第2話 流行り
「最近、高校でどんな曲が流行ってる?」
一息入れたところですみれ先生に問われた。
「男子生徒は川シリーズで女子生徒K-POP系が流行ってますね」
川シリーズは東京の江戸川31、京都の鴨川31、そして大阪の淀川31と大人数アイドルグループのこと。31とは人数のことだが、研究生とか育成とかあって、その数は一つのグループだけで50は超えるとか。
K-POPは言わずもがな韓国系ユニットグループ。ギャルメイクに健康的な脚を売りにしたスタイル。
「……川シリーズにK-POPねえ」
落ち込んだすみれ先生を見て、僕は気づいた。
「シャインドリームとかも流行ってますよ!」
僕は慌ててフォローした。なんで僕は目の前に推しがいるのにシャインドリームを出さなかったんだ! 僕の馬鹿。
「ほんと?」
「本当です。シャインドリーム、最高です。見てくださいこれを!」
俺は壁と机の間に置いた丸めたポスターをすみれ先生の前で広げた。
そのポスターはすみれ先生こと溝渕かすみのフェイスがドアップのポスターである。
「やめてー!」
すみれ先生が目をふざいていやいやと頭を振る。
「ご、ごめんなさい。で、でもシャインドリームが話題なのは本当です」
ポスターを丸めて元の場所へと戻す。
「悠くんはわた……溝渕かすみが好きなの」
「推しです」
「ぴっ!」
すみれ先生が肩を弾ませる。
「へ、へえ〜。ちなみにどこがかな?」
「まずめっちゃくちゃ美人です」
「そ、そうかな〜」
と言いつつもまんざらではない様子。
「声も透き通って美しいです」
「美しいってそんな」
「ダンスもセクシーでキレッキレでカッコいいです」
「セ、セクシーって、やだ〜」
すみれ先生は恥ずかしがって腿をもじもじします。その恥ずかしがって姿も萌えです。
「あとクール系に見えて時折ポシャしたりするところとか、慌てふためくところがギャップがあって萌えです。特にこの前のバラエティ番組『金曜日のトワイライトタウン』で……」
「ストーーープ! もういいから、分かった。うん。分かったから」
すみれ先生は顔を赤くして両手をこちらに向ける。
「す、好きなのは分かったわ。うん。すごく。で、学校では本当にシャインドリームの話で盛り上がってるの?」
「……はい」
勿論、嘘ではない。話題として名が上がる。でも、それは──。
「嘘でしょ?」
「!? 嘘では……」
「分かりやすいなー、悠くんは。別にいいのよ本当のことを言っても」
すみれ先生は嘘をつくのが下手なのに、他人の嘘はずばりと見抜くんだから。
「話題には出てます。ただ……」
「ただ?」
「ぶつからないために共通の話題みたいな」
「ぶつからない?」
「さっきも言った通り、男子は川シリーズ、女子はK-POPファンが多くて。それでぶつかったことがあったんですよ」
「へえ」
やっぱシャインドリームファンは少ないんだと落ち込む先生。
「どんな風にぶつかったの?」
「口論です。どっちが一番のアイドルかって。あれは良いところアピールするまでは良かったんですが……」
「ああ! 相手を貶すようになったと?」
「そうなんです。女子は『川シリーズなんて、いい年した奴がミニスカをヒラヒラさせんな。きつい! 個性がないんだよ! 名前と顔が一致しない。皆、同じ顔。曲じゃなくて握手券売ってんだろ? 半分風営法まがいの行為だろ? CDがおまけなんだよ。ウルカリで初日にCD100円セール!』と」
「そんなにディスるなんて……」
「それで次に男子がK-POPに対して、『全員整形で養殖産! 間近で見ると不気味の谷現象! マネキンかよ。個性がない? そっちもな! 曲が子供っぽい。いかにも小学生好きそうな間の抜けた歌。それとポーズダンス。あれってチィンクトックを意識しているだろ? しかもバズっても1クールで忘れる』って」
「わお。その男の子も頑張るわね」
「その後、仲直りをしたんです。でも、その代わりにあれ以降は川シリーズやK-POPの話は男女間の会話ではタブーになったんです。それで話題になるのがシャインドリームとかアイチューブアーティストなんです」
「そうなんだ。で、シャインドリームについてはなんと?」
「新曲の歌とかMVが良かったとか。バラエティのコメントが面白かったとかですかね」
「メンバーの中で誰が一番人気?」
「汐川姫子ですね」
僕は嘘をつかずに述べた。
すみれ先生は不服そうに頰を膨らませる。
「でも、僕は溝渕かすみ推しです」
「もー」
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