第25話 ベッドの中で

「ふへへ、悠真君のお部屋、久しぶり……最近、入ってなかったから、久しぶりで、なんか変な気分……えへへ、さっきより、悠真君の匂い、濃くて好き……えへへ」

 俺の部屋に入った私服姿の風花ちゃんが、ふわふわ部屋を見回りながら、ゆるゆるな笑顔でそう笑う。


「あんまそう言う事言わないで、風花ちゃん。それに久しぶりって言っても、一ヵ月も経ってないでしょ」


「一ヵ月は長いよぉ、風花、毎日したいもん……ちっちゃい頃とか、中学校の時とかは、毎日だったのに。最近、全然だもん、全然会えないんだもん……風花は、悠真君と、毎日でも、したいのに……風花は、悠真君と、毎日、一緒が良い」


「俺も……もう互いに大きくなったでしょ、高校生でしょ。それに、風花ちゃんには翠ちゃんっていう彼女いるじゃん、念願叶った彼女がいるじゃん」

 ……あぶない、危ない、流されるところだった。

 あまりにも風花ちゃんが可愛くて、あまりにも愛おしくて……思わず理性がぶっ飛ぶところだった。


 風花ちゃんに襲い掛かって、それで……ダメダメ、今の俺の彼女は秋穂さんなんだから。

 風花ちゃんへの好きを盛り返したら絶対ダメ、お互い好きな人がいるんだから。お互いの好きな人のためにも、そう言う事はダメなんだから。


「そ、そうだけど、でも……でも、悠真君は、風花の、特別だもん……特別な幼馴染さんで、特別な男の子だもん」


「特別でもダメでしょ、毎日は」


「で、でも、風花は……風花は、悠真君と……風花は、悠真君の……」

 もどかしそうに口をもごもご動かす風花ちゃんから、微かに俺の名前を呼ぶ声が聞こえる。


 ……特別か。

 実際俺はそうなんだろうな、風花ちゃんの中では多分俺は特別というか特殊な人間なんだろうな……昔からずーっと一緒な幼馴染で、しょっちゅう互いの家で遊んで、互いに甘えあって。


 少し人見知りな大人しいタイプで、可愛すぎる容姿もあって俺以外に男友達がいたこともなかったし、なんなら俺以外の男の子と中学の時に告白されて以来、話しているところすらあんまり見たことないし。

 そんな中で、ずっと一緒の男である俺って言うのは多分風花ちゃんの中ではすごく特殊な存在なんだろう……そう言う事なんだろう。そう言う事にしておこう、俺はそうしておきたい。


「そ、そう言うのじゃない、そうじゃなくて……風花は、その、えっと……風花は、悠真君の、悠真君と……あぅぅぅ……」

 俺の言葉を珍しくぴしっと否定した風花ちゃんが、また何か言おうとしたけど、でもわけわかんなくなったのか、そのまま俺のベッドの中に飛び込む。


「風花ちゃん、そんなヤマネコみたいな飛び方しないで、ベッドがぐしゃぐしゃになるよ。スプリング、ちょっとやばめなんだから」


「だ、だって、風花、恥ずかしい……すんすん……えへへ、やっぱり、悠真君の、ベッドは、落ち着く。悠真君の、匂い、いっぱいだ……えへへ、大好き」


「……だ、だから! そう言うの言っちゃダメだって、風花ちゃん。もし俺が、そう言う事考えたらどうするの?」

 ……昔から風花ちゃんはこうだし、しょうがないのはわかってるけど。


 でも、やっぱり……やっぱり、変な事、考えちゃうから。

 そう言う事俺の布団に包まりながら、そんな幸せそうな顔で言われると色々考えちゃうから、風花ちゃんにダメな考え持っちゃうから。

 風花ちゃんとそう言う事、したくなっちゃうから。


 それは絶対ダメ、そんなことするのは言語道断。

 風花ちゃんには翠ちゃんがいるし、俺には秋穂さんがいるし……ダメだよ、悲しませちゃ。俺も秋穂さんが悲しんでる姿、絶対見たくないもん。


「……風花は、別に、良いけど……悠真君なら、別に……」


「良くないの。ベッドに入るのは良いけど、そう言う事言うのはダメ。翠ちゃんが怒っちゃうよ」

 正直、難波ちゃん云々より俺の理性の方が危ないって言うのが本音だけど。

 そう言う事言われ続けると、その……風花ちゃんにそう言う事言われるのが、俺的には一番やばいから。一番ぶっ飛び理性と戦うことになるから。


「うゆっ、それは……でも、風花は、悠真君の方が……そそそ、そうだ、悠真君! その、えっと……ベッドに、入るのは良いんだよね? それに、いつもの、今日はしてくれるんだよね?」


