第1話 車に轢かれそうな女の子を助けた
「……ふふふ~ん、ふふふ~ん!」
「あら、楽しそうだね? 何かあった? 何か楽しそうな事でもありましたか?」
「ふふふ~ん、ふふっ! ふふふっ、ふふっ!!!」
好きって言ってくれた! 私の事、好きって言ってくれた!!!
☆
「それじゃあ、俺はこっちだから! また明日だぞ、悠真!」
「うん、また明日! 明日学校で!」
いつもの交差点で太雅と別れて、いつもの道を歩いて帰る。
いやー、今日は色々あったな!
藤井さんにまた話したいって言われるし、放課後には結果発表を受けて百合カップルが正式に誕生するし……難波ちゃんに風花ちゃん、末永くお幸せに! あ、あとたまに美少女百合成分を提供してくれれば幼馴染として俺は嬉しいです!
「……っと。点滅中か、次で行こ」
そんな事を考えていつもの道を歩いていると、いつもの青信号がちかちか点滅中、だから俺はちゃんと待機。
まああんまり急ぐこともないしね、今日は妹とへんな約束もしてないし。
だからのんびり、ゆるりと帰りましょうや。
「えっほ、えっほ……」
信号を渡っているのは大きなリュックを背負った小学生くらいの女の子、重たそうにゆっくりふらふらちょっと危なっかしく横断歩道を歩いていて。
アハハ、なんか心配なっちゃうな、赤信号までになるまでに渡り切れるかな?
子供が好きで、たまに小学生を見守るボランティアにも参加してて、それで将来は小学校の先生! なんて夢もあるからちょっとこういうとこ、目がいってしまう。最近はランドセルじゃなくても良いんだな、とかも思ったりして。
不審者みたいだからやめた方が良いんだろうけど、なんか微笑ましいし、つい見ちゃうのは仕方ないと思う!
「えっほ、えっほ……」
「ふふっ、頑張れ……っておいおい!」
一歩ずつ、また一歩とゆっくりのんびり歩いて行くその女の子を応援するような気持で温かい目で見ていると、横断歩道に突っ込んでくる車が一台。
しかもその車は減速しようとせず、隣を見る余裕がないくらいに一生懸命に歩いてる女の子に突っ込んでいって……
「……!」
考える間もなく、身体が動いていた。
渡るきの無かった横断歩道に条件反射のように一歩目を踏み出す。
「……ふえっ!?」
「……しゃっ!!!」
間一髪のところでその女の子を抱き上げることが出来て、そのまま車の脅威から逃げ切れて。
「……ってい!?」
でも減速することは出来なくて、ギリギリで回転できたものの後頭部から近くの植え込みに直撃。頭にボスっとザクっと鋭い痛み。
あちゃー、ミスった……女の子、怪我してないかな? こんなところ突っ込んじゃって……だ、大丈夫かな? 頭からは行かないように回転はしたけど擦り傷くらいは……ああ、ミスったミスった! ごめんね、俺の運動神経が悪いせいで! お顔に怪我とかしちゃったらどうしよう!?
「おい、クソガキ連中! ノコノコ歩いてんじゃねえぞ、バカ!!! ぶっ殺すぞてめえら!!!」
「歩行者優先!!!」
車の中から怒鳴ってくる男の人にはそう返して、ひょいっと胸にポカポカ体温の女の子を抱えたまま植え込みの中から起き上がる。
「大丈夫だった? ケガはない……って怪我してたらお……僕のせいだけど。ごめんね、変なとこ突っ込んじゃって。大丈夫だった?」
「あぅぅ、男の人……はうっ!? あ、その……わ、私は、だ、大丈夫! で、でも、その……き、君は平気? 頭に枝とか刺さってるし……だ、大丈夫?」
「うん、僕は大丈夫! 君を助けた名誉の負傷だからね、むしろ誇らしいくらいだよ! 良かった、間に合って。これからは車に気をつけるんだよ……って、ごめん。頭に葉っぱ付いてる。取ってあげるね」
「はうぅ……あ、ありがとうございます! 私車に気づかなくて、だから助けてくれなかったら……それにその後も、私の事……本当にありがとう! わ、私、あ、秋穂! 秋穂、って呼んで……き、君の名前は何て言うの?」
「どういたしまして。僕は悠真、野中悠真……うん、怪我がないみたいで良かった、秋穂ちゃん」
「あ、悠真君⋯⋯あれこの名前どこかで⋯⋯あれれ⋯⋯あ、違う、ごめん!
