【GL】甘い瞳の魔女…トリック・オア・トゥイート
こぼねサワァ
第1話
はじめて
秋のおわりの、町の花火大会の夜だった。
パッと夜空に大輪の花が輝き、遅れて「パーン」と音が響くのが、やけに面白くてたまらなくて。
白いワンピースのスソを暗闇に舞う蝶のようにヒラヒラとひるがえしながら、夢中になって水べりをさまよううちに、小麦色の小さな素足がもつれた。
「きゃっ!」
可愛らしい短い悲鳴をあげながら、ハシバミ色の明るい瞳を思わずギュッと閉じた。
「あ……っ!?」
大きな目をこぼれんばかりに見開くと、自分より頭ひとつ高いところから、青白いくらいに透きとおった肌を持つ美しい少女が、夜の深海のように底知れない闇色の瞳をじっと注いでいた。
それが、
「大丈夫?」
ぶっきらぼうに聞いてくる声は、秋の夜風よりも涼しく清らかで。
それから、小さな手足をアタフタとふりまわし、自分の小柄な体をしっかり抱き止めてくれていた
頭の左右にそれぞれ結んでいる、毛先のクルンとした栗色の長い髪を、ウサギの耳みたいにピョンピョンはずませながら。
そうして、少し離れたところから、またポカンと
対岸にはハデな花火があがり町の明かりもにぎやかだが、こちらがわの岸辺は、うっそうとした常緑樹の森に覆われる闇はどこまでも静かで、漆黒の空に浮かぶ三日月だけがひんやりとおぼろな明かりをそそいでいる。
その闇に溶け込みそうな濃紺色のベロアのワンピースを均整のとれた肢体に身にまとう
輪郭のはっきりした細い柳眉、切れの長い目、優雅な鼻スジに口角のひきしまった意志的な唇……できすぎたアンティークドールのような顔だちは、無機質なまでに整っている。
肩のあたりで切りそろえた真っすぐな黒髪は、月の光に誘われるように、ツヤツヤと青みがかった輝きを放っていた。
自分と同じ年頃の少女の見た目には違いないのに。
あまりに
それで、
『
と、いつか母から聞いた言葉を、今さらハッと思い出してしまったのだ。
悪魔的と感じるまでに美しい少女を目の前にして。思い出さずにはいられなかった。
「アナタって……悪魔なの?」
今にも泣きそうな声で、
「は?」
しかし、次の瞬間には、綺麗な淡桜色の唇は惜しみなく開かれて、子供じみた高笑いがキャッキャと盛大にもれた。
「なにそれ! 本気で言ってんの?」
「だ、だって……!」
「わたしが悪魔だとしたら、アンタは、ウブで世間知らずの魔女ね」
「ウブ……って?」
そうして、いつの間にか、乾いた落ち葉をクッションがわりに並んで腰かけながら、2人は、対岸の花火を一緒に眺めた。
秋に入るとこの避暑地は閑散とするのだが、来年の春から全寮制の私立小学校に
やがて、滝のような仕掛け花火が流れおちたあと、スターマインが次々と連発して空をいっそう明るく輝かせる。
いよいよ、祭りのフィナーレが近づいてきたのだ。
「じゃあ、もう会えないのかな」
月の光を柔らかくうるませる
咲きぞめの薔薇のような芳香が、
「え……?」
夜の闇さえハネ返しそうな混じりけのない漆黒の瞳が目の前に近づくと、互いの可憐な鼻の先がくっつきあった。
目をパチクリさせるうちに、
「えええっ!?」
マブタの上に、温かい湿った粘膜がかすかに触れて。すぐに離れた。
「あら、残念。アンタの目玉、キャンディーみたいに甘そうで、おいしそうだから。ちょっと味見してみたかったのに」
「…………!」
それから、おもむろに自分のワンピースのポケットを探り、透明なセロファン紙に包まれた
「くれるの?」
「ん。……あげる」
コクンとうなずいて前を向けば、並んだ2人分の足が自然と
手入れの行き届いたレースアップの革のブーツに包まれた
もう片方の足の爪先で、モジモジと汚れを落とす。
「これ。アナタの目玉の代わりってこと?」
「ありがとう。……また、いつか、ここで会えたらいいな」
と、ヒトリゴトのようにつぶやいた。
そして、立ち上がりざま、故意か偶然かわからないようなアイマイさで、
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