第23話 美味しく食べて

「えへへ、悠真君好き……でも、あの写真はちょっとヤだったかも。歩美ちゃんとぎゅーってしてるの、ちょっと嫌だったかも……仲良しなのは良いけど、でもあんなにぎゅーはヤダ」


「アハハ、ごめんなさい……ごめんなさい、秋穂さん。お詫びに秋穂さんの事、ぎゅーってしますね! 秋穂さんの事、電車の中でも甘やかしますね!!!」


「ふふふっ、許す~……えへへ、大好き、悠真君。もっともーっと、悠真君とイチャイチャして、それで……えへへ。悠真君、私やっぱり今が幸せ……大好きな悠真君と一緒な、今が幸せ」


「ふふふっ、俺もですよ。俺も秋穂さんの事、その……大好きです。大好きですよ、秋穂さんの事」


「えへへ……大好き、大好き……大好き、悠真君……にへへ」




「……なんか普通にラブラブじゃね、あの二人? 私たちが心配して損したパターンじゃね?」


「そうかもな。普通にラブってる気がする。ところで、私たちはどこへ向かってるんだい、志摩?」


「わからん、二人を追って電車に飛び乗っただけだし」


「……私たちってホント無計画だよね」


『ねー!!!』




 ☆


「ただいま~! お姉ちゃんと悠真君、今帰ったよ!」


「た、ただいまでーす」


「あ、お帰り。お姉ちゃんと悠真、お帰りなさい……悠真、お帰り」

 秋穂さんを迎えに行って、そのまま電車で帰って藤井家。

 少しビクビクしながら家に入ると、制服から高そうな可愛い私服に着替えた歩美がお出迎えしてくれる……俺の方を少し睨んで、語気を強めながら。どこか恨みのこもったような、残念そうな瞳で俺の方を睨みながら。


「うん、ただいま! 歩美ちゃん、お買い物ありがとね! それじゃあ私と悠真君はお部屋行くね! えへへ、今日も悠真君と……えへへ」


「待って、お姉ちゃん。私、悠真と話あるから先お姉ちゃん部屋に行ってもらってていい?」

 そんな歩美の視線に気づかない秋穂さんが、俺の手を引いて2階に上がろうとするけど、それを止めるように歩美がゆっくりと猫なで声で声をかける。


「え、お話? 悠真君と? な、何をお話しするの……あ、あんまり仲良ししすぎるのヤダよ、お姉ちゃんは! その、悠真君と、仲良ししすぎるのはダメだよ!」


「うふふっ、しないよ、お姉ちゃん。ちょっと学校のことで話したいことがあるだけ、私と悠真クラスメイトなんだからいいよね、そのくらいなら?」

 ……ホント歩美はこういう白々しい演技が上手だな、って思う。

 どう見てもそう言う話するようにしか思えないもん、学校関連の話……絶対そんな話、する気ないのに。クラスメイトの話なんて、する気がないくせに。


 でもその演技は秋穂さんを騙すには十分すぎるくらいで。

「あ、学校の話か……そ、それならいいよ。で、でもすぐに終わらせてよね、私も悠真君と、お話したいから……わ、私が先に悠真君予約したんだから!」


「ふふっ、わかってるよ、お姉ちゃん。今日はすぐにお話終わるからさ……今日はもうすぐに、終わっちゃうから」


「う、うん……す、すぐにだよ。すぐに終わらしてよ……あ、悠真君もだからね! 悠真君も、早く私のとこ来てね!」


「はい、わかってますよ、秋穂さん! 大丈夫です、そんな仲良ししませんから! だから安心して、ゆっくりお部屋で待っててください!」


「えへへ、悠真君……うん、わかった! 悠真君の事待ってるね! えへへ、まだまだお話しすることも、甘やかしも足りないから……ぬへへ、悠真君! じゃ、すぐに!」

 そう言って笑顔で階段を走るように上がる秋穂さんに「危ないですよ」と軽く注意しながら手を振って……さてと。


「ふふふっ、白々しいね、悠真は……さっきまであれだけ私と仲良ししておいて、お姉ちゃんにも気が利いたこと言うなんて。悠真は悪い子だね、本当に」


「……そっちこそ。どうせ学校の話なんてないくせに」


「それも含めて、悠真は悪い子だよ……なんで私のとこ、来てくれなかったの?」

 さっきまでの猫なで声を少し怒ったような声に即座に変えて。

 さっきまで少し距離を取っていた歩美が距離をグイっとまた息がぶつかるような距離に縮めて、帰ってきた時と同じような鋭い目つきで俺の方を睨むように見つめてくる。


「だ、だって、秋穂さん迎えに行ってから」


「いつも迎えに行かないくせに? なんでわざわざ今日だけ?」


「それはその……秋穂さんの事、心配だったし。迎えに行ける時は行った方が良いじゃん! だって俺、秋穂さんの彼氏、だし? 彼女の事、心配だし?」

 でもその目つきはどこか妖艶に見えて、その距離で心配になるくらい心が揺れて。

 さっきの事もあって、その……ダメ、秋穂さん! 秋穂さんいるから!


