2 ここはゲームの世界なのさ! な、なんだってー!?
突然だが、言わせてもらおう。
私が転生したこの世界は、とあるゲームをモデルとした世界であると!
根拠はある。
始まりは、私が転生してから数ヶ月が経ち、使用人達の会話を聞いて必死で言語習得を目指していた時の事だ。
『ブラックダイヤ帝国』という名称を小耳に挟んだ瞬間、とある疑念が私の中に生まれた。
その時はまだ偶然の一致かなーと思ってたんだけど、それ以外にも続々と私の知っているゲーム内で登場した名称が聞こえてきて疑いを強め。
ウチのクソ家族の不興を買った哀れな使用人が翌日、明らかに拷問を受けたとしか思えない怪我を負ってたり、忽然と姿を消したり、死体で発見されたり、メイドがクソ親父にレ◯プされてるのを見たりして、この家のヤバさを知って更に疑いを強め。
私の知っている練習法で魔術が使えた時点で、ほぼ確信し。
姉様にこの国の歴史が書かれた本とか、その他諸々を読み聞かせてもらった時、確信は完全なものとなった。
結論を述べよう。
この世界は王道ダークファンタジーの傑作として一世を風靡した人気バトルRPG『夜明けの
私も結構好きだったゲームだ。
攻略本とかファンブックとか買ってたし、アニメ化された時はしっかりと録画してた。
では、このゲームのシナリオを説明しよう。
魔力という圧倒的な力と権力を笠に着た貴族達が暴虐の限りを尽くし、民を虐げる悪の帝国『ブラックダイヤ帝国』。
そんな国に生まれるも、優しい父親に守られ、残酷な真実を見ないようにしながら、辺境の村の片隅で静かに育てられた主人公。
しかし、主人公が15歳の頃、村に道楽貴族がやって来る。
そして、その道楽というのが、ご存知帝国クオリティ。
村人達を魔術の的にして殺していく、殺戮ハンティングゲーム。
それが当時、貴族の間でプチ流行していた道楽だったのだとか。
まさに鬼畜の所業。
頭おかしいんじゃなかろうか。
それはともかく、その道楽クソ貴族の手によって、主人公は目の前で大勢の知り合いや友達、そして優しかった父親を殺された。
その時、怒りと悲しみと殺意の波動に目覚めた主人公は、なんと貴族以外は万人に一人しか持たない筈の力、魔力に覚醒してクソ貴族をぶっ殺し、復讐を果たしたのだ。
なんという主人公力。
しかし、勿論これで終わる話ではない。
むしろ、ここからが始まりだ。
貴族を殺して生き残ったはいいものの、村は完全に崩壊し、村人は全員死亡。
それによって、主人公は住む場所を失った訳だ。
なので、主人公は村人達の墓を作って埋葬した後、近くの街を目指して旅立つ事になる。
そこで改めて帝国の闇を目にする事になるとも知らずに。
街に着いた主人公は、ある宿屋に泊まった。
傷心の主人公を宿屋の看板娘が気にかけてくれて、ギャルゲーだったらフラグが立つような状況になるが、残念、この世界で立つのは恋愛フラグではなく死亡フラグである。
案の定、今度はその看板娘がクソ貴族の標的になります。
玩具としてクソ貴族に連行される看板娘。
それを沈痛の表情で見つめながらも、助けようとはしない人々。
それを目の当たりにし「どうして助けなかったんですか!?」と声を大にして叫ぶ主人公。
しかし、それに答えるのは「仕方がないんだ……!」という宿屋の店主、つまり看板娘の父親の苦しみに満ちた声。
そこで主人公は帝国の闇を、真の帝国の姿を知る事になる。
即ち、貴族が魔力と権力を振りかざして悪逆の限りを尽くし、民衆は歯を食い縛りながらそれに耐えるしかないという残酷な現実を。
それを知った主人公は愕然とする。
自分が味わったような理不尽な悲劇が、この国にはありふれているという驚愕の真実を知ったんだから当然の反応だと思う。
そして、その事にどうしても納得がいかなかった主人公は、夜に看板娘を拐って行ったクソ貴族の屋敷に魔力を使って侵入する。
なんともアグレッシブな事で。
だが、主人公が侵入したのは、ウチと同じ伯爵家というそこそこの権力を持った貴族の家。
そういう所には当然、護衛の兵士がいる。
それも魔力を持った護衛である騎士が。
村を襲った非戦闘員の道楽クソ貴族とは訳が違う。
ちゃんとした魔術の訓練を受けた騎士複数人に囲まれては、いかに主人公補正を有する主人公と言えども勝てない。
主人公はその中でもやたら強い騎士にあっさり捕らえられ、クソ貴族のベッドルームに連行される。
そこで、助けに来た看板娘を目の前でレ◯プされながら処刑されるという、SAN値チェックが入るような展開に突入する訳だ。
しかーし!
