第13話 秋穂さん19歳と藤井さん17歳
「あ、あの歩美、さん? お、怒ってらっしゃいます?」
「……ん、なんで美桜? 別に嫌じゃないよ、むしろお互い部活休みで一緒に帰れるの嬉しいくらい」
「え、あ、そうなんだ! そ、それは良かった! も~、歩美ちょっと怖かったから心配だった!」
「ごめんね、美桜。でも、そうだね……確かに怒ってると言えば、怒ってるかもね? 美桜には怒ってないけどね。まあこの後次第かな、どうせこの後も一緒に居るし。この後次第で許してあげるかも。ちゃんとしてくれたら、許してあげるし、もっと好きになるかも」
「そ、そうなんだ……ひえっ、絶対のーまの事だ、さっき話してたし、それに好き、やっぱり付き合って、突きあう……ひょぇぇ~……す、すげぇ、のーま、歩美……」
ブツブツと早口で色々呟きながら、あわあわ真っ赤な顔でほっぺに手をやり悶える美桜……ふふっ、これで美桜はもう完全に信じた、私と悠真が付き合ってるって。外堀、一つ埋めれた。
「二人、いつのまにそんな関係……直接聞いて、ああでも隠してる感じだったし、二人の世界って感じだし、どうしよう……」
でもちょっとだけ罪悪感あるかも。
こんな風に美桜を騙して、悩まして……ああ、でも別に嘘ついてるわけじゃないか。
悠真が私の事好きなのは本当だし、ちょっと色々怒ってるのも本当だし。
だから嘘じゃない、私と悠真は両想い、今日次第で全部変わる。
昨日の関係をひっくり返して、また新しい関係を創造する。
お姉ちゃんには申し訳ないけど、こればっかりはしょうがない。大好きなお姉ちゃんでも大好きな悠真にはかなわない。
今日も家来るでしょ、悠真? お姉ちゃん楽しそうだったし、今日もお家デートでしょ? しょうがなく付き合ってるお姉ちゃんと今日も一緒に過ごすんだよね?
だからその時が私たちの時間。私と悠真のラブラブな時間に変えるんだ。
お互い大好き同士の私たちでもっともーっとラブラブ楽しい事しよ?
大好きな私たちでお姉ちゃんよりもっともーっと楽しい関係になろうよ、悠真?
「ふわぁぁ、これ絶対イチャイチャのプラン考えてるうよ、絶対に家に帰ってからのーまと何するか考えてるよ……私も彼氏欲しいなぁ……」
☆
「えへへ、悠真く~ん……えへへ。悠真君になでなでされると、お姉さん嬉しさと幸せでとろとろなっちゃいそうです……ふへへ」
「ふふふっ、そうですか! それならもっとなでなでしちゃいます、もっと秋穂さんの事甘やかしちゃいます!」
「も~、悠真君それはお家に帰ってから……えへへ、ここでも甘やかして欲しいけど、お家でもっとあまあまして欲しいな。お姉さんの事、もっともーっとめろめろして欲しいな」
放課後、俺に会いたいと言ってる小学生がいると呼びだされた用務員室。
そこにいたのは小学生……ではなく、俺にぎゅーっと抱き着きながら、頭を撫でられてふわふわ顔を蕩けさせる、俺の彼女の秋穂さん。
まあ、考えてみたらそりゃそうか。
小学生が高校にくるわけないもんね、普通に先生に聞くか、明日の予定とかは。
それなら見た目小学生にしか見えない秋穂さんがこの条件には一番適してるわけで……まあこれ、本人に言ったら怒るだろうけど。
でも秋穂さんがこっちまで来てくれるなんて嬉しいな、迎えに来てくれるの嬉しいな! ふふっ、家まで我慢できないし、もっと甘やかそう、秋穂さんの事!
「ふふふっ、悠真君、ちょっとやりすぎかも……でも、大好き。悠真君の事大好き」
「俺もですよ、秋穂さん! 俺も秋穂さんの事大好きです!」
「えへへ、嬉しい! でも私の方が悠真君のこと大好き……」
「ちょっとイチャイチャしてるとこごめんね、二人とも。僕の事、忘れないで欲しいな」
『あ!』
しばらく二人の時間を楽しんでいると、背後から申し訳なさそうな用務員さんの声。
あ、そういやこの人いたの忘れてた、ごめんなさい田中さん!
