第十七話 私が本当に欲しかったのはね
数分後。
鼻をすする美咲だったけど、涙はすっかり引いていた。加えて、内に抱えたものをすべて吐き出したのか、スッキリとした表情をしていた。
今、俺は美咲の隣に腰を下ろしている。そして、美咲は俺の手を握っていた。
豆電球の明かりだって、今はどこか優しく明るい光に感じていた。
「あのね、鷹矢君。私の話を聞いてくれる?」
「うん。何でも聞くよ」
「私ね、弟がいるでしょ? だからさ、お父さんもお母さんも美咲はお姉ちゃんなんだから我慢しなさいって、よく言われたんだ」
よくある話だ。
俺の家もそうだった。もっと小さい時、雫とお菓子の取り合いになると、なぜか下の子が優先されるんだよなぁ。
「だから、私もお姉ちゃんとして頑張ってきたの。面倒を見て、できるだけ頼られる存在でいようってしてたら、いつの間にかクラスのみんなからも頼られるようになって、委員長とかやってた」
そして、今の美咲も、クラスの女子からめっちゃ頼られているのも知っている。
「でもね、私だって誰かに頼りたいなーって時もあるし、甘えたいなって思う時もあるの。そして、それとは別にずっと一番が欲しいって勘違いしていた」
「勘違い……?」
美咲の中で、何か発見があったのか。
「うん。確かに、一番は欲しいんだけど、本当に欲しかったのは、一番に私を好きって言ってくれて、私のことを一番に褒めてくれる人……みんなから頼ってもらえるのは嬉しいけどさ、私だって疲れるんだよ。そんな時にね、頑張ったねって、凄いねって、甘やかしてほしかった……」
こういう言い方が正しいのかは分からないが、美咲はいつも与える側だったと思う。そして、与えられる側になることがなかった。だから、何かを与えて欲しかったのか……。
だからあの時、一番になったら褒めてくれる? って。
「私は一位が欲しいんじゃなくて、誰かからの一番が欲しかったんだって、気づいたんだ……」
目を赤く腫らした美咲が、俺を瞳に映す。
それから、クシャッとしたほころぶような笑みを浮かべる。
「ありがとう、鷹矢君。私が一番だって言ってくれて……大好き」
※
「雨降ってるし、外は暗いから気を付けてね」
「サンキューな。傘も助かる」
「別にいいよ。それくらい」
あれから、美咲と晩御飯を食べた後。
勿論、俺は帰宅することにした。ぶっちゃけ、名残惜しかったが仕方ない。
「明日からも学校でよろしくね。あとさ、三島さんに謝らないとだから、手伝ってよ、頼りにしているんだから」
だって、あのまま一緒にいたら絶対に一線を超えちゃうし。それに、今の美咲が可愛くて仕方なかった。普段は、みんなから頼られる美咲が、俺にだけ甘えてくるのって反則だろ……。
月明かりの優しさが、この場に引き留めようとしてくる。そんな未練を振り払うように、美咲に帰りの挨拶しようとした時だった。
「あ、ちょっと待って」
「ん? どうし──んぐっ」
気がついたときは一瞬だった。
美咲の顔が俺の目の前にあって、唇に温かくて、柔らかい感触がしたと思ったら、美咲の顔は離れていた。
「えへへへ……やっぱり恥ずかしいね……でも、初めては鷹矢君が良かったんだ」
「お、おま……え!」
今って……き、キキキキ……あばばばばばば。
「じゃあね、鷹矢君。また明日、学校でね」
五十嵐家のドアが閉められ、部屋の中から、美咲の声が響いていた。
「うぉー、頑張るぞー!」
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最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
皆様の温かい応援、コメントのおかげで、二章が何とか完結いたしました。
本当にありがとうございます。
残すは遥香の三章と、雫に関する四章です。
ラストは最後まで読んでくださった皆様が、納得いただけるような結末にしますので、もう少し、お付き合いいただければと思います。
また、次の投稿は12/08(木)になりますので、よろしくお願いします。
二章、完結の記念に、フォローや♡や⭐︎を頂けますと、幸いです!
よろしくお願いします!
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