SWEET MEMORY
あの日……
ハヤリカゼの流行で急に学級閉鎖が決まった昼下がり。
いつもより早い電車に乗って学校から帰ることになった君と僕、同じ車両。
他に乗客は誰もいなかったから、君はこっそり、僕にキスしたんだ。
冬の終わりの日ざしは柔らかさをはらんで、車窓ごしにそっと差し込む。
真っ赤に火照った君の顔。その瞳の中に映る僕の顔も、恥ずかしそうに微笑んでた。君とおんなじに。
二番目のキスはほっぺたに。
それから、そっと離した唇を耳元に移して。君はささやいたんだ。
「卒業したら離れ離れになっちゃうけど。忘れないで。いつかきっと会いに行くから」
涙で濡れても熱いままだった、僕のほっぺた。
君が忘れないでって言ったから。僕は、ずっとずっと暖めてきたんだ。
あの日のドキドキ。宙にフワフワと浮き上がりそうな幸福感。
まぶしそうに目を細めて僕を見た君。明るく輝いてた茶色い瞳。僕を映してた。
忘れなかった。忘れられなかった。
やがて春、父親の転勤で地方に引っ越した僕に、君からの手紙は一度も届かなかったけど。
今日まで一度も、僕は忘れなかった。
過ぎていく毎日の中、とりとめもなく積み重なってく日常の記憶の山の一番テッペンに置いて、暖め続けてきたんだ。
あの日のこと。大切な思い出。昼下がりの電車の中のキス。誰にも内緒の秘密のキス。
「忘れないで」って言ったのは君なのに。
泣きじゃくった僕が「絶対に忘れないよ」ってヒトコトをまともにしゃべれるまで、いくつもの駅を乗り越して。
僕に誓わせたのは、君なのに。
あれから13年。
僕にとっては、きっと、あの日の約束が自然と導いてくれたに違いない「必然の再会」。
でも、君にとっては必然どころか、「偶然の再会」ですらなかった……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます