第38話 VS山賊?

 山賊さんは四人。

 一人が魔術師で残りは白兵です。

 奇しくも弟子達と同様のジョブ編成です。


「くたばりやがれッ、豚共が!」

「やはり強いですね。ただの山賊がどうしてこれほどの力を……?」


 刃を交わし、ヴェルスさんは怪訝そうに呟きました。

 それもそのはず、山賊側の平均《レベル》は四十弱。

 ヴェルスさん達とほぼ互角なのです。


「強ぇ……っ、これが貴族の力か……!」


 しかし、形勢はヴェルスさん側が有利です。

 こちらの不利要因と言えば、低い位置にいることと、生け捕りにしなくてはならないこと程度。

 《レベル》が近くとも、《職業》の有無により《パラメータ》には明確な差があります。


 それに技量も違います。

 相手の動きを見切り、緩やかな傾斜という地形に慣れてしまえば、後はワンサイドゲームです。

 初めに決着を付けたのはタチエナさん。


けないと危ないわよ」

「おわっ!?」


 剣戟の最中、《称号効果》の炎を出して相手の動きを崩し、そこへシールドバッシュ。

 勢いよく殴り飛ばされた山賊さんがダウンしたのを確認し、味方の援護に向かいます。


「ロン君、そっちに行くわ」

「サンキュッ」


 一対一でも押され気味だったというのに、援軍まで来ては敵うはずがありません。

 見る見る押し込まれて行き、けれど最後に《ユニークスキル》で仲間を援護しました。


「こっちを見やがれっ、《美味しい匂い》!」


 もう一人の山賊さんと切り結んでいたヴェルスさんの意識が、視線が、彼へと引き寄せられました。

 人間相手には効果が薄いとは言え、一瞬だけなら気を逸らせます。

 そしてその隙を突──


「ここだァッ」

「甘いです」


 視界の外から振るわれた剣を気配を頼りに受け止めました。

 視線を逸らしつつも保たれた体幹は日頃の鍛錬の賜物です。

 そして相手の力を往なし、逸らし、一歩動きつつ巻き取るようにして剣を弾き飛ばしました。


 これにて白兵戦は決着です。


「みっ、皆ぁ! う、ううぅぅぅっ、ふっ、〈フレイムバースト〉!」

「脆弱、〈アースショット〉」


 仲間を巻き込むため援護を控えていた魔術師組でしたが、味方が全員倒されたことで山賊側の魔術師さんが動きました。

 放たれたのは炎の球。

 着弾時に爆発するそれを、アーラさんの土弾が空中で射貫き、相殺しました。


「ヴェルス、捕まえて」

「はい!」


 武器を弾き飛ばされた山賊さんがそうはさせじと割って入って来たものの、濁剣の柄の一撃で難なく対処。

 あわあわと狼狽うろたえる魔術師さんに駆け寄ったヴェルスさんは、淀みない動作でその首元に濁剣を突きつけました。


「もし抵抗する素振りを見せれば即座に斬ります。ですが大人しくしていれば、あなたのことも、お仲間のことも、悪いようにはしません。大人しくできますか?」

「は、ははははいっ」


 ガクガクと、頭が取れてしまうのではないかと心配になるほどの速度で首を振る気弱そうな少年。

 しかしそんな様子にも油断せず、ヴェルスさんは魔術師さんをロープで縛り、牛車に乗せました。

 隣では先程ヴェルスさんに倒された山賊さんも縛られています。


「それで師匠、生かして捕らえましたがどういった意味があったのでしょう。山賊のアジトを聞き出して奇襲をかけるのですか?」

「物騒な発想をしますね。人を殺すのは良くないという極めて道徳的な理由ですよ。ですがまあ、折角捕えたのですし何も聞かないのももったいないですね。村を守っている理由を訊ねましょうか」


 ビクリ、と魔術師少年の肩が跳ねました。

 私に向けて見開かれた目は『どうしてそのことを知っているのか』と雄弁に訊ねています。


「私の《スキル》の力ですよ。簡単に言うと《気配察知》の上位版で、この山にある村の気配を捉えているのです」

「そ、そんなの嘘だよっ。ここから村まではかなり距離があるのに……」

「嘘ではありませんよ。私の感知範囲は《気配察知》とは比べ物にならないほど広いのです」


 ロンさん達が他の山賊達と一緒に後続の牛車に乗りました。

 見張りも必要ですし、こちらの馬車はヴェルスさんとドリスさんと山賊さん二名で既に手狭ですからね。

 後ろに出発の合図を送り、牛さんに前進の指示を出します。


「お、おじさん達は何しに来たの……?」

「おやおや、捕虜に質問されてしまうとは。とはいえ全てを秘密にしていては何も喋ってはくれないでしょうね。どうされますか、ヴェルスさん?」

「……これまでのことを話します。偽装ではなく真実を。貴族を嫌ってるのは伝わってきましたし、他の貴族に漏れることは無いと思うので」


 それからヴェルスさんは自分が領主を殺すまでの経緯いきさつを、自身が王族なことなどは伏せつつ話しました。

 そして《迷宮》や《職業》を与えたところまで説明し終え、話題はこの旅の目的に移ります。


「──こうして僕達は領地を回り始めたんです。あちこちの村が食料不足に陥り、魔物も増加し、変異種もかなりの数が人里近くに現れ出していたからです」

「…………」

「過剰に備蓄されていた年貢を返しつつ、変異種の情報があれば倒しています。師匠……あちらのヤマヒトさんの探知能力なら変異種の居場所もすぐに特定できますからね」

「……そんなことになってたなんて……」


 聞き終えた少年はパッと表情を輝かせました。

 まるで救いの主が目の前に現れたかのようです。


「ぼっ、僕達は──」

「待て坊主っ、騙そうとしてるに決まって、づぅ」


 ヴェルスさんに倒された山賊さんが、情報を話しかけた少年を制止します。

 喋ると傷に響くようで、小さく呻いていました。


「…………」


 ヴェルスさんは口をつぐみます。

 先程語ったことが真実であるとは証明できないためです。

 かと言って、反論ができないかというとそうではありませんが。


「たしかに、山賊さんの言葉は否定できませんね。ですが、あなたは本当に、心の底から自分の言葉が正しいと思えていますか?」

「何を、言ってる……?」

「ヴェルスさんが話している間、あなたはそれを遮りませんでした。それはヴェルスさんの話が真実であると、本心ではそう感じていたからではないのか、と申し上げているのです」

「んな訳、ねぇだろ」


 山賊さんの返答は無視して口を動かします。


「例えば態度。ヴェルスさんは山賊さん達にも優しく接していました。それはあなた方の知る貴族とは別物ではありませんでしたか?」

「……それは……」

「それにあなた方が全員、五体満足に生かされていることも不可思議です。情報を引き出すだけならこの半分でも良いはず。山賊を名乗る相手を活かして捕らえ、しかも拷問にもかけないなど、仁君の行いだとは思いませんか?」

「…………そう言って、騙すつもりなんだろ……」


 先程までより回答までの間が延びていました。

 そのようにして山賊さん達とお喋りしつつ山道を行きます。

 そして山賊さんが不貞腐れたように黙り込んでしまった頃、目的の村が見えて来ました。


 山道の上下に広がるなだらかな斜面。

 その斜面上に数え切れないほどの家屋が建っていました。


「多い、ですね……」


 ヴェルスさんが圧倒されたように呟きます。

 山村でありながらハスト村に迫る戸数に驚いているようです。

 そんな時でした。


「──お前達、何者だッ!」


 隠された村へと進んで行く牛車達の前に、一人の偉丈夫が降って来たのは。

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