私怪我ないよ、ありがとう悠真君!」
俺の胸から身体を離した女の子―秋穂ちゃんは顔は恐怖とかで真っ赤になってるけど、でもそれ以外に目立った怪我はなさそう。
心配していた顔の怪我も、くりくり大きな瞳に少し涙が溜まってる以外は全然大丈夫そうで……この子よく見るとすごく可愛い子だな。
ちょっと藤井さんに顔が似てるというか、成長したらそれくらいの美少女になりそうというか⋯⋯俺にロリコン趣味はないけど、すごく可愛い子だと思う。
お人形さん見たいって表現が似合う、親さんに大事に育てられれてる感じの子。
「……ど、どうかした悠真君? そんなに顔、まじまじ……ど、どうしたの? お、お姉さんに何かついてる?」
「お姉さん? ちょっと分かんないけど、ごめんね。秋穂ちゃん可愛いな、って思って。親さんに大事にされてるんだな、って……だからなおさら間に合ってよかったな、って思ったんだ。秋穂ちゃん助けられて良かったなって」
「ふえっ!? そ、それって、その……」
「ああ、ごめん! 変な意味じゃなくて、本当に可愛い子だな、って……あ、手怪我してる! 秋穂ちゃん、手怪我してる! ちょっと待ってて!」
あわあわと焦ったように手を振る秋穂ちゃんの手の甲に小さな擦り傷を見つけたので、いつもカバンに入れている絆創膏を取り出す。
「ごめん、ちょっと動かないでね。消毒は出来ないけど……よいしょ、これで良し。痛いかもだけど、ちょっとだけ我慢してね」
「あう、そんな……あ、ありがと悠真君。あ、ありがとです……うゆっ」
「うん、どういたしまして……って大丈夫? 痛かったやっぱり!?」
手に絆創膏を張ると、一応お礼を言ってくれた秋穂ちゃんだったけど、でもその大きな瞳にからじんわりと涙が溢れ始める。
どうしよう、痛かったのかな? えっと……い、痛いの痛いの飛んでいけ!
「……そ、そんな年じゃないよ、私」
「あ、ごめん。そうだよね。そ、それじゃあ……よしよーし」
「……!?」
対応に困ってしまって、昔妹とか風花ちゃんによくやってた様に。
今も児童館とかイベントとかで怪我した子によくやるように、そのサラサラ髪の頭をナデナデする。
「うゆっ、悠真君……あうぅ……」
「大丈夫大丈夫、痛くない痛くない! 大丈夫だよ、秋穂ちゃんは強いよ! 大丈夫大丈夫! よしよしよしよーし」
「あみゅ……えへへ」
しばらくよしよししていると、その瞳から涙が消えて、楽しそうな笑顔が浮かぶ。
良かった、元気になってくれたみたいで! 良かった、本当に良かった!
「ゆ、悠真君もうちょっとナデナデしてくれる? もっとナデナデ、してくれる?」
「うん、もちろん! そんな事でいいなら、いくらでもしますよ、秋穂ちゃん。よしよーしよしよーし」
「うへへ、えへへ……えへへ、悠真君……えへへ、男の人の手、大きい……こんなの初めて……えへへ」
「よしよーし。元気になーれ、痛いの痛いの飛んでいけ!」
秋穂ちゃんが満足するまで、しばらくその小さな頭をナデナデ撫で続けた。
★★★
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