところだった。濡れた髪から滴る水を、彼は肩にかけたタオルで拭き取る。


艶やかに光る髪の毛と、その前髪の向こうの鋭い瞳に、私の視線は釘付けになる。

その下に伸びる首もとから鎖骨にかけての筋が男らしさを感じさせる。

バスローブを纏っているだけだから、その先の腕の強健な筋肉の存在までも見てとれた。


「……どうした? そんなにジッと見つめて」

「べ、別に……」


私は彼とは反対のほうへ視線をやった。


私ったら、和雅さんに見惚れるなんて……。

そう自分を諌めたが、その行動自体すでに必要ないことを思い出す。


そうだ。私はこの人の妻になったんだ。夫となる人に見惚れるのは、別に悪いことではない、よね。

かと言って、素直に見惚れてしまうのは負けたようにも思えるから、それはそれで癪に触るけれど……。


「うちのスイートルームはどうだ?」

「え? あぁ……。うん、最高。最上級すぎて、ちょっと気後れする。こんなところに自分が泊まるだなんて」

「何言ってるんだ。このホテルを所有する男の妻になるんだぞ? お前は」


和雅さんの言葉は、胸にズシリと重圧をかける。

これだけ立派なホテルの責任者が私の旦那様。いずれこの人は、このホテルを含め他の経営もまとめあげる、グループの最高責任者になるんだ。


今まで何度となく聞いてきたはずなのに、実際にその立場になってみると、恐ろしさが期待を上回ってしまう。

つい黙り込んでいると、和雅さんは笑いながら私の隣に腰かけた。


「泣きそうな顔だな。昼間とは大違いだ」

「昼間……?」

「披露宴で一緒に挨拶したときのこと。茉莉花、あんなに堂々としてたってのに、今はまるで子どもみたいだな」

「堂々なんて……。あの時はただ必死で、笑ってるだけで精一杯で」


さっき感じた情けなさがよみがえり、自嘲してしまう。

『子どもみたい』だなんて言われて悔しい気持ちもあるけれど、彼の言うことはその通りだとも思えた。

今の私はこれまでの自信を全部奪われて動けなくなっている、子どもと同じようなものだ。


「じゃあ、これからも笑ってろ」

「え?」


私は視線を隣の彼へと向けた。

彼は肘をつきながら、私を眺めている。私を慰めようとか、おだてようとする様子はない、リラックスした彼の姿勢。それが私にも安心感を与えてくれる。


「茉莉花は、笑って、幸せな奥さんのイメージをみんなに植え付けるんだ。それが、うちの、本郷グループの宣伝になる」

「宣伝……、本郷の……」


彼は私をジッと見つめたまま、淡々と言葉を告げる。

逸らさない視線は、彼の信頼の表れと思って良いのだろうか。


彼は少し体をこちら側へずらし、私のほうへ前のめりになった。


「お前が幸せでいることが、本郷のためになる」

「私、本郷の……、和雅さんの役に立てるの?」


私が恐る恐る問いかけたら、和雅さんは笑って「当たり前だろ」と返してくれた。


さっき落ち込んだ気持ちが、彼のひと言でいとも簡単に浮上していく。


私の口もとは自然とカーブを描く。

それを見て彼もニコリと白い歯を見せた。


「茉莉花、笑え。俺のために」


彼の願いに、私は満面の笑みで答えた。


努力しよう、今度は和雅さんのために。

私にできることを精一杯、彼のためにやっていくんだ。

この夜、私の心にはその決意が深く刻み込まれた。


「私、和雅さんのために、幸せになるから」


私の決意表明に、彼は優しい微笑みを浮かべていた。

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婚約0日婚 天満仁乃 @amaminino

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