第77話 改造された害獣を飼うのは有りか無しか


 ヒイラギ領に到着するとヴィヨネットさんを伴って、例の銀水晶龍シルバークリスタルドラゴン達が集まっていた湖へ移動した。


 銀水晶龍シルバークリスタルドラゴンの水晶化ブレスのおかげで湖畔の周辺は一部が水晶化しており、ドワーフ地底王国からドワーフの鉱夫達が出稼ぎに来て、身長ほどもある大きな水晶を丁寧に掘り出しては荷馬車に慎重に載せていた。


「あの大きな水晶はどうするのかな?」


 気になったので、調査に同行していたエスカイアさんとグエイグに水晶の使い道を聞いてみた。


「ありゃあ、銀水晶龍シルバークリスタルドラゴンの作り出した銀水晶だから、魔素マナの蓄積容器につかわれるかもしれねえな。あれだけの大きな銀水晶が傷もなくゴロゴロしているとなると、ドワーフ族や小人族が狂喜しているだろうよ」


「そうですね。あれほど大きくて無傷な銀水晶ならかなりの蓄積を行えるはずですから、機構の買い上げになると思いますね。うちにも一部売上金が入ってくると思いますよ。詳しい金額は涼香さんに聞かないと分からないですけど、結構な金額かと思われますわ」


 二人とも運び出されていく銀水晶を見てひとしきり感心した様子を見せた。


 あのサイズの銀水晶は滅多に見つからない物のようだ。


 いっそのこと魔境地区で銀水晶龍シルバークリスタルドラゴンをコッソリと飼って、銀水晶を常時作らせようか。


 でも、Sランクの害獣を飼えるのかと二人に聞くと呆れられそうなので黙っておくことにしよう。


「そうか。売上金は街の施設の整備資金にでもしようかな。ドワーフ地底王国との交易路が結構荒れ放題らしいから、街の人にお金払って、公共事業として道の普請でもしようか」


「ですが、討伐されたのは翔魔様と聖哉君ですし、売上金は個人に支払われると思いますが……」


 エスカイアさんが言いにくそうな顔をして、銀水晶の売上金が個人に入るという話を告げていた。


「そうなの? あんまりお金稼ぐと税金が凄いことになっちゃうから、寄付とかできないかな?」


 寄付の申し出にエスカイアさんが考え込んでいる。


 オレとしてはすでにかなりの給料をもらっているため、これ以上のお金は人生が狂ってしまいそうな気がしているのだ。


 なので、会社の給料と領主としての収入、以外のお金は領地に寄付して色々と使って貰えるとありがたい。


 金は天下の回り物というし、新卒の若造であるオレが億を超える給料をもらったら絶対に有頂天になって無駄使いするのが分かりきっている。


「できますが、手続きが煩雑になりますね。まぁ、涼香さんならキチンと処理してくれるでしょうが。あの方は事務能力でいけば、わたくしよりも上かもしれませんね。日本の面倒な税制もかなり詳しい様子ですし、お任せしておけばいいかと。では、翔魔様の寄付金を道の普請代に充ててもらうように伝えておきますわ」


「ああ、頼むよ」


「柊殿は無欲じゃな。さっきドワーフが運んだ銀水晶一本で日本円なら一〇〇〇万円くらいになるのだがの……」


 ん? 一〇〇〇万円? 一本? ざっと見て、数十本は有ったような気がするけど……。


 いや、これは見なかったことにしよう。


 これ以上聞くと後悔しそうな気がするぞ。そうだ、聞かない方がいい。


 オレはあえてグエイグさんの呟きを無視すると、湖畔で色々と採取しているヴィヨネットさんの方へ歩いていった。


 近づくと、湖の水や泥などを採取したり、銀水晶の欠片を何かの試薬が入った薬瓶に入れて振っていた。


「ヴィヨネットさん、どうですか? 何か痕跡でも見つかりましたか?」


「う~ん。新しいのは見つからないわね。変異の影響を与えた何かがここで起きたはずなんだけどね。それに隠しスキルを隠蔽していたコードも人為的だったし」

 

 ずり落ちそうになる眼鏡を、指先を使って押し上げていく。


 ヴィヨネットさんの解析結果からオレが想像できるのは、あの黒い外套を着た男がこの湖で何かしらの実験ないし、害獣の改造を行っていた可能性が高い気がする。


 この魔境地区は街に近いが滅多に人が寄り付くような場所ではないので、ヒイラギ領を拠点にして色々と行っていたのかも知れない。


 そこへオレ達が踏み込んできたので、驚いて逃げたという筋書きではなかろうか。


「オレはちょっとエスカイアさんと、この周辺を捜索してくるよ。グエイグさんを護衛に付けておくから、何かあったら呼び出してくれ」


「わかりました。あたしはこの湖をもう少し調べるわ」


 オレはグエイグにヴィヨネットさんの護衛を頼むと、エスカイアさんを連れて魔境地区の中へ入っていった。


 魔境地区の中は下草が生命力豊かに生え出しており、道らしい道は見当たらない中を二人で斬り開きながら歩いていく。


 木々の密度はそれほどでもないが、下草の多さによって視認性はとても悪かった。


「エスカイアさん、ごめんね。ちょっと抱っこさせてくれるかい?」


「へあ!?」


 オレに急にお姫様抱っこされたエスカイアさんが顔を真っ赤にしてオタオタとしている。


「きゅ、急に何をされますか? い、いや。わたくしにも心の準備というものがありまして……」


 顔を真っ赤にしてアワアワしているエスカイアさんは完全に勘違いをしているが、下草の中を歩くよりも飛行魔術を使って上空から周囲を捜索した方が視認しやすいと思って抱っこをしただけである。


 さすがにオレも外ではチューまでにしたいぞ。


「上から探すからね。エスカイアさんもシッカリと探してよ」


「あひゃい。そ、そうだったのですね。わたくし、てっきり……」


 そこの人、あからさまにしょんぼりしないでください。


 エスカイアさんを抱いて上空に上ったオレは周囲の様子に目を凝らしていく。


 周りには緑豊かな草地と樹木が生えた小高い山が連なっていた。


 数十分ほど二人で周囲を捜索していたが、特に発見もなく引き上げようとした時に急にディスプレイが展開されて赤い文字で『隠蔽感知』と大きく映し出した。

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