「……まあ、久しぶりだし。たまにはいいよ、たまにはね」


「えへへ、やった……ふへへ、久しぶりの、悠真君だ……えへへ、久しぶりの悠真君、私に堪能させてね……えへへ」



 ☆


 午後5時、二人きりの部屋。

「えへへ、悠真君……好き、やっぱり、好き……こうやって、悠真君と、するの、好き……んっ、今全部、悠真君……風花の身体も心も、全部悠真君だよ……あっ、風花、すごく、幸せ……えへへ」


「……風花ちゃん、そう言うのダメ」

 ぎしぎしと軋むベッドの上で、布団に包まったまま、俺の腰元に抱き着く風花ちゃんと。


「だって、そうだもん、今の、状況……風花と、悠真君、一緒だもん……悠真君の事、いっぱい感じるもん……えへへ、嬉しくて、すごく、幸せ者だよ、風花は。風花は、悠真君に包まれて、凄く、幸せだよ……えへへ」


「……怒られちゃう、翠ちゃんに……もう怒られる気もするけど」

 その風花ちゃんの髪を、頭をゆっくりと撫でながら。

 風花ちゃんの体温を、俺も感じながら。


「でも、久しぶり。だから、すごく、嬉しい……悠真君と、久しぶりだから……でも、ちょっとだけ、風花、不満ある。風花、ちょっとだけ、ぷーぷー、だけど」


「……それなら、もう終わろうか? 風花ちゃんいやなら、終わるよ?」

 正直に言うと、こんな事するの、ダメだと思うし。

 風花ちゃんにも、俺にも恋人がいるんだから……こんな事、やめなきゃなのに。


 でも、風花ちゃんの顔は、それを許してくれなくて。

「ち、違う! これは、好き、幸せ、悠真君と、一緒、好き。悠真君との時間、幸せ、悠真君いっぱいで、大好き……でもね、好きだけど、でも、ちょっとだけ、悠真君に、聞きたいことがあるの……好きだから、悠真君に聞きたいことが、あるの」


「だからそう言うの……え、聞きたい事?」


「うん、悠真君に、風花、聞きたい……あ、あのね、そのね……あ、あのね……」

 顔を真っ赤にしながら、布団の中でもぞもぞ可愛く震える風花ちゃん。

 俺の腰を掴む手も、どこか震えていて、聞くのが怖いのか、怯えているようにも見えて。大好きな人を失うのが怖いように、小刻みに震えて。


「どうしたの、風花ちゃん? そんな怖い事? 大丈夫、翠ちゃんの事は、風花ちゃんが心配することじゃないよ⋯⋯大好き同士の二人なら大丈夫だよ、きっと」


「ううん、違う……翠ちゃんの、話じゃない……悠真君の、話……その、えっと、その……悠真君は、あの……歩美ちゃんと、お付き合いしてるの?」


「……え?」

 風花ちゃんから返って来たのは、予想外の言葉。

 俺と歩美の関係について、震える声で言ってきて……え、え?

 俺と歩美の関係? それの何が風花ちゃんに関係あるの? 


「だって、最近、悠真君と、歩美ちゃん、仲いい。だから、気になる……悠真君と、歩美ちゃんが付き合ってるのか気になる……風花は、その……ちょっと嫌だし、それなら。風花、悠真君が、歩美ちゃんと、そう言う関係なら、嫌だな」


「え、嫌、なんで急に……べ、別に付き合ってないよ? 俺と歩美は、そういうかんけいじゃない、ただの友達! だから風花ちゃんは安心していいよ?」


「え、ホント? 本当に、その……悠真君と、歩美ちゃん付き合ってないの?」


「うん、ホント。俺と歩美は付き合ってないよ……あ、でも、ナイショだけど、俺は……どわっ!?」

 俺は、歩美のお姉ちゃんの秋穂さんと付き合ってる―幼馴染の風花ちゃんになら、言ってもいいだろうと思ったその言葉を言う前に、身体がグラっと揺れる。


「えへへ、そっか、良かった……良かった、悠真君! 悠真君が、歩美ちゃんと、付き合ってないの……えへへ、良かった……風花、嬉しい……悠真君が、今、大丈夫みたいで……えへへ、風花、すっごい嬉しい」

 風花ちゃんが、俺の身体を思いっきり引っ張って、ぎゅーっと隣に引きずり込まれる。

 風花ちゃんとは思えないくらいの強い力で俺を引きずり込んで、俺の顔を見つめて幸せそうに微笑んで……でもその笑みはいつもと違うように見えて。


「ちょ、風花ちゃん!? う、嬉しいって何、そ、それに、こんな体勢、そんな顔……あ、あうっ……」


「えへへ、嬉しいんだよ、風花……悠真君の事、風花が……えへへ、風花が、好きに、大丈夫……えへへ、いつも、こうだったでしょ、風花と悠真君は……えへへ、悠真君……風花ね、悠真君の事……」



 ★★★

 皆さん、良いお年を!

 あと、年明けに新作として風花ちゃんと悠真君のIFの話(ただ二人がらぶらぶする話)を気分次第であげるかもしれないです!


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