第48話
しばらくして落ち着きを取り戻した夜斗と弥生が冷蔵庫から持ってきたのはケーキが2つ
チーズケーキは夜斗の好みで、ショートケーキは万人受けを狙ったものだ
事実、チーズケーキは夜斗・紗奈・弥生しか食べず、ショートケーキは霊斗・雪菜・煉河しか食べない
「さぁ、食うか!」
「あれ、飯は?」
「お前な…弥生にどんだけ負担を強いる気だよ。それに、この大きさのケーキ…飯食ってから食えんの?」
霊斗はようやくケーキに目を向けた
それは直径30センチ近くあるものだった
なるほど、3人で1ホールと考えてもかなり多い
「無理だな」
「ではさっそく取り分けよう。皿は持ってきてある」
「ナイフとフォークは緋月家の財政から購入しました」
「「でも負担は冬風家が一番多いの納得できない」」
「息ぴったりだな新婚夫婦」
煉河のツッコミはスルーされ、次々にケーキが配られていく
こういうときのために購入されたテーブルは、閉じれば4人用、開けば8人用に早変わりするのだ
「よし食うぞー。ちなみに今年のケーキはゼカマシケーキのやつです」
「あそこケーキもやってんの!?」
「むしろやってないところ探すのが難しいぞ。ぱっと思いつくのは家具くらい」
「むしろすげぇなそこもやったれよ!」
予想以上の大企業ゼカマシ
従業員数はグループ総合で7万人と言われており、日本企業の中では最多だ
「食った食った。ケーキだけで腹一杯だわ」
「…もう、無理…」
「さすがに…多すぎますね…」
「お兄様と煉河は余裕綽々といった様子ですけど…」
「僕は緋月に多めに渡すことで事なきを得ている」
「だから俺のやつめっさ多かったんか…」
瀬戸際まで来ているのは紗奈・弥生・霊斗・雪菜の4人
夜斗は元々かなり量を食べることができるためさしたる問題にはならず、煉河は雪菜より小癪な手で回避していた
「来年はもう少し小さめのにするかぁ」
「毎年それ言って大きさが5年間毎回全く変わらんけどな」
「霊斗が車ありゃ買ってきてくれで終わるのに、この6人の中で唯一免許ないしなぁ…」
「うっ…。仕方ないだろ、もう仕事始まってて行く時間取れないし…」
「と言ってるがどうなんだ雪菜」
「休日は家で料理してるかゲームしてるかのどっちかなので、その気になれば行けると思います」
「ちょユキさん!?」
「霊斗の来年の目標は免許取得だな。できなかったらこの6人に回らない寿司食べ放題」
「なにぃ!?」
霊斗からすれば天津風家と緋月家はさほど食べないため問題にはならない
しかし、冬風家(夜斗と弥生)は魚介を好んで食べるため、寿司屋に行けば相当量食べる
夜斗に至っては60貫程度なら余裕で食べきるレベルなのだ。回らない寿司などにいけば、1万円で済むかどうか…
「逆に達成できたら俺と煉河が奢る。6人に」
「くっ…さらっと自分の負荷を軽減しやがって…!」
「僕も不服だが、毎回どこか出かけるたびに僕か夜斗が運転というのはかなりしんどいぞ。各家で一人は運転手がいないと、非常時に交代できない」
ちなみに6人で出かけるというのは年に一回あるのだが、煉河は旅先や道中で酒を飲むためわりとほとんど夜斗の運転だ
以前は温泉のために草津へと向かったが、煉河は静岡県から埼玉県の行きだけしか運転を担当していない
「煉河はもう少し俺の負担減らす努力をだな」
「努力義務だし仕方ない、酒が僕を呼ぶのが悪い」
「尚煉河は家で飲むとやけに甘えてきますので、外で飲んだあとは大抵後部座席で甘えられてます」
「紗奈!?」
「いやまぁルームミラーで見えてるしなぁ…。霊斗は飲んでなくても甘えてるし、最後尾だから見えてないと思ってるかもしれんがキスしてるの見えてんだよ」
「「!?」」
「隠しておいたのに言うの?なら私も。後方確認時、左側から後ろ見てるけど…窓の反射で、見えてる。そういうコトは自宅かそれなりのホテルでやるべき」
「「「「!!?」」」」
「それは気づかなかったな」
「おそらく誰も見てないと思ってる。夜斗が借りる商用バンはリアウィンドウ全てスモークだから外から見えないし、夜斗が運転中。私は寝てるか会話してるから」
「レンタカーを勝手に愛の巣にしてたわけか」
「うん。商用バンとはいえ座席ちゃんとしてる乗用だから、行為に及ぶのは可能だし」
口を開けたり閉じたりしている霊斗・雪菜・煉河・紗奈の4人
どうやらこの反応から見ても真実に相違ないようだ
「あとコンビニとかで休憩挟むとなんかが震える音するよな」
「うん。エンジン音とは周波数が違うから、なにか別のもの。最初はスマホかなと思ったけど、スマホのバイブレーションはあんなに長く震えない。つまり、誰かしらがそういうプレイをしてる」
「煉河と紗奈が車から降りても聞こえるってことは雪菜だろ?で、振動タイミングからしてリモコン操作式か?」
「多分。毎回振動特性変わるから、複数家にあると思う。旅行のたびに使い分けてる」
「「!?」」
想像以上の観察力に開いた口が塞がらない4人
雪菜に至っては羞恥からか顔を真っ赤にして持ってきていたワインを飲み始めた
「お、おい夜斗…なんでわかるんだよ…?」
「お前には前に話しただろ。聴音について」
「ああ…。ヘッドホンで聞いた音を解析するってやつ…。似たようなことは俺もやるけど」
「あのヘッドホンは集音にしか使ってないから分析してるのは俺自身なんだよ。聞こえる範囲を広げるために使ってるだけ。お前はスマホがやってるだろ」
「つまり夜斗は、聞こえてさえいれば解析できる。私はそこまでできないけど、方向や強度から音の発生位置を推察することはできる」
「二人して音の解析において右に出る者はいない。お前らの行動なんか同じ空間にいれば筒抜けなんだよ」
がっくり項垂れる霊斗と煉河
全力で顔を背ける雪菜と紗奈
楽しげに笑うのは夜斗だけで、弥生はいつも通りの無表情だ
「ああそうだ霊斗、これやるよ。誕生日渡してなかったし」
「へ?あ、ああ…ありがとう」
霊斗に投げたのは小さな箱だ
サイズ的にはペットボトルが1つ入りそうなくらいで、装飾はなにもない黒い箱
「ま、帰ってから開けてくれや」
「お、おう…?」
このあとはそのまま酒でのどんちゃん騒ぎ…ではあるのだが、夜斗と弥生はかなり酒に弱いため全く飲まず、雪菜と紗奈は先程の恥じらいを隠すためかがぶ飲みして泥酔
霊斗と煉河も飲み始めたため、夜斗と弥生は4人を送るため準備を始めた
(…車で来たのは緋月家だけ…。煉河と紗奈は雪菜が拾ってきてるし、俺が雪菜の車に乗るか。弥生は俺の帰りのためにきてもらうとして、女性陣は向こうだな)
夜斗は雪菜のカバンから鍵を抜き取り、霊斗と煉河に声をかけた
足元がおぼつかない2人に帰りの支度をさせる間、雪菜と紗奈を弥生の車に乗せる
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