霧海に煙れ、怪物の宣誓
硯哀爾
Prelude
「──よお、久しぶりだなくそったれ。一年ぶりか? いや、まだそこまで経ってないかな。まあ時間経過なんて些細なものだ、いちいち気にしてたらきりがない。用があるならさっさと済ませて帰ってくれ、お前がいてもいなくとも大して変わりない。だったら邪魔がいない方を選ぶってものだろ?
……あ? なんで留まろうとしてるんだよお前は。話聞いてたか? それとも俺の言葉がわからない赤ちゃんか? 一応下層民にもわかる簡単な英語で話してやってるんだが……それとも端から聞く気がないのかな。これだから嫌になるんだよ、お前を相手にしてると気が滅入る。
大変残念なことに、乗船までそこそこの時間がある。本音を言わせてもらえば、お前の姿なんか一生見たくなかったし、これから始まる長旅でも思い出さない予定だったんだが……全くもってついてない。不本意ではあるが、お前の話し相手になってやるよ。俺の振る舞い一つで、愛するものが貶められるのは腹立つしな。
そうだ、せっかくだし、例の会合の思い出話でもするかい? あの時の参加者でまともに残ってるのなんて片手で数えるくらいだろ? あいつら、今何やってるんだろうなあ? 中身が中身だけに、普段は懐かしむことすら許されないんでね。大した思い入れはないし、俺からしてみれば然したる影響のないよもやま話、重要視する価値など皆無の些事な訳だが……すっかり忘れちまうってのもつまらない。たまには思い返してやろうという訳さ。あんなでも一応黒幕だったしな、俺。
勿論、好きな時に退席しようが忘れようが構わないぜ。これはあくまでも過去の一端、詳細に言えば俺の人生に劇的な影響を及ぼさなかった、大したことのない
さて、こいつは喜劇か悲劇か、はたまたどちらでもない何かなのか。もしも時間と最後まで聞く根性があったなら決めてくれよ。今更部外者面したって無意味なんだから、さ」
斯くて物語は幕を上げる。
黒幕が目をすがめる。怪物じみたそれを前に、たった一人の傍聴者は耳をそばだてた。
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