第85話 本業もたまには頑張らないと社長からの小言がきそう
王都ギブソンとヒイラギ領の街道整備も始まったのだが、それだけに専従している訳にもいかず、久しぶりに機構から依頼された害獣退治依頼をこなすことになった。
今回の依頼はドワーフ地底王国から通じて機構に依頼があり、本来なら静流さん達のチームが対応する案件であったが、害獣のいる場所が海ということで泳げない静流さんが依頼を拒否したそうだ。
おかげでオレ達の出番となったわけだが、倒すべき討伐害獣はSランクの
しかも、かなりのビッグサイズで近隣を航行する船を襲いながら、二体で組んずほぐれずの大激闘をしているらしい。
その余波でドワーフ地底王国の主要港であるワズリンの街が津波に襲われ、街が冠水してしまう可能性があるため、早急に討伐をして欲しいと討伐依頼が送られてきた。
「柊主任、久しぶりの害獣討伐ですねっ! 僕も実戦でどれだけやれるようになったかを試したいです」
最近、オレの呼び方を翔魔さんから、『柊主任』に変えた聖哉がグエイグさんに作ってもらったオリハルコン製の槍を手にしてやる気を漲らせた。
派遣勇者において考えれば武器は商売道具なので会社から支給品が出されるが、気に入らなければ実費負担で専用武器の装備を認められている。
そのため、聖哉がグエイグさんに要望を出して作り出した逸品であった。
値段の方もそれなりにしたそうだが、グエイグさんが原価製造してくれると言ってくれたおかげで、聖哉も購入を決断し製作したものであった。
「オレも剣術の修行は重ねてるけど、聖哉ほど上手く武器を扱えないからなぁ。オレは援護に回るんでやれるところまで聖哉に任せるよ」
「あ、ありがとうございますっ! 柊主任のご期待に沿えるように頑張ります」
聖哉がにこやかに笑っている。恋人のイシュリーナと結婚するには色々と実績を上げて、親父さんに認めて貰わないといけない身分である。
おかげで最近は何にでも積極的に取り組んでいる。
オレとしても聖哉の後押しをしてやるため、今回の依頼もやれるところまで聖哉に任せてみることにした。
もちろん、危ないと判断すれば全力でフォローできる態勢だけは取っておくが。
「翔魔も海の上なら全力で戦えばいいじゃろう。どうせ、壊れる物は海上だから無いであろうし」
トルーデさんが、もはや専属メイドにされてしまったようなヴィヨネットさんにメイド服風の水着を押し当てた。
ヴィヨネットさんは、例の新型
うちの出向社員となったことで日本への渡航許可をもらいトルーデさんと一緒にメイド服店やメイド喫茶に行ったり、メイドコスプレをしてトルーデさんに写真を撮られて喜んでいることは小耳にはさんでいる。
個人的にはヴィヨネットさんは喜んでるとしか思えないので良しとしておこう。
ただ、メイド写真集だけは上長権限にて検閲を必要とするので、後で回収しておくことにしよ。
「そうですけどね。ここは聖哉に成長してもらう機会ですよ。ソロでSランク狩れれば新チームの主任になれるかもしれませんし。それよりも、うちのメンバーになったヴィヨネットさんでメイド遊びをしているとアレクセイさんに言い付けますよ」
「なっ!? 理不尽なことを言うな。妾はヴィヨネットの同意を得ておるのじゃぞ」
「本当にですか? ヴィヨネットさん? 嫌なら嫌と言わないとダメですよ。トルーデさんは心の声が聞こえてしまう人なんで、そちらの声を本心だと思ってしまいますからね」
ヴィヨネットさんは真っ赤な顔をしていながらもゆっくりと頷いた。
「あたしがトルーデ陛下にお願いしています……。こんな服を着たかったの……」
照れたように小声で喋るヴィヨネットさんはすでにメイド道に堕ちてしまっていたのかもしれない。
本人が望んでいるのであれば、深く追求もするのも可哀想なのでそこまでにしておいた。
「なら、大丈夫です」
「何が大丈夫なのかしら……気になるけど、聞いたら負けのような気がするわ」
涼香さんが頭を抱えているが、本人が納得しているので、敢えて傷を抉ってあげることもないと思う。
「そんなことより、お仕事ですわ。目的地のワズリンは今回の街道整備の中に入っている港街ですし、それに美味しいお魚やエルクラスト一美しいビーチがある観光地でもあるので、甚大な被害を受ける前にさっさと害獣を退治いたしましょう」
エスカイアさんが手をパンパンと叩いて本題から逸れていた話を引き戻す。
「そうだったね。仕事もキチンとしないと。でも、せっかくなんで、害獣退治を終えたら、子供達の遠足の下見をしよう。トルーデさんから提案があった国外の見聞を広める機会を作って欲しいというのにピッタリではないかな。近場だし街道が開通したら一泊二日のお泊り遠足を企画しようかと思ってさ」
オレの言葉にお茶出しをしていたクラウディアさんがパッと顔を明るくした。
孤児院の仕事の方はスタッフが揃ってきたため、責任職を勤めるだけで手すきとなったようで、最近はオフィスで涼香さんのお手伝いや連絡役、日程調整など事務的な仕事を手伝っている。
慰安旅行的な意味合いも込めて孤児や孤児院スタッフ達も連れてお泊り旅行を企画してみるのもいいのではないかと思った。
「本当ですか!? 子供達も喜ぶと思います!! ああ、街道の完成が待ち遠しいですね。下見の件はトルーデ様にお任せいたします」
「うむ、任せておけ。どうせ、妾は戦闘には参加せぬからの。ヴィヨネットと良い場所があるか探してくることにするのじゃ」
未だにメイド服風の水着をヴィヨネットさんに押し当てて考え込んでいるトルーデさんであったが、子供達のことに関してはかなり真面目に考えておられるので、それだけは心配する必要はなかった。
「おし、害獣討伐に出発しますか」
いささか物見遊山的な気分がチーム内に漂っているが、緊張感を持たないのがオレのチームのいい所でもあり、悪い所であるというのは、この後思い知ることになった。
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