「……またそんなこと言ってる……確かに悠真の彼女は今はお姉ちゃん。確かに今はお姉ちゃんだけど、でも……本当に好きな人は誰? 悠真が本当に好きだった人は誰?」


「あ、秋穂さんだよ! 秋穂さんが好きだった!」


「……嘘つき、私の事……ねえ、悠真。私、今日悠真の事待ってたんだよ? 悠真の事ずーっと待ってた……悠真が来てくれると思って、私の事、求めてくれると思って待ってたんだよ?」


「だ、だから帰ってきたじゃん! 今、こうやって!」


「……そうじゃないよ、二人の時に……私ね、悠真の事準備して待ってた。シャワー浴びて、服着替えて、色々準備して……待ってたんだよ、悠真の事? 悠真が色々してくれると思って、私待ってたんだよ?」

 そうピタッと身体を引っ付けた歩美は寂しそうにつぶやく。


 熱い身体からは石鹸の匂いと、さっきよりはるかにたわわに感じる柔らかい感覚。

 揺れる胸の中から聞こえるのは早くなる心臓の音と、歩美の甘えた息。


「……出来ないって、そんな事。からかうのやめてよ、ホントに。おかしいって、今日の歩美は。俺の大好きなのは秋穂さんだから。秋穂さんが大好きなんだから!」

 ……絶対におかしい、色々おかしすぎるって。

 こんなの本当に誘ってるようにしか聞こえなくて、それで……そう言う話だって、思っちゃうじゃん。

 そんな事ないのに、そんな風に……おかしいって、本当に!


 でも、絶対おかしいのに、歩美は止まらなくて。

「違う、違う、そうじゃない……そうじゃない、そうじゃない! そうじゃない、そうじゃない!!! そうじゃないでしょ、悠真!」


「そうじゃなくない、おかしい……おかしいって、絶対」


「おかしくない、おかしくない……おかしいのは悠真! だって、もともとは……もともとはだって! だって、悠真も私も、ずっと前から、お互いの事、ずっと前からだいs……!」


「ちょ、歩美、ストップ! ストップ、それ以上言わないで、ストップ……今の俺の彼女は秋穂さんなんだから! だからそれ以上は言わないで、歩美!」

 半狂乱になったように俺の胸を叩きながら、危ないことを口走ろうとした歩美の事を俺は必死に止める。

 やめてくれ、今そう言う事言うのはやめて……どこまで本気かはわかんないけど、俺が戻れなくなっちゃうから。


 俺は確かに歩美の事が大好きだった、本当に好きだった……だからそれを思い出すと、戻れなくなるから。

 絶対に自分止められなくて、それで歩美の事、俺は歩美がまだ……俺の彼女は秋穂さんだから! 秋穂さんなんだから!!!


「……そっか、そっか……そうだよね。お姉ちゃんも、大事だもんね、悠真には……悠真は、そうだもんね。悠真の彼女はお姉ちゃんだもんね……私も知ってる」


「う、うん。だ、だから、その……」


「でもね、その……私も、だから。私も悠真を……言わないで欲しいなら言わないけど、そう言う事。だから待ってるね、悠真……お姉ちゃんには絶対ナイショにするし、彼女はお姉ちゃんのままでもいい……だからね、いつでも待ってる。悠真がしたい時、いつでも……私も悠真の事、だから悠真が、私の事……美味しく食べてくれるの、待ってる……もちろん、今も」


「……え……」



 ~~~


「悠真君、あーん……って大丈夫、悠真君? なんか元気ない、大丈夫? このお肉、最高級だよ? いっぱい味あわないと!」


「あーん……え、大丈夫ですよ、秋穂さん! 美味しいですね、このお肉! すごく熱くて、柔らかくて、ジューシーで、甘美で、その……アハハ、すごく美味しいですね、秋穂さん!!!」


「良かった! すっごく美味しいよね、このお肉……でも、やっぱりなんか変だよ、悠真君? 大丈夫?」


「え? 全然大丈夫ですよ、秋穂さん! すごい美味しいです、すきやき!!!」


「……」



 すきやき、美味しくいただきました!!!




 ☆


《次の日》


「……ハァ……」

 帰宅したベッドの上で、俺は少し頭を抱える。


 正直、今日の事はよく覚えていない……がっこうで歩美といっぱい話してた気もするし、そうじゃなかった気もするし。

 昨日あんなことがあって、それで……今の俺は、ちょっとよくわからない。

 なんかもう、色々こんがらがって……ホントもう、全然わかんないや、色々。


「ハァ……ん、誰だろう? 宅配便?」

 そんな風に色々考えながらベッドの上に横たわっていると、ピンポーンという錆びれたインターホンの音が聞こえる。

 何だろう、家には俺しかいないから出ないといけないんだけど。


「はーい、どなた……って風花ちゃんか。どうかしたの、風花ちゃん?」


「あ、うん……えへへ、悠真君だ。良かった、悠真君出てくれて……えへへ」

 玄関を開けると、待っていったのは私服姿の風花ちゃん。

 えへへ、といつものようにほわほわ笑いながら、嬉しそうに俺を見つめる風花ちゃん。


「俺の家だし当然だよ」


「えへへ、でも……悠真君が、よかったから。悠真君といつものしたかったから、悠真君に、一番に会いたかった……ぬへへ、いつものしていい、悠真君? 最近してなかったから、いつもの、したい……えへへ」


「いつもの……あ、うん、わかった。いいよ、風花ちゃん……ていうか私服珍しいね、風花ちゃん。いつもは着替えるか制服なのに」


「えへへ、だって……乱れちゃうから、私。悠真君とベッド入ると、気持ちよくて、ふわふわして、乱れちゃって、明日着れなくなっちゃうから……だから着替えてきた。悠真君のベッドで、気持ちよくて乱れちゃっても大丈夫なよう、着替えてきました……えへへ、可愛い、風花?」



 ★★★

 この後、風花ちゃんの中学時代の話をあげるかもです。

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