ここで主人公補正さんが本格的に仕事を開始した。
主人公を捕らえたやたら強い騎士は、実はなんと悪の帝国を打倒すべく暗躍する組織、革命軍のスパイだったのだ!
な、なんだってー!?
そして、クソ貴族のあまりの蛮行に遂に堪忍袋の尾が切れ、主人公の愚直に正義を求める姿に、革命軍としての正義の心を刺激されたスパイさんは、主人公のとてつもなく強い魔力をここで失わせるのは惜しいという打算、もとい言い訳を用意して主人公を救った。
クソ貴族と護衛を皆殺しにし、拐われた人々を解放しつつ屋敷に火を放って、全てを有耶無耶にしたのだ。
やりすぎじゃね? と思う主人公だったが、敵に情けや容赦をかけるような軟弱な事してたら、革命なんて大事は成せないとスパイさんに論破される。
そうして、なし崩し的に革命軍なんて存在を知ってしまった主人公は「知った以上、逃がさねぇからな」と言うスパイさんによって、組織へと強制連行。
そこで、悪の帝国を打倒し、この国を平和にするという革命軍の理念に共感して、主人公は革命軍の一員になるのである。
これが『夜明けの
その後は、帝国の幹部達との死闘を繰り広げたり、ヒロインとの戦場ズラブを繰り広げたり、主人公の出生の秘密が明かされたりして、最終的には革命を成功させてハッピーエンド。
それが『夜明けの
さて、おわかり頂けただろうか?
このシナリオ通りに進んだら、まず間違いなく我が家は破滅するという事に。
だってウチの家族、エミリア姉様以外全員クソだし。
使用人や私へと度を越したパワハラは当たり前、平民を拐って来てチョメチョメとかも普通にヤってる。
おまけに、ウチのクソ親父は結構な野心家のようで、腐敗国家の中心である皇帝に思っきしゴマすってます。
うん、断罪されない理由がねぇな!
このままじゃ、私やエミリア姉様も連座処刑で打ち首獄門だぜ、ウェーイ!
ふっざけんじゃねぇよ!?
私はともかく、エミリア姉様が処刑されるとか許されていい訳ねぇだろうが!?
という訳で、私がやるべき事は主人公や主人公の味方キャラを人知れず始末して、革命を起こさせないようにする事、などでは断じてない。
革命が起きる前に、姉様を連れて帝国から脱出する事だ。
まあ、帝国は他の国とかにもガンガン戦争仕掛ける、クソ迷惑な侵略国家なので、戦場と化してる国境を越えるのは至難を極めるだろうけど。
そうじゃなくても、国として整備されてないところには危険な魔獣が出るし。
ただでさえ国を跨ぐような旅には食料問題だの水問題だの色々とクリアしなきゃならない問題があるのに、そんな危険地帯を抜ける旅となると、更に相応の戦闘力なりなんなりが必要になってくる。
そこは成長した私の魔術によるゴリ押しを目指すしかないね。
氷で作った飛行機で高度3000メートルを飛ぶとかできれば、なんとか行けるんじゃないかな?
そんな事できんのかと言われると難しいけど、それでも革命が本格的に始まる約10年後までにはできると思う。
私の成長っぷりは凄まじいからな!
あと、もう一つの問題は、姉様の性格かなー。
だって、エミリア姉様ってぐうの音も出ない聖人だもんよ。
虐げられてる使用人や国民を見捨てて自分達だけ逃げよう! って言っても断られる未来しか見えねぇ……。
でも、これは大した問題じゃない。
最悪、気絶させて拉致ってしまえばいいのだ。
それをしたら確実に私は嫌われるだろうけど、私への好感度と姉様の命じゃ天秤にかけるまでもない。
姉様が助かるのなら、私は鬼にだってなってやらぁ!(血涙)
そうして、私は目的意識と危機感をしっかりと持って魔術に打ち込んだ。
帝国を脱出した後の為に、休憩時間や姉様とのイチャイチャタイムで色んな事を学習する事も怠らない。
大丈夫、なんとかなる。
ひっどい世界だけど、これだけ順調に行ってるんだから、少なくとも私達が生き残るくらいならなんとかなる。
この時の私は素直にそう思っていた。
しかし、それから数年後。
私は思い知る事になる。
この世界はどこまでも残酷で、その残酷さは当然私にも適応されるのだという事を。
文字通り身を以て思い知る事になる。
そして、同時にこうも思った。
こうしていた時間が、エミリア姉様が側にいたこの時間こそが、私の人生で一番幸せな時間だったのだと。
後から振り返った時、本当に心の底からそう思ったのである。
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