明烏、兄のお籠り
窓から差し込む日差しが眩しくて、リカルドはうつぶせ寝で枕を後頭部から被った。
「リカ君! 起きて! 大変!」
カーテンを開けても起きようとしないリカルドの
「なんで服着てるの?」
今度は、フランの胸に顔を埋めて朝日というにはだいぶ経過した日光から逃れようとしているリカルドは不服そうに言った。そのまま胸元の留めボタンを外してフランの肩から洋服を脱がしにかかる。珍しく抵抗するフランに寝ぼけた頭で「どうしたの?」と顔を上げた。
「あー…、リカルド君……ごめんね。私もいるのよねぇ」
気まずそうにルシオが自己の存在を宣言した。
ガバりとフランから身を剥がして、リカルドが飛び起きた。
「え!? ルシオさん! あ、すいません! いつもはこんなんじゃ……」
100% いつもこうなんだろうな、という説得力ゼロの弁明をする。
一瞬で目が覚めたリカルドは、前のはだけかけたフランの胸元のボタンをテキパキと留め直して洋服を整えてあげる。
「あ……うん。とりあえず、リカルド君も何か着てくれる?」
素っ裸だったことを思い出したリカルドは、へへッと引きつった笑顔を浮かべると、シーツを引きはがして体に巻き付けて別の部屋に服を着るために、そそくさと出て行った。
ちゃんとシャツを着てズボンを履いたリカルドは、キッチンで甘そうなカフェオレを作るとそれを持って、食卓でルシオの向かいの席に座った。
「お兄ちゃん、どんなに酔いつぶれても絶対帰ってくるし、何かあったんだよ!」
フランが落ち着かないように、部屋を行ったり来たりしている。
「タン兄、昨日帰ってきてないみたいなんだけど、何か聞いてる?」
意外とどうでもいい内容だったので、拍子抜けした。
「いや……何も聞いてないですけど、タンユさんだって、たまにはどっか泊まったりするんじゃないっすか……?」
「絶対ない! お兄ちゃんには、プロの女の人しかいないもん!! それにケチだから『お泊りコース』なんて絶対しない!」
フランに切れ気味にお泊り説を全面否定されて、リカルドはカフェオレを吹き出しそうになる。
「その悲しい個人情報、知りたくなかったわ」
リリリリリ……
電話が鳴った。フランが飛びかかるように出る。
そして、落胆したように少し話してから受話器をルシオに渡した。
「あ、ゴンさん。ごめんなさい。ちょっと問題あってフランの部屋にいて……」
「はい。…はい。わかりました。じゃあ、また後で」
受話器を置くと、ルシオは笑顔でフランに振り返り、こう言った。
「タン兄、昨日は酔いつぶれて、ゴンさんの家に泊ったんですって」
ホッとした顔をしたフランの頭を撫でると、リカルドの方へ向き直る。
「リカルド君のこと呼んでるみたいだから、一緒に迎えに行きましょう」
ルシオの笑顔に、リカルドは何も言わず立ち上がると、フランの額にキスをして彼女の頬を撫でた。大丈夫! といったニュアンスで、ニカッと笑い彼女を少し微笑ませる。
フランの家を出て、アパートのエントランスを過ぎると、リカルドはようやく口を開いた。
「嘘つくなんて、何あったんすか?」
ルシオの顔から笑顔が消えていた。
「兄さん…誘拐されたみたい」
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