星朧メモリー 春の星は少年に焦がれてはなお、死を宣告する。

詩歩子

第1話 地獄の季節


 星朧、僕は万朶の桜花が泣き咽ぶ、小夜すがらに白い病棟に幽閉された、深窓の姫君のようによろしく、青いベッドの上で四六時中、横になっていた。


 春夜、僕は眠れぬ、星月夜を横目にベッドの上に腰掛けながら詩集を読み耽っていた。


 


 その朽葉色の詩集とは、十六歳で第一級の詩編を紡ぎ、弱冠二十歳で詩作を放棄し、文学へ絶縁状を叩きつけた、天賦の奇才、アルチュール・ランボーの『地獄の季節』。


 


 十五歳の僕にはこの青い詩集がこの上なく、意地らしいほどに心地よかった。


 地獄への苦悶がぎごちなく、青く爽快で、油断を辞さない修羅のこの世にこの青い詩編は寄り添っていた。


 


 ヒヤシンスブルーの星影の下、ああ、世界はもう、青く、白く、黒く、僕が好きな色彩で満たされているんだね。


 魑魅魍魎の黄泉の国から、高天原からご帰還された伊弉諾尊が小戸の橘で禊を払われた、と謂われのある、精神科病棟の中で、そのサファイアのような青いスピカ、和名の、真珠星を青い窓辺から見上げた。


 睡眠薬が効果を発揮しなかったんだ、夜更かしもたまには悪くない。


 


 隔離された閉鎖病棟での暮らしは、居ても立っても居られないほどに単調だった。


 何もやるリストはない。


 やりたい希求がごっそりと摩耗するのだ。


 


 明朝に目覚め、頭がくらくらすると、ベッドの中でここが現世から隔絶された閉鎖病棟である、という事実が白く塗られた部屋で一目瞭然に分かる。


 


 その妙なる青白さは、朝日を浴びた向日葵ばかり描く画家が、一滴垂らしたプルシャンブルーの絵具のように、妙なる勿忘草色で麗しく染め上げていた。


 この青い空間に、僕は青い道程を躊躇いながら、そっと青く独り、青い孤独を謳歌しているように思える。


 

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