第21話 本気じゃないよね?
「私たちの関係、見せつけてあげよ? お姉ちゃんに、わからせるんだから」
「……!?」
注目浴びるスーパーの店内で、ギュッと俺に抱き着くように身体を絡ませた歩美が、状況を飲み込めない俺のほっぺにぴとっと自分の熱いほっぺをくっつけて、パシャリとスマホのシャッターをきる。
ふんわり柔らかいいい匂いとか、もちっと心地よい暖かな感覚とかが地肌を通してゆっくりしっかり俺の身体に染みわたってきて……!?
「……ちょ、あ、歩美!? ななな何!?」
ど、どう言う事? な、何!?
確か俺は秋穂さんからLIMEでメッセージを貰って、それを返信しようとして……それがなぜにこんなことに!? なんで俺と歩美、こんな風にギュってして……え!?
周りのお客さんからもめっちゃ見られてるし、微笑ましそうに見守られてるし……ど、どう言う事!? なんでこんな事なってるの!?
「ふふっ、いい写真撮れた。私も悠真もいい感じで、これなら……ふふっ、悠真。この写真、お姉ちゃんに送るね。お姉ちゃんに私たちの仲、見せてあげるね」
困惑して頭が真っ白になってしまいそうな俺をよそに、ふふふと満足そうに笑う歩美は俺の腰に腕を回したままもう片方の手でスマホの画面を見せてくる。
その画面には、さっき撮ったであろう付き合いたてのラブラブ熱々なカップルのように、恥ずかしそうに顔を紅潮させながら、それでもピタっとくっつき互いを見つめ合う俺と歩美の写真。どこかぎこちなく、でも幸せそうにも写る二人の写真。
そしてその写真を送信する相手に選ばれたのは秋穂さん。
「……っておいおい! ちょ、何してるの、ダメダメ歩美! そ、そんな写真、お、送らないで! 秋穂さんに送るのダメだって! てか手も離して、なしてこんな密着しとる!?」
ダメだよ、こんな写真送ったら、秋穂さんなんて一番ダメだよ!!!
こんな写真送ったらダメだし、それにこんなところで密着するのも意味わかんない、何考えてるの、今日の歩美は!? 本当に何なの!?
「ふふっ、良いじゃん、悠真……私と悠真の関係、見せてるだけだから。仲良しで、それに……お似合いな二人の写真、見せてるだけだから。お似合いのポーズしながら、私と悠真の事、見せつけてるだけだから……それに周りの人にも認めてもらうのが一番大事な事かな、っておもってさ。関係認めてもらうことが一番大事だよ、って思ったんだよ、悠真。こういう関係が、お似合いの私だって、ね?」
「な、何だよそれ……え、えぇ?」
何だよお似合いのポーズ見せつけるって、何だよ周りの人にも認めてもらうって!?
暴走しちゃってるよ、完全に秋穂さんへの愛の暴走機関車でしょ、今の歩美! ハニトラが暴走してる、わけわかんないとこまで来てる!
俺と歩美があの、えっと……こ、恋人同士みたいなのを世間とかにばら撒いて、それで俺と秋穂さんの関係を……あ、待って違う? もしかして意味が違うのか、それ?
「アハハ、良い反応だよ、悠真も他の人も……ふふふっ、どうしたの、悠真? やっと素直になれそう? 周りの人も認めてくれてるし、そろそろ素直になってくれるよね、悠真?」
「……ううん、違う! 俺は歩美にだけ認めて貰えればいいんだ、関係は。歩美さえ認めてくれればいいんだけど……でも、そうだな、ありがと歩美!」
あ、あれだよね、アドバイスくれてたんだよね、歩美は!
俺と秋穂さんの事、応援するためのアドバイスを……そ、そう言う事だよね、歩美! ハニトラに見せかけたアドバイスとか応援をくれたんだよね、そ、そうに違いない!
確かに俺と秋穂さんはあんまり恋人っぽくないし、その……歩美の方が恋人っぽいかもだし、お似合いかもだけど、でも今の俺の彼女は秋穂さんなんだ! 俺が大好きなのは秋穂さんなんだ!
お似合いとかそう言うの関係ない、好きだから付き合ってるんだから……だからそう言うの良いです! 認めもらうとかいい、他人がどうこう言おうと好きだから付き合ってる、その一言に限るんだ……で、でもやっぱり周りからの目も大切だし。俺と秋穂さんじゃいつも兄妹に間違われてたし。
このままじゃいつまで経っても恋人同士って周りからわからず、俺が年を食うにつれて警察さんのお世話になる可能性が出てくるわけで。
だから歩美は教えてくれたんだよね、恋人同士の付き合い方とかラブラブに見える写真の撮り方とかお似合いに見せる方法とか! そう言うのを教えてくれたんだよね!
俺と秋穂さんが恋人同士に見えるよう、ちょっと強引だけど写真撮ったり人前でぎゅーってしたりで色々アドバイスくれてたんだよね、歩美は!
