アーティフィシャル・セイント
我破 レンジ
第1話 生誕の記
神は世界を創造される際「光あれ」と仰ったそうですが、ワタクシの物語もまさしく、一条の光がワタクシの意識に射されるところから始まります。
何もない真っ暗闇。ワタクシはそこで無の存在でした。しかし先述した通り、鋭い光がワタクシの自我を呼び覚ますと同時に、男性の野太い声を認識したのです。
「……イバーインストール確認、駆動系動作チェック……すべて異常なし。起動シークエンス開始。シスター、これで完了だ。あと二分ほどで立ち上がるはずだぜ」
そう男性が話しかけた相手は、物腰のやわらなさをうかがわせる、実に穏やかな声で答えました。
「ありがとうございます。さて、無事に動いてくれるかしら」
「俺の腕を信じてくれよ、シスター。ジャンクの寄せ集めとはいえ、メモリやCPUは軍用品にだって使われる逸品だぜ。学習ソフトだって俺が所持してるものでは最高のグレードなんだ」
「では、主に祈りながら待つとしましょう」
そうして、ワタクシの視界はクリアになっていき、古ぼけた木板が打ち付けられた天井と、ワタクシを覗きこむ二人の男女を視認するに至ったのです。
「おい、俺がわかるか? わかったらハイと返事しろ」
男性がそう命令するので、ワタクシは従いました。
「ハイ、当機はあなたを認識しています」
当時の自分はこんな調子で、今にも増して堅苦しい受け答えをしていたものです。ちなみに、この時の立派なもみあげを生やした作業着姿の中年男性こそ、先ほどの声の主であるテッドでした。精密機器修理業者を営んでいる彼には、この後幾度も世話を焼いてもらうことになります。
「ロボットさん、わたくしもわかりますか?」
次に呼びかけてきたのは、テッドと話をしていた例の女性でした。年配で灰色の修道服をまとい、顔のいたるところに深いしわが刻まれていて、しかし目尻のしわはその笑顔をより優しく引き立てている印象でした。
「ハイ、当機はあなたを認識しています」
修道服の老婆は満足そうにうなずきました。
「わたくしはグラシア。ここシェーファー修道院の院長を務めております。あなたはこの男の人の手で、一から組み上げられたのですよ。そしてこれから、わたくしのサポートをしてもらうことになります。この老いたシスターの傍で、時に代わりの手となり足となるのです。よろしいですね?」
シスターグラシアはそのように命じました。元より異論はありません。人に奉仕するために作られるのが我々AIロボットなのですから。
「ハイ、了解しました」
使命を理解したワタクシはゆっくりと身体を起こし、立ち上がりました。後に物置だと知ったその部屋の窓に、ワタクシの姿が写ります。それは手足も、頭も、胴体も、全てがバラバラの規格のパーツで構成された、非常に不格好なロボットでした。
つまりワタクシは死体を繋ぎ合わせて誕生した、あのフランケンシュタイン博士の怪物そのものだったのです。
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