第2話

教師と生徒が恋をするなんて非常識? イマドキそんなの時代錯誤だよ、先生。

現に、ほら、体育のタナカ先生なんて、中等部の担任やってた頃の教え子と結婚してるんだよ?

奥サンまだハタチになったばっかりなのに、もう2人目のがオナカにいるんだって。タナカ先生、自慢げに話してたもん。

……デリカシーないよね、彼。男子だけ集めての性教育の時間に言うんだよ、そんなこと。


……僕も、ほら、ひどい目にあわされたしね、タナカ先生には。

遺伝的に日の光に弱い体質なんだって何度も訴えたのに、ムリヤリ僕を校庭に引きずりまわして。

「ナマっチロい顔でスカしやがって。少しはオレみたいに日焼けして男らしくなれ」とかさ、言い分がムチャクチャなの。

「女子にチヤホヤされていい気になってんだろ? 根性タタキ直してやるからな!」なんて。オカド違いにもほどがあるイイガカリでしょ。パワハラでしょ、アレって。

夏の昼下がり……思い出すだけでゾッとするようなカンカン照りだった。おかげで、ものの5分も走らないうちにブッ倒れちゃったもんね、僕。クラスのみんなの前で大恥かかされた。最悪だったよ、あのときは。


え? ……ええっと、……そうだっけ。ちょうどその日だった? タナカ先生が大ケガして入院したのって。ふぅん、……偶然だなぁ。

たしか、夜遅くにコンビニから歩いて帰る途中、野犬かなにかに襲われたとかいう話だよね。


そうそう、そういえば、……隣のクラスのナントカってのに聞いたんだけど。

そいつ、タナカ先生が救急車で運ばれていった直後、たまたま同じコンビニに出かけててさ。現場、見ちゃったらしいんだ。

アスファルトにヌラヌラと大きな血だまりがあって……どしゃ降りの雨の後の水たまりみたいに……月明かりを照らしてキラキラ光ってた、ってさ。


ついてないよねぇ、このご時世に、……住宅街のド真ん中で、野生動物と遭遇するなんてね。

でもまあ、ほら。バチが当たったんじゃないかな……なんて、ね。うふふ……。


あ、……ああ、うん。ごめん、ごめんね、……冗談だってば、先生。ごめん、……不謹慎だよね、確かに。うん。……ちゃんと反省するから。そんなに怒らないでよ。


え……? ふぅーん、言われてみれば、……あのとき以来かぁ。野犬らしきケモノに通行人がノド笛を噛みつかれるっていう被害が市内のあちこちで起こるようになったのは。

まだ1匹も捕獲されてないんだ? へぇー、怖いねぇ……。


でもさ、タナカ先生の後に襲われて噛みつかれた被害者は、若い女の人ばかりらしいから……そのケモノも、味を選ぶようになってきたのかも?

あ、……また。もう、僕ってば。ごめん。ついついタチの悪い軽口を言っちゃう。クセなんだ。許して。

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