ユニコォォォォォオオオオオンッ!!!
名無しの権兵衛
ああ、さらば、哀しきコーン
今日は全校集会の日だ。
普通は体育館などで行われるのだが、雨が降ってなければうちの学校は校庭で行う。
そのおかげで曇り空の下、俺達は校庭に集められている。出席番号順に並んでおり、俺こと
特に仲がいいというわけではないが、席が近いこともあって普通に会話はしている程度の仲だ。とはいえ、放課後に遊びに行ったり、休日に遊んだりということはない。
基本、俺はボッチである。
いや、クラスには馴染んでいる。陰キャと陽キャの間を行き来している所謂、陰陽師とか呼ばれるタイプの人間だ。スクールカーストの中間といっていいかもしれない。
まあ、そんなことはどうでもいい。要は俺という人間はどこにでもいるということだ。
ただ、一つだけ自慢が出来るといえば……美少女な
「おい、宇田~。面倒くさいから抜け出そうぜ~」
ゲシゲシと俺の脛を蹴って絡んでくるのは横に並んでいる
しかし、噂ではパパ活や援交をしているといった黒い噂もある。勿論、俺は信じていないと言いたいが、残念な事に現場を目撃している。
夜の繁華街で恵美里が中年男性と腕を組んでいたのを偶然目撃してしまったのだ。信じたくなかったが、そういうことなのだろうと目を瞑ることにした。
とはいえだ。彼女は美少女。俺のような何の変哲も無い人間では今後の人生で絶対にお近づきになれないような美少女だ。たとえ、ビッチでも構わない。むしろ、それがいい。馬乗りされてガンガン搾られたい。
お金を払えばやらせてもらえないだろうか?
「おい、さっきから呼んでんのに無視すんな」
「いて! ごめんて」
「ったく……。全校集会なんてだるいだけじゃねえか。一人、二人、サボっても問題ないだろ」
「男女二人が抜けたら、あらぬ誤解を生むだろ。我慢しておこうぜ」
「なんだ? もしかして、アタシとやりたいのか~?」
ここの学校は校則が緩い。おかげで横にいる彼女は虎ガラのスカジャンを羽織っており、胸元が大きく開いている。年頃の男の子には刺激の強い格好だ。ごちそうさまです。
「お金を払えばやらせてくれるの?
「誰が天我ちゃんだ! このアホ!!!」
ついついバカなことを口走ってしまい、思いっきり頭を叩かれてしまった。
「次、バカなこと言ったら本気でしめるからな」
「あいあい」
胸倉を掴まれ、鋭い眼光で睨まれた俺は完全にチワワである。
解放された俺はボケっとした顔で壇上にいる校長へ顔を向けた。相変わらず、話が長い上に何を言っているのか理解できない。横にいる恵美里に目を向けてみると、彼女は大きく欠伸をしており眠そうにしていた。
無理もない。本当に校長の話はつまらない上に長いのだ。大半の生徒が聞き流しているか、隣の友人とお喋りをしていることだろう。
「おい、宇田~。いつまで、この話続くんだ~?」
「知らんて。そんな事よりも前見てないと先生に怒られるよ」
「ちょっとくらい平気だろ。もう少しアタシに構えよ」
「俺は真面目な生徒だから」
「嘘つけ。この前、仮病でサボってたくせに」
「…………」
などと、恵美里と喋っていたら突然、足元が光り始めた。
その光景に俺は驚いたが、すぐに歓喜へ変わった。
アニメや漫画を嗜んでいる俺は知っているからだ。
これは俗に言う異世界転移ということを。
これで俺もチート持ちハーレムだ!
