第83話 幕間


※三人称視点


 窓を閉め切った薄暗い室内でプロジェクターの灯す映像に見入る性別の不明の者達がいた。


 なぜ、性別不明かと言うと、その場にいる全員がダボダボの黒い外套を目深に羽織っており、顔はもちろんのこと身体のラインすら判別することができなかったからだ。


「以上のように、我々が隠れ家にしていたあの屋敷を発見されてしまった。幸い、実験中だった新型合成魔獣キメラと重要資料は別のアジトに移動させてあり、接収を免れたが(株)総合勇者派遣サービスとエルクラスト害獣処理機構に新型合成魔獣キメラの情報が漏れたのは痛恨事である」


 プロジェクターを操作している者が、大げさに頭を抱えているのを見た別の者がテーブルを強く叩く。


 その音で室内の視線がその者に集まった。


「新型合成魔獣キメラなど、どうでもいい。問題は我らが主がせっかく開いて下さった日本とエルクラストの回廊を失ったということの方が重大事だという認識が欠けておるようだ! あの回廊のことが表に出れば我らが大望も危うくなるのだぞ!」


 参加者の声はボイスチェンジャーで変えられており、テーブルを叩いた者が男であるか、女であるかは全くの分からない。


 参加している者達の様子から見ると、この集団の中でそれなりに権威がある人物のようだった。


「その件につきましては日本政府、(株)総合勇者派遣サービス、エルクラスト害獣処理機構、それぞれに潜り込ませた手の者による工作で、『幻覚の罠』であったとの欺瞞情報を流しており、不審がる者は今の所はおりませんので、ご安心ください」


 プロジェクターを操作していた者が、手元のパソコンに目線を落として淡々と返答をした。


 周りの者達からも安堵に似た気配が拡がっていく。


 しかし、テーブルを叩いていた者は尚もエキサイトして立ち上がった。


「そのようなことを申しておるのではないっ!! あの回廊を築くのに五〇〇名の子供を生贄に捧げたのだぞ! それが我が主の心の負担になっておることが分からぬわけではあるまい! このままでは『来る時』までに我が主の精神が病んでしまうぞ」


「ですが、我が主が施した隠蔽魔術を打ち破れる派遣勇者が現れるなど想定外です。しかも、あの辺鄙な魔境地区に現れるなど予想すらしておりませんでした」


「馬鹿者! 柊翔魔が勇者適性SSSだという情報が流れておったであろう。それに奴のせいでミチアス帝国でのテロは失敗し、ドラガノ王国の組織は壊滅させられたことを忘れていたと申すか!」


 立ち上がった者は怒りが収まらないようで、ドンドンと机を叩き、怒りをぶちまけた。


 その様子に室内にいた者達は息を呑んでいく。


 不意に扉が開いて差し込んだ光と共に新たに一名が入ってきた。


「そう喚くな。たかが、回廊一本程度だ。もう、慣れた。我らが大望である『日本とエルクラストを一にする』ための犠牲と思えばそう心も痛まぬ。どうせ、この大望を成就するには日本でもエルクラストでも多くの命を贄として捧げなければならぬのだからな」


 扉から入ってきた者に室内にいた者が次々と膝を突いて拝礼を行う。


 この者がこの集団の中で一番の権威を持つ者であるようだ。


「新型合成魔獣キメラの量産成功をもって、エルクラストでの準備は整った。今後は日本の方の準備に力を注いでいくことにするぞ。日本は安全意識が低い上にエルクラスト開明派という隠れ蓑があるから、エルクラストよりは活動がしやすいと思うぞ。各人よろしく頼む」


「「「ははっ!」」


「それと、柊翔魔の首を挙げた者には多大な褒賞を授けると組織の者に伝達せよ。奴だけが、我等の大望を阻止し得る人物であることは間違いない。今一度言うぞ。どんな手を使っても柊翔魔の首を挙げるのだ」


「「「御意」」」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る