「いや、別に謝らなくて良いんだけどね。えっと、君が悠真君? この学校の生徒であってる?」
「はい、野中悠真です。2年3組です」
「それで私の彼氏さん! 悠真君は私の彼氏さんなのです!!!」
用務員の田中さんに自己紹介した俺に続いて、ぎゅーっと抱き着いたままの秋穂さんがぴょんぴょん嬉しそうに追加情報。
その秋穂さんの言葉を聞いた田中さんは、申し訳なさそうにしていた表情をさらにしかめて、
「いやー、そこなんだけどさ。あの野中君、あんまりこう言う事言いたくないし、好き同士だと気が引けるけど、でもさすがに高校生が小学生と付き合うってのはダメだと思うんだ」
「だーかーら! 私は小学生じゃないです、お姉さんです! 悠真君よりお姉さんだし、歩美ちゃんのお姉ちゃん! 小学生じゃなーい!!!」
「でもどう見ても小学生じゃん、君。小学生にしか見えないし」
「違う! お姉さん、私お姉さん!!! 悠真君は私のお姉さんおーらにめろめろになったの! そうだよね、悠真君!?」
「う、うん……アハハ」
……まあ正直、田中さんの言ってること、凄いわかる。
秋穂さんはどっからどう見ても小学生、身長もちっちゃいし、顔も幼い感じでくりくりおめめもつやつやお肌も可愛いし、なんか色々可愛いし。服も子供っぽくて可愛い感じですし。
俺だって初めは小学生だと思って接してたし、だからその気持ちすっごいわかります……でも本当に19歳なんですよ、秋穂さんは。ちゃんと証拠もあるんです。
「本当に秋穂ちゃん? 嘘ついてるんじゃないの、別に大丈夫だよ本当の事言って。大丈夫、先生は君たちは引き離さないよ? 野中君、ロリコンさんなんだよね?」
「違う! 悠真君はロリコンさんじゃないもん、年上のお姉さんが好きなんだもん! だって悠真君は私の事好きって言ってくれたの、私に可愛すぎてめろめろになったって言ってくれたの! 私の全部が可愛いって言ってくれたの!」
「それをロリコンって言うんだよ、秋穂ちゃん」
「むきー!!! だから違うって、悠真君はロリコンさんじゃ……」
「秋穂さん、秋穂さん。学生証、見せてあげてください。秋穂さん学生証持ってるでしょ、それ見せてあげてください」
「私を大好きな年上好きの健全な……あ、ホントだ! 学生証見せればいいんだ、ないすあいであ悠真君! 先生、ちょっと待っててくださいね、ちゃんと証拠見せますから!」
ロリコン論争を繰り広げていた秋穂さんが、俺のアイディアにポンと手を打って、田中さんを指さして宣戦布告してからカバンの中身をごそごそと漁り始める。
「小学生だよね、この子? 秋穂ちゃんここのぴちぴちむちむちJKより年上って嘘だよね、野中君? 流石に嘘ついてるよね、君はロリコンだよね?」
「用務員の先生がぴちぴちむちむちとか言わないでください、捕まりますよ。あと俺も俺もロリコンじゃないです、普通に秋穂さんが好きなだけです」
「だからそれをロリコンって……」
「あったー!!! 学生証発見、一転攻勢!」
しばらく学生証を探してあたふたする秋穂さんを待っていると、カバンの中から緑のカードを取り出した秋穂さんがドドン! と自慢げにそれを用務員さんに見せつける。
昨日も見たその学生証には『藤井秋穂 19歳』を示す名前と生年月日。
「どうだ、先生! 19歳、悠真君よりお姉さん!」
「……お姉ちゃんの学生証かな? よく似てるね、お顔! 姉妹でそっくりだ!」
「なんでそうなるの!? 名前書いてあるじゃん、藤井秋穂って私の名前書いてあるじゃん!!! 顔も一緒でしょ、私と!!!」
「だってその……え、本当なの、これ? 野中君これホント? 先生、これ見せられても信じられないんだけど」
「本当なんです、田中さん。信じられないかもしれないですけど信じてください」
「そうだよ、19歳! 悠真の彼女、ロリコンさんじゃなくて19歳のお姉さん好き!」
学生証を2度3度横目で見ながら、まだ信じられないという風に俺の方を見る田中さんにそう告げる。
信じてください、本当に俺の彼女の19歳なんですから! 俺はロリコンじゃなくて秋穂さんが好きなんですから!
そんな俺たちの言葉を聞いて、一瞬う~んと首を捻りながら考えた田中さんは、
「ま、まあ繭ちゃんの中学時代のどう見ても20代中盤のあの老け顔よりはマシか……わ、わかったよ二人とも。信じるよ、秋穂ちゃんは19歳で悠真君はロリコンじゃないんだね。OK,信じる信じる……まだちょっとアレだけど」
「よっしゃ、やっと信じてくれた! どう見てもお姉さんだからね、私はどう見ても19歳だからね!!! 悠真君よりも歩美ちゃんよりもお姉さんだよ、私は!!!」
『……アハハ』
……まあ、田中さんが信じてくれたからいいか。
秋穂さんが俺の彼女だって信じてくれたからいいか!!!
~~~
「悠真君帰ろ! お家帰って、さっきの続きしよ、もっとあまあましよ! あと、帰りは手繋いで帰りたい!」
「良いですよ、秋穂さん……あ、すみません、ちょっと待っててください……あの、田中さんちょっといいですか。その、えっと……秋穂さんが俺の彼女だ、って事あんまり言わないで欲しいです。内緒にしてるんで」
「言わないよ、生徒の恋路に手出しはしません。繭ちゃんのせいで、色々まなばされたからね」
「……繭先生と何かあったんですか?」
☆
「ただいま~! お姉ちゃんと悠真君が帰ったぞ~!」
「帰りました~……お」
「ん、お帰り、お姉ちゃん。それに悠真もお帰り、やっぱり来たね」
秋穂さんの小さな手をギュッと握りながら、のんびり藤井家の扉を開くと待ち構えていたように少し露出多めの私服姿の藤井さんが出迎えてくれる。
その目はなんだかギラギラ輝きながら俺の方を見ていて……うわっ、やっぱり凄い目の敵にされてるな。来て欲しくなかったんだろうな、この感じ。普通に怖い。
「うん、来たよ! 悠真君と私はらぶらぶだからね、今日も来ます! 今日はお部屋行くね、私たち!」
でもそんな雰囲気を感じないのか、秋穂さんの返事は明朗快活。
らぶらぶとか藤井さんの前で言わないでください、俺殺されちゃいます藤井さんに!
「そっか、お部屋か……じゃ、私も自分の部屋居るね」
「うん、わかった! えへへ、それじゃあ悠真君、私の部屋行こ! お部屋で、その……えへへ。あ、先にちょっと片付けだけさせて!」
「は、はい! そうですね、秋穂さん!」
でも秋穂さんのこの可愛い笑顔を裏切るわけにはいかないので、怖い藤井さんをなるべく考えないようにして秋穂さんと部屋の方へ。
「……ん? な、何?」
向かおうとしていた時、つんつんと制服の端を藤井さんにつままれる。
ど、どうしました……お、脅しですか!? 一旦は聞きますよ、何でも!
「ふふっ、悠真……ちょっと耳貸して」
「え? み、耳? な、何?」
「ふふっ、良いから」
何だか不思議で怖い雰囲気の藤井さんに言われるがまま耳を差し出す。
な、何ですか……鼓膜破壊だけは勘弁してください!!!
「ふふふっ、しないよそんな事……ふー」
「ひゃう!?」
「ふふっ、可愛い声、女の子みたい……やっぱり悠真は面白い、それに私の……だからね悠真、我慢しないで良いんだよ。何も我慢しないで好きな事、良いんだよ? 私は気にしないし、待ってるから……悠真の好きな事、していいんだよ?」
「……え?」
おそるおそる差し出した耳元で、くすぐったい蕩けるような言われた言葉は思ってたのとは違って。
我慢しないでいい、好きな事していい……え、ど、どう言う事!?
それって秋穂さんと……で、でも藤井さんは秋穂さんの事……あ、あれ? 認めてくれたの、関係? 急に!?
「ふふっ、じゃあそれだけだから。それじゃあ、悠真……待ってる」
困惑する俺をよそに藤井さんはそのまま自分の部屋の方へ向かって。
妖しい笑みを浮かべたまま、待ってると言い残して部屋に入って行って。
「あ、はい……はい?」
……待ってる!? 待ってるって何!?
も、もしかして俺が何かしたら藤井さんがそれをだしに報復してそのまま俺と秋穂さんの事……そ、その可能性高い、めっちゃ怖い!!!
やばいって、それはやばいよ……怖すぎるし、用意周到すぎるよ、藤井さん!!!
「いいよ~、悠真君! 入っていいよ!!!」
「は、はい! 入ります、秋穂さん!」
と、とにかく今日は変なことはしないようにしよう!
そうじゃないと……うん、やっぱりそうしよう!!!
「ふふふっ、ふふふふふっ……」
―待ってるよ、隣の部屋で。悠真、私はいつでも大丈夫だよ。
★★★
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