第22話

翌朝



(…マジで朝までやってしまった)



弥生は幸せそうに寝ている

服は着ていない。何が起きたのかは想像に容易いことだろう



(…休もうかな。いやだが今日は会議日か…少しはサボれるな)



現時刻は朝の6時半。普段の起床時間より30分早いが、今から寝るには遅すぎる

妙につやつやした弥生を撫でて布団から出た



(飯は…いいか。とりあえずエナドリでカフェイン摂って、コーヒー買っとくか)



夜斗はクローゼットからワイシャツとスーツを取り出して身につけようとして動きを止めた



(風呂…入るか)



夜斗は1度シャワーを浴びることにした




夜斗と弥生が言う活動限界とは、先述の通りマトモに動ける時間を示す

一段階目は活動能力が下がる。つまりは注意力が下がったり、反射神経が低下したりする

二段階目になると注意力はほとんどなくなり、立ってるのがやっと…という状態になる

そんな状態で夜斗は今職場に来ていた



「おはようございます」


「おはよーさん」


「うわ、先輩眠そうっすね…。ゲームすか?」


「俺ほとんどゲームしないの知ってんだろ…。色々あるんだよ…」


「あ、例の同棲関係すか?喧嘩でもしちゃいました?」


「ガツガツ踏み込んでくるよなお前…」



朝1番話しかけてきたのは、深沢ふかざわ蒼汰そうたという後輩だ

かなりエネルギッシュな男で、仮に徹夜でも元気そうに仕事をしている



「そりゃあ、冬風さんの恋愛事情はいい値段で売れますからねー。あ…」


「また売ってんのかお前!?前から思ってたけど誰だ買ってるやつ!」


「そ、それより!喧嘩でもしたんすか?」


「…いや。先週が同棲終わりだったんだよ。で、事実婚…まぁ契約結婚って形で夫婦になった」


「じゃあもう売れないじゃないスカ!」


「知るか!」



夜斗はエナドリを流し込み無理やり目を覚ましにいった

普段は9時間ほど寝ているのだから寝不足は仕方がない



「でもじゃあなんで寝不足ナンスか?」


「察せよ…だから彼女できないんだぞ」


「いますよ!営業課の本間さん!」


「え、まじで?引くわ…」


「さすがに傷つくっすよ!?」



このノリに付き合ってくれるため、夜斗はこの後輩は嫌いではない

仕事が始まれば後輩もしっかりした敬語になり、夜斗もいい先輩になるよう心がけている



「そういえば今日会議っすね」


「そうだな。まぁ、大したことは話し合わんだろ」


「まぁそうっすね〜。そういえば課長に結婚したっていったんすか?」


「直接は言ってねぇな。会議のとき言おうかね」


「なかなか大々的なカミングアウトっすね…。課長泣くんじゃないすか?先輩のこと息子かのように可愛がってますし」


「おかげでいらん仕事増えたがな…。なんだよ議事録作成って…。書類苦手なんだよなー」



そんな話をしながら始業時間を待つ

タイムカードというものはなく、共用のパソコンに接続されたカードリーダーに従業員証を翳すと時間が入力されるシステムだ



「カード通してきてくれ、忘れてた」


「ほーい。なんか飲み物いります?」


「あー…ブラックコーヒーかアールグレイティー」


「なんなんすか毎回そのチョイス…。どっちかにしてください」


「アールグレイ」


「了解っすー」



早歩きで共用のパソコンが置かれている休憩室に向かう後輩

休憩の時もそこで従業員証を翳すことになっているが、基本的に夜斗もあの後輩も外回りのため、休憩時間は自動で入力されることになっている



「持ってきたっすよ」


「ありがとーう。寝不足の原因は、簡単に言うと夜戦だ」


「我、夜戦に突入す!ってことっすね!」


「そうだけどそうじゃねぇ」



この後輩は意味をわかっていてこういうノリを使うことができる

しっかりご機嫌取りができるタイプの優秀な人間だ

教育は夜斗が行っているため、少しやり辛さもあることはあるのだが



「つか報告書出したのか?」


「なんのっすか?」


「金曜日の現場のやつ。係長から鬼のように督促メールきてるが」


「あ…」


「やってこい」


「はーい…」



後輩を仕事に入らせる

とはいえ今はまだ始業前準備時間というもので、勤務時間には加算されない

今すぐやる必要はないため、少し大きめの声で後でいいと伝える

10分程度で始業時間となり、全員が立ち上がった

そしてラジオ体操が始まるのだ

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