そうなんだよね、歩美! アドバイスくれて、俺と秋穂さんの関係、応援してくれてたんだよね! ね!
「わ、私にだけとか……も、もう! 今日の悠真大胆、それに情熱的! そんな禁断みたいな、確かにお姉ちゃんだけど、悠真は……でも、私はいつでも認めてるよ。悠真との関係、いつでも認めてる、いつでも私は良いんだよ……だからね、周りも納得させて、外堀埋める必要があるんだ。だからこうやって、人前で……ふふふっ、悠真?」
「う、うん! そうだね、そうだよね!」
ほ、ほら歩美もこういってくれてるし!
歩美も俺と秋穂さんの関係認めてくれてるって言ってるし!
だからその、アドバイスとか色々してくれてたんだよね、歩美は……そう考えないと、今日の歩美はちょっと大胆過ぎて、可愛すぎてやばいから! 今日の歩美は色々勘違いしそうでやばいんだよ、本当に! ハニトラのレベルが高すぎる、その……ハニトラじゃ無く思えてしまう! 俺の事が好きで、俺に好意を寄せてくれてて、それで……と、とにかくやばいんだよ、今日の歩美は!
さっきのラブラブ甘々カップルみたいな写真の撮り方とか、甘くて柔らくて、それで溶けそうに熱い身体の感覚とか、「私の方が悠真にお似合い」とか「悠真の今の彼女は私」とか「周りの人に関係見せつける」とか熱くて甘い息遣いとか、真剣な表情とか……俺の事が大好きで、恋人同士になりたいんじゃないか、って本当に勘違いしそうになっちゃうから! 本当に俺の事大好きなんじゃないか、ってイタイ考えもってしまうから!
ハニトラじゃなくて本当に俺の事が大好きで、俺と付き合いたくて。秋穂さんじゃなくて自分の方が俺の彼女にふさわしいと思ってて。
だから色々アピールして、俺と歩美が恋人同士だと周りに認めさせて、それで……そんなイタくて気持ち悪い妄想が、ああでもしないと頭の中を駆け巡ってしまう。
少し前までは歩美の事が好きだったってのもあって、実は歩美のアレはハニトラじゃなくて本当に俺の事が好きで、秋穂さんから俺を奪いたくて……そんなわけないのに、そんなイケナイ気持ち悪い妄想が頭の中によぎってしまうから。
今日の歩美の言動を見てると、そんな色々ダメな考えが浮かんでしまって、歩美の事を好きだった気持ちがまた浮かび上がって……だ、だからこう言う事です! 歩美は俺と秋穂さんの関係を応援してくれてる、そう言う事です!
「ふふふっ、そうだね、悠真……だから、お買い物の続き、しよ? 二人でこうやってお買い物してる時って、一番カップルに見えると思うし、もしかしたらそれ以上に……ふふふっ、今からもっと、見せつけなきゃね。私たちのお似合いの関係、他の人に見せてあげて、それで……ふふふっ、悠真」
「う、うん! そ、そうですね、はい!」
……でも正直、応援してくれてるようには見えないんだよなぁ。
このどこか蕩けた表情と言い、ちょっと甘えた声と言い……ハニトラにしては出来過ぎだし、なんか本当に俺の事好きで、恋人同士になりたいんじゃないか、って思ってしまう。大好きなのは秋穂さんじゃなくて俺なんじゃないか、って疑ってしまう……俺のイタイ勘違いであって欲しいけど、そんな考えが頭によぎって。
「ね、悠真? 悠真?」
「……歩美」
そんな顔でそんなこと言われたら、本当に、その……本気だったら気持ち、揺らいじ
ゃう。
今まで歩美は秋穂さんが好きで、それでハニトラ仕掛けてて……そう言う理由で色々避けてたけど、でもあの……本気だと、やばいです。
もし今までのが全部本気で、俺の事大好きで、それで……もし俺の気持ち悪い妄想じゃないとしたら、それは、その……ちょっと、考えがまとまらないな、今は。
秋穂さんも大好きだ、本当に大好きになった……でも歩美の事も、好きだ。
だからもし、歩美が俺に大好きなんて言ってきたら。
俺の事ハニトラじゃなくて、本当に大好きって言ってきたら……俺がどうするか、わかんない。今の俺では、その時の俺がどうするかはわからない。
―私はいつだって本気だよ、悠真。悠真も本気でしょ、私の事、大好きだよね……だから全部本気で良いんだよ? お姉ちゃんの事が気になるならヒミツの関係でもいい……私は悠真が大好きだから。悠真の事、お姉ちゃんより絶対愛してるから。
―私いつでも待ってる、悠真が素直になってくれる瞬間……私からは言わないよ、男の方から言って欲しいから。悠真に言ってもらうんだ……私の事、大好きだって。
★★★
秋穂さんルートは、全員のルートの中で最悪のルートです。
感想や☆やフォローなどしていただけると嬉しいです!!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます