黒翼の救世主
獅子島
プロローグ
その日はとても暑い日だった。最高気温は39度と夏らしいと言えばそうだが、外に出ればアスファルトが太陽の日差しを浴び照り返り地面から熱を放つ。立っているだけで体の水分が蒸発しそうなくらいの茹だるような暑さだった。
それなのに、この体はもっと熱い。燃えるような血が沸騰しそうで頭が上手く回らなかった。体内で異常な熱さを放っているせいか鼻から血が零れる。
「……?」
混乱と朦朧とする意識の中、少年は目の前を見回すそこは大きなグラウンドで少年は授業の一環でグラウンドで次に走る為に待機をしていた。異変は突然起きた。
体の中が燃えている。それだけではない、体の右半身は黒く変色し固い、右目から血よりも明るい色のした液体が零れる。異常な症状だと頭の奥でぼんやりと思考を巡らせる。
傍にいた生徒たちが、驚愕の声を上げ恐怖で逃げていく。身動きが出来ない少年はパニックになっていた。騒ぎにより駆け付けた教師も迂闊に近づけないようで焦ったように少年の名を呼ぶ。
意識を手放しかけたその時、一人の生徒が少年目掛けてバケツの水を放る。
火が消えていくような音と共に、少年は後ろに倒れ込む。
呆然と立ち尽くす生徒たちを掻き分けるように、教師陣が少年を取り囲む。
次に気付いた時には、病院でいつの間に母親に付き添われ診察室の診察台の上に寝転び、ぼんやりとした意識の中カーテン越しではあるが医師の言葉に耳を傾ける。
「息子さんは、『神気』だと思われます。ここでは詳しい検査が出来ませんので専門の機関に掛かることをお勧めします。紹介状を書きますので……」
『神気』それは、神の力と呼ばれる特殊能力を持つ存在のことを意味する。神気という名は神の一族が名付けたと言われる名称で本当の意味は分からない。本来それがどういったものでどういった状態なのか誰も知らない。世間一般では総じてその者たちをバケモノと呼ぶことが多い。
そこで少年は、開けていた目を閉じた。小さく息を吐く。強張っていた体の緊張が解けていく感覚と共に、底知れぬ冷たさが体を包み込むようだった。
中学一年生の夏。少年は『神気』になった。
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