第4節 目標設定(前編)
試験期間も終わり、春休みを前にして開放感が溢れる中、新しいチームが始動していた。
とはいえ、まだ4月までは間があるので
翔は息苦しい教室から廊下に出て、窓から顔を出し冷たい空気を吸った。
キャプテンとして翔の初仕事となった目標設定のミーティングは、例年にもれず、もつれていた。それぞれの目指すものが違いすぎるせいだ。
県大会優勝、全国大会で1勝する、大方がそんな目標を口にする中、杉山
「俺はプロ目指してんの! タラタラやるくらいだったら意味ねぇし、全国行かなきゃ名前も売れねぇんだよ!」
翔はどう思うんだよ、と
「ちょっと休憩にしないか。空気も入れ替えて、頭も冷やそう。みんなそれぞれの意見をまとめてくれ」
と先延ばししてしまった。
皮肉っぽく聞こえてしまっただろうか、心配しながら
知らず知らず頭を抱えていたらしい翔は、
「考えごと?」
制服を引っ張られて振り返る。こんなこと柑那に
「今ミーティングやってるんだ。これからチームが始動するってことで、目標どうするってなったんだけどさ。
それぞれの意見が違いすぎて、まとまらなくて。みんな好き勝手言うしさぁー。どうしろっていうんだよ、なぁ?」
「目標を立てる時に大事なことって、なーんだ」
柑那は翔の問いには答えず、逆質問してきた。「なーんだ?」って、なぞなぞかよ、と苦笑しながら、翔は少し考え、答えた。
「自分たちの実力を
50点! と彼女はふざけたように言って、
「じゃあ、なぜ目標が必要なの?」
更に問いかける。
目標がなぜ必要かだって? そもそも、毎年そうやってきたから今年もそうしているだけで、目標を立てる意味なんて、翔は考えていなかった。それでも、柑那の質問に答えたくて、翔は必死に頭を回転させた。
「1年間ただ部活やるっていうんじゃなくて、なんか目標があった方がやることもはっきりするし?」
「わかってるじゃん。じゃあさ、その目標が、これは当然できなきゃいけないよな、って目標と、ちょっと大変だけどもし実現出来たらすごいよな、って目標。どっちの方がやる気出るかな?」
柑那は両手を肩の高さに挙げ、片方の手を少し高くして選択肢を示すように軽く振って見せた。
「そりゃあ、実現出来たらすごいよな、って方だろ」
翔は柑那の左手を指しながら答える。
「じゃあ、答えは明白じゃない?」
わかるような気はするが。スッキリしない。
「だけどさ、いきなり優勝とか無理じゃねぇ? とも思うし。去年だって全国にすら出られなかったんだよ」
「じゃあ聞くけど、考えてみて。全国優勝してる自分。想像してみて。どんな気分?」
「全国優勝か……」
一瞬だが、優勝してカップを
柑那は詳しくは聞かず、別の質問をした。
「ねぇ、目標って英語でなんていうか、知ってる?」
目標? なんだろう……翔が考えていると柑那は答えを待たず、とてもいい発音で
「Goal、だよ!」
と続けた。
ゴール。
大きなスタジアムの真ん中で、キックオフの笛を待ちながら、
ミーティングが再開する気配に、柑那はじゃあね、というように手を振って去っていく。後ろ手に組んだ指がリズムをとるように動いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます