第31話、両手に花

『ふう、いっぱいお買い物しちゃったわね。すっごく楽しかったわ』

「そうですね。ソフィアさんと服やアクセサリーを選ぶのは本当に楽しかったです」

「ソフィーはお目当てのゲームも買えたし、姫奈もたくさん服を買えて満足出来たみたいで良かったよ」


 両手に大きな紙袋を提げて嬉しそうな表情を浮かべるソフィア。彼女の隣を歩く姫奈も満面の笑顔だ。


 服飾店での買い物を終えた後はソフィアの希望でゲームショップへ行って、彼女が欲しがっていた新作ソフトを購入してきた。


 それからショッピングモール内のエントランスにて、それぞれ購入した品が入った紙袋を手に持ちながら一息つく。


 今日は色んな店を回って歩き回ったので、ソフィアも姫奈もそれなりに疲れが溜まっているようだ。だがその分楽しい時間を過ごせたようで、二人はどこか充実したような顔をしている。


『今日はレンのおかげですっごく楽しめたわ。本当にありがとうね』

「私からも言わせてください。連、あなたのおかげで今日は安心してお買い物を楽しむ事が出来ました。ありがとうございます」


 二人は俺に向き直ると真っ直ぐに俺を見つめながら、優しい微笑みと共に感謝の言葉を伝えてくれた。

 

 けれど俺はそんな二人の視線を正面から受け止める事が出来ず、照れ臭さを感じながら顔を逸らす。


「ありがとう、って俺は何もしてないぞ。ソフィーと姫奈が仲良く服を選んでる時、俺は一人で椅子に座ってボーッとしてただけだ」


 二人の為に悪い虫が寄らないように注意を払っていました、なんて言えるわけがなく俺は誤魔化すように答えた。けれど二人は目配せした後、くすりと笑い合ってから口を開く。


「ふふっ、連。気付かれてないと思っていましたか? 私達、ちゃんと見ていましたよ。連がボディーガードと協力して他の男性を遠ざけてくれていたところを」

『レンって本当に頼りになるわね。わたしとヒナさんが楽しめるように配慮して、出来るだけ自然に、わたし達に気付かれないよう動いてくれていたんだもの』


 ソフィアと姫奈はそう言いながら俺の腕にしがみ付いてくる。右にはソフィアが左には姫奈がいて、美少女二人は俺を見上げながら嬉しそうに笑っていた。


 美少女二人に腕を掴まれて、しかも片方ずつに胸を押し付けられ、二人の甘い香りと柔らかい感触にドギマギしながら俺は頬を引き攣らせる。


「まさか……ソフィーも姫奈も、全部気付いてて……」


「はい、もちろんです。変な人がニヤつきながら私達に近付いてきたはずなのに、急にいなくなるんですよ。その時は必ず椅子に座っていた連も何処かに行ってしまうのです」

『最初はどうしてか分からなかったの。それでヒナさんと二人で見てみる事にしたのよ。そしたらレンが英語で変な人をあしらう姿が見えて。それでその後には必ずボディーガードさんが来て、その変な人を追い払うからもしかしてって』


「つまりあれか。二人の見えないところでやってたつもりが、実はこっそり見られていたと……。やらかしたな、俺。ダサすぎる……」


『ダサくなんてないわ。だってそれが分かった時すごく嬉しかったの。レンはいつだってわたし達の事を想ってくれてる。それを行動で示してくれている。だからレンのおかげですっごく安心してお買い物出来たし、わたしもヒナさんも心から楽しめたんだと思うわ』

「連のおかげで私達とても楽しくお買い物出来ました。こんなに伸び伸び出来たのは本当に久しぶりです、全て連のおかげですよ」


 ソフィアは俺の手を握りながら瞳を輝かせており、姫奈も俺の手を握って柔らかな笑顔を浮かべている。そんな二人からの言葉に俺は思わず顔が熱くなってしまい、慌てて顔を背けてしまっていた。


 気付かれているとは思っていなかったのだ。


 別にカッコつけるつもりもなくて、単純に二人には楽しんでもらいたいと思っていただけなのだ。


 そういう気遣いがこうやってバレてしまうのは正気言ってめちゃくちゃに恥ずかしいもので、今すぐにでもここから逃げ出したくなるくらいの羞恥心がこみ上げてくる。


 けれど二人はそんな俺を逃さないと言わんばかりに、ソフィアはぎゅっと俺の身体を抱き寄せて密着してきて、姫奈は優しく包み込むように背中に手を当ててくれる。


 そして左右から聞こえてきたのは、 二人のお礼の気持ちを込もった甘い囁き。


「連はとっても頼りがいがあって誰よりも信頼出来る素晴らしい人です。やはり来期の生徒会副会長は連以外にはあり得ませんね」

『そうね。レンはやっぱり誰よりも頼れて素敵な人。でもちょっと抜けてるところがあってそこが可愛いくて大好きなの』

「ぐぬぬ……恥ずか死ぬ……」


 ソフィアはクスリと笑いながら、姫奈も小さく微笑んで言う。


 それは褒められているのか、それともバカにされているのか、あるいは両方なのか。いずれにせよ耐え切れず、買い物を終えて家に帰るまでの間、俺はずっと顔を赤く染めたままだった。

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