そう思っていたら、なんと校庭の真ん中に立派な角を生やし、白く神々しい毛並みをしたユニコーンが現れた。
「ユニコォォォォオオオオオオン!!!」
誰かが叫んだ。俺も叫んだ。皆叫んだ。
突如として校庭のど真ん中に現れたユニコーンに一同大慌てである。一体全体これはどういうことだと教師陣がアタフタとしていたが、事態の収拾を図るべく警察や消防に電話を始めた。
そして、自然な態度で佇んでいたユニコーンを刺激しないように生徒達を避難させている。俺も素直に従って校庭の端へ避難し、真ん中にポツンと立っているユニコーンを注視していた。
「な、なあ、宇田! アレなんだ!」
「いや、どう見てもユニコーンでしょ」
「ユ、ユニコーンってなに!?」
「知らないのか? 神話とかにでてくる空想上の馬だよ。確か処女が大好きなんだ」
「しょ、処女ッ!? な、ならアタシは大丈夫だな! 処女じゃないし!」
「いや、逆にやばい」
「は!? なんでッ!?」
「非処女だと襲うらしい。あの頭に生えてる角で刺されて殺されるかも」
「あわわわ……!」
本当に知らなかったようで恵美里は顔を真っ青にし俺の肩を掴んで震えていた。プルプルしているの可愛い。
そうこうしていると日本人というのはバカなので大半の生徒が面白いからと携帯で動画や写真を撮り始めた。
教師が刺激しないように注意しているが携帯をしまうことはない。こうなってしまえば止めることは出来ないだろう。
すると、ユニコーンが動き始めた。首を動かし、校庭の隅へ移動していた生徒を見回している。一体、何を考えているのだろうかと凝視していたらユニコーンが走り出した。
俺達とは反対方向へ走り出し、避難している生徒達へ向かってユニコーンは突進する。自分達の方へ向かってきたユニコーンに生徒達は慌てふためき、散り散りに逃げていくがユニコーンの方が圧倒的に速い。
何人もの生徒が闘牛のように吹き飛ばされては宙を舞い、阿鼻叫喚の地獄と化していた。
しかし、良く見ると男子よりも女子の被害が大きい。ユニコーンに突き飛ばされて吹き飛んでいるのは大半が女子だ。
それを見てオタク共が天高らかに吼えた。
「奴らは非処女なりッ!!!」
そんなバカなと罵りたい所だが、ユニコーンは処女を好むという事は有名な話だ。対して処女ではないと分かると非常に怒り狂い、暴れるらしい。
まさにその通りと言わんばかりにユニコーンは暴れていた。
次々と跳ね飛ばされる女子たち。
その光景を見て愕然とする男子達。
中には彼氏がいないと噂の学校一の美少女もいたからだ。
しかも、デブスと言われていた女子もユニコーンに蹴られている。
あんな見た目でも処女じゃないんだな。
いや、もしかしたら玩具で喪失してたとか?
謎であるがユニコーンさんが判定したのなら間違いなく非処女なのだろう。南無南無。
「お、おい! こっちに来てるって!」
心の中で合掌していたら、ユニコーンさんは非処女を狩りつくしたのか、今度はこちら側へと攻め始めた。
一番最初に犠牲となったのは真面目キャラであった委員長。眼鏡をかけており、校則に従い黒髪を三つ編みにしていた彼女はユニコーンに跳ね上げられてしまう。
その光景を見て同じクラスメイトの男子達が嘆き悲しんでいた。信じていたのに裏切られてしまったのだ。その悲しみは深いものだろう。
ついで、可愛らしく、小柄でクラスのマスコット的な女子も見事に吹き飛ばされた。
やることはやっていたらしい。まあ、もう高校生なんだからやってない方が少ないだろう。
しかし、下手をしたらこのまま女子は全滅してしまうのではと危機感を抱く。俺の後ろにいる恵美里など絶対に吹き飛ばされるだろう。最悪、あの角で刺し貫かれて殺されてしまうかもしれない。
守ってあげたいが俺のような男では一蹴されて終わりだ。早く警察や消防が来てくれないだろうか。
「に、逃げるぞ!」
「どこにだよ!」
「分からん! でも、ここにいたらお前、皆みたいに死ぬかもしれないんだぞ!」
「うッ……」
死屍累々となっている校庭。彼氏と思わしき男子達がユニコーンに吹き飛ばされた女子たちを介抱している。見た感じ、殺されている者は一人もいないが恵美里は不味い。なにせ、彼女はパパ活に援交を行っているのだ。
ユニコーンさんも許しはしないだろう。
俺は恵美里の手を取り、走り出した。とにかくユニコーンから離れないと彼女が危ないと思って必死に走った。
最悪な事に校門から離れた場所にいる。今もユニコーンは非処女を見極め、あらぶっておられる。どうにか、その怒りを鎮めて欲しいものだが、打つ手は無い。処女さえいればと俺は奥歯を噛み締める。
残念な事に俺の後ろにいるのは汚れきった現代日本を代表する女子高校生だ。ワールドカップがあれば代表に選ばれること間違いなしのビッチである。
恵美里を連れてユニコーンから逃げているとサイレンの音が聞こえてきた。どうやら、警察と消防が駆けつけてくれたらしい。校門の方に顔を向けるとパトカーと消防車が見えた。
あそこに行けば助かるかもしれない。
もうすぐそこにまで迫っているユニコーン。恵美里を守る為にも急がなければと速度を上げた。しかし、それがいけなかったようだ。
「きゃッ!」
「天我咲!」
足がもつれてしまったようで恵美里が可愛らしい悲鳴を上げながら転んでしまった。足を止めて後ろで転倒している恵美里に駆け寄り、すぐに抱き起こそうとした時、影が差す。
ユニコーンさんだ。
いつの間にか、すぐ傍にまで来ていたユニコーンは俺と恵美里を見下ろしている。その曇りなき
俺は背後にいる恵美里の盾になるように一歩前へ踏み出した。
「天我咲。俺が時間を稼ぐ。お前はその間に校門を抜けて警察の所まで走れ!」
「で、でも、そしたら宇田が!」
「俺のことは気にするな。最後くらいかっこつけさせろ」
「う、宇田……」
「行け、恵美里!!!」
「ッ……!」
悲愴感漂う場面に俺は心躍ってしまい、今ならなんでも出来るとユニコーンへ立つ向かった。
「うおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」
拳を握り締め、ユニコーン目掛けて突進した。
「はれぇ?」
しかし、俺の握った拳は宙を切った。ユニコーンがピョンと撥ねて跳んだのだ。俺の頭上を越えて恵美里のもとへ向かうユニコーン。もはや、止めることは出来ず、俺は手を伸ばして叫んだ。
「やめろおおおおおおおおおおおおおッ!!!」
最悪な結末を思い浮かべてしまい、俺は涙が零れそうになる。
恵美里が振り返り、ユニコーンが彼女を角で刺し貫くかと思われたその時、誰もが息を呑んだ。
「え?」
唖然とする恵美里。彼女の前で跪くユニコーン。呆然とする俺を含めた恵美里以外の全員。
誰もが驚き、動揺に固まっているとユニコーンは恵美里のスカジャンを角で器用に引っ張りあげると背中に乗せた。
『え』
在籍していた女子達が吹き飛ばされ、在任していた女性教師が薙ぎ倒されたというのに恵美里だけが背中に跨っている。これはどういうことなのだろうかと大半の人間が固まっていると、オタク共が絶叫を上げた。
「うおおおおおおおおおおおおおッ!!! 天我ちゃん処女確定!!!」
「おお、おおおおお……。処女ビッチがリアルに降臨なされた……」
「世界はなんて美しいんだ……」
「彼女こそが正義。彼女こそが
「天我ちゃん、大勝利~ッ!!!」
「宴だ、祭りだ~! わっしょい、わっしょい!」
まあ、彼らの言うとおりだろう。
散々、暴れまわったユニコーンが恵美里を背中に乗せてご満悦になっているということは、彼女は貞淑な女性であったという事だ。
「はああああああああッ!? ち、ちげーし! アタシはヤリマンだし! 百人の童貞食ってるし! しょ、処女じゃねえから!」
今更、彼女がどれだけ喚こうがユニコーンさんが処女認定した以上、決して覆ることは無い。
救助に駆けつけてきた警察も消防も何事かとポカンとしているが、今だけは祝福してほしい。
曇っていた空もいつの間にか晴れており、光のヴェールが世界を照らしていた。いいや、正確に言えば恵美里を照らしている。なるほど、世界も認めたということに違いない。なんだか神々しく見える。
処女こと恵美里を乗せて優雅に校庭を走っていたユニコーンは満足したのか、光になって消えていった。摩訶不思議な光景に誰もが首を傾げたが、美少女ヤンキーで処女ビッチだということだけは皆忘れることは無かったのである。
顔を真っ赤にした恵美里が俺のもとへとやってくる。
「……あのさ、アタシのこと守ろうとしてくれたろ? あんがと……」
「いい夢みせてもらったからな……」
「アホ!!!」
◇◇◇◇
後日談としてはなんだが、まあ、確かに恵美里は処女であった。
今、ユニコーンさんが来たら多分怒り狂うけど……。
あと、俺が繁華街で見た中年男性はお父さんというオチであった。
美少女ヤンキーでパパ大好きっ子とか属性てんこ盛り過ぎひん?
まあ、可愛いから全部許すけど!
ユニコォォォォォオオオオオンッ!!! 名無しの権兵衛 @kakuyou2520
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