第十二話(上)大好き
遅くなりました……
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夜空に打ちあがる大輪の花火。
真っ黒な夜空を、赤色に、緑色に、黄色に彩っていく。
そんな打ち上げ花火を、茫然とした表情で見上げる遥香。突然の事に戸惑っているようで、固まっていた。加えて、遥香のお母さんまで登場したのだから、そりゃあ、パニックにもなるだろう。
まぁ俺というか、主に遥香のお姉さんと遥香のお母さんの財力で用意したんだけどね。だから、ここまで派手になっているのだ。
花火に照らされた遥香の表情は、だんだんと状況を受け入れ始めてきたようで、放心状態だから脱していた。
「え、花火……ね、ねぇ……鷹矢? 本当に……」
「ああ、実はな──」
そんな遥香に俺は事情を説明した。
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遥香が俺の家に避難してきて、俺がお姉さんと二人で話した時のことだ。
あの日、お姉さんは言っていた。『お母さんも遥香ちゃんの心配をしてた』って。加えて、俺は実彩子さんに、遥香がお母さんとの約束の内容も教えてもらった。
『ああ、遥香ちゃんがお母さんとした約束の話? それはね、オーディションに受かったら、一緒に夏祭りで花火を見ようって話』
『花火ですか?』
『そうそう。何百発もの打ち上げ花火ね。けどさ、遥香ちゃんって、不器用だし、あれで頑固なところもあるから、オーディションに落ちちゃって本当に行こうとしなかったからね。お母さんは、合格しようが、不合格だろうが行くつもりだったんだけど、お母さんもすっごい楽しみにしてたし』
『そうなんですね……』
『そうそう。だから毎年、夏祭りの日には仕事も休んで、遥香ちゃんから誘われるのを楽しみにしてるんだよ。お母さんから言ったら、遥香ちゃんだって喜ぶだろうに、何も言わないからねー』
『な、なるほど……』
かなり口下手というか、遥香に似て、不器用だな……その辺は、親子ってことなんだろう。約束をしっかりと覚えているあたり、遥香のことを凄く愛しているんだと分かる。
だったら、遥香と遥香のお母さんの中がこじれたあの言葉の意味も……。
そうなってくると、自然と遥香のためにしないといけないことが分かった。
それから、お姉さんと打ち合わせをして、キャンプ場の手配と花火職人を雇ったのだ。
そこそこの値段はかかるようだが、今は個人で花火職人を雇えるのだ。そして、お姉さんが、遥香のお母さんに事情を話した結果、花火職人を雇ったのだ。
そして、花火が打ち上がったタイミングで一緒に話をして誤解を解いてもらおうと考えていた。
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「──っていう事があったんだよ」
「……そうだったのね」
花火が打ち上がる経緯の説明が終わると、遥香は何とか受け止めてくれたようだ。
「じゃ、じゃあ……なんでお母さんは私に『ありえない』って言ったのよ……約束を覚えててくれて嬉しいけど、私には分からないわよ……!」
泣きそうな表情をした遥香が、俺に尋ねてくる。
俺からの説明を聞いて、余計に混乱したのは分かる。けど、それを聞くべき相手は俺じゃない。
「なら、本人に聞けよ。今、目の前にいるし、薄々分かってんじゃないのか?」
「け、けど……!」
まだ、踏ん切りがつかないのかためらっていた。
真実を確かめるのは誰だって怖い。それでも、自分から進むことでしか分からないこともある。
「大丈夫だって。近くに俺がいるし、一人じゃないだろ? 遥香のお姉さんだっているし、雫たちだっている。何も心配することはないよ」
遥香に声をかけながら、背中を押してあげた。
「二人は親子なんだし、そっくりだから大丈夫だよ」
「?」
鷹矢の言う事がいまいち、つかめなかった。
それでも気がつけば、俺の後ろには雫たちも来ていた。みんな共通して、柔らかい笑顔を浮かべていた。
そして、陽葵だけ口の端に、タレのようなものが付着していた。指摘はしないが、色々と残念な奴である。
みんなの表情が目に入ったのか、遥香は大きく深呼吸すると、お母さんにもとに向かって歩き始めた。
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長くなりましたので、分割して二話投稿になっております。
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