第19話
ソファーでぐったりしている弥生に、冷凍庫から出したソフトクリームを渡す夜斗
夜斗がよく食べるため常備されている
「ちったぁ体冷やせるぜ?」
「…ありがと」
小さい口で加える弥生
隣りに座った夜斗に少し目を向けた
(…わりと損傷軽微だったんだな、もう治ったぜ。さすが人知を超えた治癒力してるだけあるわ)
かつての夜斗は骨折すら2週間と少しで治ったのだが、今ではそこまでの治癒力はない
しかし、筋肉痛程度なら即日治るし、外傷も浅ければ翌々日には完治している
ちなみに霊斗もかなり治癒力が高く、外傷は翌日には治り、今でも骨折を2週間で治せてしまう
「どうした、弥生」
「!な、なんでも…ない」
顔を向けていた弥生は、名前を呼ばれて視線を外した
ふと夜斗の携帯が着信を知らせる
「なんだ霊斗か。どうせ…」
『夜斗か!助けてくみぎゃああああ!!』
「…だろうなぁ」
「いってらっしゃい」
「いってくる…」
悲鳴とともに途切れた電話をポケットに入れて夜斗は立ち上がった
これは半年に2回ほど定期的に起きることで、霊斗が何かしらをやらかして雪菜が暴走する…というテンプレなのだ
(ったく、風呂入ったってのに…)
夜斗はバイクの鍵を掴みガレージに向かった
弥生はというと、暇潰しにテレビをつけていた
そしてチャンネルをいじっていると、なにやら県のニュースを放送している
「…普段あまり見ない」
クッションを抱えながら見る
天気予報が終わり、ようやくニュースが始まった
『県の教育委員会は、教員不足に対応するため周辺企業への協力を要請する方針です』
「…教育委員会も大変。モンスターペアレントに対応しつつ、不祥事も対応して、教員不足に対応する…やりたくはない」
『次のニュースです。本日未明、静岡県富士市の高速道路上での玉突き事故が発生しました。渋滞にトラックが衝突した模様です。現在でも車に閉じ込められた被害者の救出作業が――』
「…車便利だけど、事故は怖い。使わなきゃ生活できないから使うけど」
一つ一つにコメントを残す弥生
夜斗もこんな感じでコメントするタイプのため、稀に議論となることがある
『次のニュースです。今日午前九時頃、国道1号線清水市付近にて事故が発生しました。左折車両が二輪車を回避したところ電柱に衝突したとのことです』
「…バイクは車から見にくい。頭でわかってても、見えなければ行けると思うのが人間。1度曲がる前に止まるべき。というか左折車の左側からすり抜けしてくるのは死にたいからなの?」
『次のニュースです。本日、浜松市の小中学校でクレーン車の操縦体験が行われました』
「ほのぼの…」
『操作体験中、ぶら下げていた重りが落下する事故がありましたが怪我人はいないとのことです』
「ほのぼのしてない…。あと今日事故多く無い…?」
チャンネルを変えるとお笑い番組がやっていた
無表情で見続けるが、何が面白いのかが理解できない
前もそうだった。学生時代も、クラス全体が笑うようなギャグが理解できず、どこが面白ポイントなのか確認したことさえある
(…やっぱり、少しズレがある。普通の人と私の間に、決定的な感性のズレが…)
テレビの向こうでは観客が笑っているのが聞こえる
時折手を叩く音が聞こえるということはかなり面白いというのが一般的なのだろう
(でも、わからない。何がいいの?これを見て無理に笑えば普通に近づくの?)
答えはわからない
わからないが、1つだけ確かなことがある
(夜斗は、こんな私が好き…。なら、このままでもいい…かな)
無表情にお笑い番組を見続ける
しばらくすると、微かに笑顔が見えた
はたしてお笑いであるがゆえか、はたまた別のことか
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます