第11話 これでよし!

「絶対に言わないで、そのこと。私のお姉ちゃんと付き合ってること、他に人に言ったら絶対ダメだから」

 真っ黒な目をした藤井さんが俺の肩をガシっと強い力で掴んで、脅すような低い声でそう言う。


「な、何で? べ、別に言っても良いんじゃない? む、むしろ言った方が……」


「ダメ、絶対ダメ。野中君とお姉ちゃんが付き合ってること、絶対誰にも言っちゃダメ。言う必要ない、言わないで。それ言われると、色々困るから」

 その掴んだ手も、吸い込まれるような真っ黒な目も、何とも言い難い恐怖と不安感を覚えるもので。


 いつものキレイで見惚れそうな顔だけど、でも拭いきれない恐怖が染みついていて……で、でも!

「こ、困るって何が? 藤井さんは何に困るの、別に俺と秋穂さんの事でしょ? だからその、困ることないと思うんだけど」


「それは私が外堀……こほん。野中君は良いかもだけど、私が困るって言うか、私とお姉ちゃんも嫌って言うか。とにかくダメなものはダメだから。絶対ダメ、言っちゃダメ。困るの、本当に色々。色々、考えてること、あるんだから」

 明確な理由は出せないけど、でも否定するように。

 黒い目の藤井さんはその眼球を少し泳がせながら、でもまっすぐ俺の方を見つめて……ああ、そうか。これもそうか、さっきと一緒か。


「……わかったよ、言わない。秋穂さんも困るなら言わない、秋穂さんの迷惑にはなりたくないし。わかったよ、藤井さん」

 やっぱり絶対認めたくないんだな、俺と秋穂さんの関係。

 認めたくないからハニトラもするし、他人に関係言うのも止めるんだ。外堀埋められて、大好きな姉の秋穂さんの事が完全に俺の手に落ちるのが怖いんだな。


「よ、良かった! お姉ちゃんってのはアレだけど、わかってくれたんだね、そりゃそうだよね野中君! 当たり前だよね、ね? 絶対言わない方が良いもん、そうすれば私と野中君も……ね?」


「うん、そうだね。確かに言わない方が良いかも……これからの事考えても」

 ……だったらやっぱりこれからちゃんと藤井さんに認めて貰えばいいんだ。

 これから俺が秋穂さんの事ちゃんと好きって、彼氏だって認めてもらって、堂々と胸張って「俺の彼女は秋穂さん!」って言えるようになれば良いんだ。


 秋穂さんの事、もっともっと大好きになったら外堀も何もなくなる。

 本当の大好きで周りに、藤井さんに認めてもらえればいいんだ……だから藤井さん、ここは藤井さんの考えに乗ります! 


 でも絶対、堂々と言えるように認めてもらいますから! それに打ち勝って、堂々と周りの方から認めてもらいますから……そうしないと藤井さん、別の策とか考えてそうだし。強引に言うのは少し危険な気がする。


 藤井さんは俺の言葉を聞いて、いつものような明るい表情に戻って、

「うんうん! そうそう、これからの事! これからの関係考えたらそうだよね! 良かった、野中君もそう言ってくれて! 良かった良かった!」


「アハハ、そうだね」

 ……しかし、本当に藤井さんは秋穂さんの事大好きで、心配なんだな。

 確かに秋穂さん可愛いし、ちょっと危なっかしいしその気持ちはすごくわかる。

 会ったばかりの俺でも魅力にメロメロになるんだもん、ずっと一緒に暮らしてきた藤井さんならそれは当たり前だろう。自分の姉だし、そりゃ大好きになるだろう。


「納得してくれたなら早く行こ、早く美桜のとこ行こ? 多分不思議で心配してると思うし!」


「うん、そうだね。学校遅刻してもいけないし」

 でも藤井さんには安心してほしい。

 俺も秋穂さんの事大好きだから、藤井さんに負けないくらい秋穂さんの事好きになるから……だから秋穂さんと俺の事、認めて欲しい。

 ゆっくりでもいいからこの関係、堂々と言っていいように認めて欲しいな。



 ☆


「あ、二人とも……何の話してたのかな? わ、私が聞いていい話、かな?」

 少しの話し合いを終えてもう一度青ちゃんのとこに戻ると、少し気まずそうな顔をした青ちゃんがほっぺをぽりぽりかきながらそう聞いてくる。


 その様子を見た藤井さんは少し申し訳なさそうに、でもちょっと意味深な表情で、

「ごめん、美桜。ちょっと大事な話してた。悠真と二人の大事で、ヒミツの話……ね、悠真?」


「う、うん! そうだね、大事な話。ちょっと今後の話してた、ごめんね青ちゃん。ここで藤井さんに会ったのは偶然だよ、たまたまさっき会ったんだ。そうだよね、藤井さん?」


「も~、悠真は……うん、そうだね。私と悠真はたまたま、会ったの。すっごいたまたま、ホントにたまたま。偶然、あっただけだよ」


「あ、そ、そうなんだ……ナンカタダナラヌカンケイノヨカーン……そ、それじゃあ私先行くね! 先行ってるね、後は二人でゆっくり! ごめんね、邪魔して! し、失礼しましたー……ど、どひゃー」

 もごもごブツブツ口をまごつかせていた青ちゃんが、少し色づいたほっぺを隠すようにサッと運動部の俊足でその場を去っていく。


「よし、美桜はこれで……なんかわかんないけど、言っちゃってね美桜。それじゃあ行こ、野中君」


「そ、そうだね。行きましょ、遅れないように!」


「うん、遅れないように……ゆっくり二人で、イこうね」

 そして残されたのは俺と藤井さんもゆっくりその場を離れ、学校に向かう。


「野中君? 野中君?」


「ん? どうかした、藤井さん?」


「ううん、何でもない。何でもないよ、野中君」

 ……なんか青ちゃんに変な誤解された気もするけど、多分気のせいでしょう!


 藤井さんさっきから変な雰囲気で、すっごい色々かまけてくるから……ホント大好きなんだな、秋穂さんの事。

 でも俺はハニトラには引っかかりません、そんなのは大丈夫です……秋穂さんの事、俺も大好きですから!!!




 ―良かった、悠真がお姉ちゃんと付き合ってる、って言う前に止められて。それ言われると私の作戦、絶対機能しなくなるもん。外堀埋められると、もう終わりだもん。


 ―悠真が言わないなら、それが正解。逆に私が外堀埋めればいい、私と悠真が付き合ってる風にすればいい。私と悠真で外堀埋めればいい。


 ―そうすれば悠真もちゃんと素直になれるはず。私の事大好きだって素直な気持ち、ちゃんと言ってくれて、お互い好き同士でしゅきしゅきできて……ふふふっ、お姉ちゃんには申し訳ないけど、最高に楽しくて嬉しい未来が待ってる! 私と悠真のハッピーライフが待ってる!


 ―まずは美桜は堕とせたかな? でも美桜は意外と口固いから……やっぱり学校中でアピールしなきゃ。私と悠真が好き同士な事、ちゃんとアピールして外堀埋めなきゃ。待っててね、悠真! すぐに大好き同士、堂々と言えるから!!!



 ★★★

 タイトルちょっと変えました。

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