第79話 扉の先は・・・
薄汚れた扉の前に来ると、鼻を突く刺激臭は更に強くなり耐えられなくなったので、
匂いが消えたのを確認すると、大きな扉のノブを回して押し開けた。
荒廃しているかと思われた屋敷の中は綺麗に掃除が行き届いており、外の荒れ果てたイメージとは違って、つい最近まで誰かが住んでいたような気配がしている。
それにしても、こんな魔境の奥にある屋敷に誰が住んでいたのだろうか。
というか、まだ住んでいるのかな?
生命反応は全くといってなかったけど。外の彫像の件もあるし、慎重に行かないとな。
玄関ホールを抜けて、まずは一階の部屋を虱潰しに捜索することにした。
屋敷の内部は魔術による灯りが灯されており、暗さはなかったが、万が一光源が消えた時に慌てなくて済むように
「ここは、応接間か?」
一番手前にあった部屋の扉を開けると、中には高価そうな調度品と対面式のソファーセットが置いてあり、埃も積もっておらず、生活の痕跡が残されていた。
応接間の中を色々と物色するが屋敷の所有者に関係するような物は何一つとして出てこなかった。
その後も屋敷の一階部分の捜索を続けていたが、特に所有者の特定にいたる物は何一つ発見されなかった。
一階の最後の部屋である厨房を捜索している際、オレの手からディスプレイが自動展開して通話呼び出し表示が出た。
魔境地域とはいえ街に近いため、社員証の通話機能は生きているのだ。
呼び出しの主は、外に待たせてあるエスカイアさんからだった。
「翔魔様、グエイグさんとヴィヨネットさんに合流しました。中は安全そうならわたくし達も捜索に加わりますわ」
一階は敵の気配も怪しい場所もなかったので、オレが見落としているかもしれない痕跡をみんなで捜索してもらうのも悪くないな。
「一階の安全は確保してるからみんなも入ってきていいよ。その前にエスカイアさんが
「心得ましたわ。すぐにそちらに向かいます」
通話が途切れると、オレは三人を迎えるために玄関の方に戻った。
三人と合流すると再び一階を虱潰しに捜索していったが、仕掛け扉も地下室もなさそうな気配だったので、全員で未捜索の二階に上がる。
「それにしても、誰がこんな場所に屋敷を建てたのですかね。これだけ立派だと材料を運ぶのにもかなりの労力を使用すると思いますが」
エスカイアさんが建物内を見回して首を傾げた。
彼女の言う通り、この場所は街に近いとはいえ害獣が闊歩する危険地帯である魔境の一角なのだ。
おいそれと一般人が家を建てるような場所ではない。
屋敷の所有は人目を避けるという目的をもって、この地に門番と隠蔽魔術で隠蔽してまで隠した屋敷を建てたと思うしかなさそうな気がする。
「建材を見るとエルクラスト各国の色々な建材が使われているぞ。これなんか聖エルフ共和国連邦の神木から伐り出した柱だと思うが」
グエイグが屋敷の屋台骨と思われる太い木をさすりながら眺めていた。
「へあ!? 我が国の神木ですって! あれは輸出禁止の木材のはず! あの木は周囲の
グエイグのさすっている木材を見たエスカイアさんが顔色を変えた。
あの木をこの魔境地区において置くと害獣の力を増すと言われている
ということは、この屋敷自体が害獣を活性化させる意図も含んで建設されている可能性も考えられた。
「聖エルフの神木だけじゃなさそうですよ。この部屋見てください」
捜索をしていたヴィヨネットさんが扉を開けると、異臭の元だと思われる腐った肉の山が大量に積まれた大きな部屋を発見した。
「ふあ!?」
部屋の中に積まれた腐った肉の持ち主は、この地に住んでいたと思われる害獣達で、身体の一部が欠損した物や肉が腐敗しきって骨に変わってしまっている物も多数ある。
「これは……凄いのう……」
「蠱毒の儀式をやっていたみたいですね。あたしも見聞でしか聞いたことないけど、より強い害獣を産み出すために害獣同士を喰い合わせるといった儀式らしいですが……。それに、奥の方は
部屋の中を見たヴィヨネットさんも、あってはならない施設があったことに驚きを隠せないでいる。
「となると、わたくし達がミチアスで遭遇したあの
「あたしとしては『そうだ』とは言いたくないけど、多分そうだと思います。あの一体だけで済んでいればいいけど……」
ミチアス帝国を襲ったあの
この屋敷の持ち主は一体何を考えてやがるんだ。国家転覆か? それとも別の目的があるのか?
このエルクラスト世界を混乱に陥れようとする組織が暗躍していることが発覚したのだ。
異世界でもやはり世界に不満を持つ者がいることに気付かされた瞬間であった。
「この件は早急に機構とクロード社長に話を上げた方がいいね。ヴィヨネットさんは機構に連絡、エスカイアさんはクロード社長に連絡を取って。オレは奥の部屋調べてくるからグエイグさんは二人の護衛をしてて、何か仕込んであるとも限らないからさ」
「おう、任されたぞ。お嬢二人を守ればいいんだな」
「翔魔様、お気を付けて」
「ああ、気を付けるよ」
オレは事態を伝えるための連絡を始めた三人と別れると、蠱毒が行われ
扉を開くと目の前には階段があり、その階段をひたすらに登っていくと、もう一つの新たな扉に突き当たった。
突き当りの扉を開ける――。
そこはエルクラストではなく、見慣れたビルが建ち並ぶ東京の繁華街の片隅であった。
な、なんだよこれ? 東京だよなここって? 転移の魔法陣くぐってないぞオレ?
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