第9話

一方、弥生は服を手に固まっていた



(…天音の言う通り、露出の多い服は止められた。他の男に取られたくないってとこも、予想通り)



昨日の天音からのアドバイスを実行した反省会のようなものをしながら、服をぎゅっと抱きしめる



(私は夜斗以外になびかない。でも、夜斗がそうがわからない。だから天音に相談した。結果的に正解だったかも。天音は良くも悪くも、夜斗のことをよく知ってる)



なんだかんだで付き合いは十年に上る夜斗・霊斗・天音

かつて中学時代に、誰かがいれば全員がその場にいるとまで言われた仲良しだったという



(…ある程度は、天音のいうことを実行すれば…。でも、私が考えなきゃ。夜斗と夫婦になったのは、私なんだから)



くすっと笑い、ようやく動き出す

普段から着ている露出がゼロに等しい服を着て、ロングスカートを身につける

そしてタイツをはいて、見えている肌は手と顔、首に限定させた



(夜斗以外には、必要ない。夜斗だけが私を見てくれればそれでいい。邪魔な視線は、服が切ってくれる)



弥生は小さなカバンを手に、夜斗が待つ一階に降りていった






食事後。弥生を迎えに来たのは天音だった



「またお前か!」


「またとは何さ!」


「あんま俺の弥生を連れ回すなよ。夜までには帰らせてくれ」


「はいはいわかったってば。弥生ちゃんもう行ける?」


「うん」


「じゃあ行こっか!」


「婚活しろ(ボソッ)」


「聞こえてるよバカ!!」


「痛い!」



カバンで殴られた夜斗はあまりの痛みに悶絶した

今までは大して痛くなかったというのに



「テ、テメェ…。カバンになんか仕込みやがったな…!」


「鉄板だよ。あまり夜斗にダメージ与えられなかったからね」 


「やめろよ…いたいんだから…」


「痛くしてるの!じゃあね!」


「へいへい…。いってらっしゃい、弥生」


「ん…いってきます」


「見せつけんな!」


「また痛い!」



腕を擦りながら部屋に戻りヘルメットを手に外に出る



「燃える…溶ける…」



夏でもないのに照らす日差しは夜斗の皮膚を焼いている

日に弱い夜斗は外に出るのも億劫なのだが、それでもとバイクに鍵を差した



「行きますかねぇ」



夜斗は唸るエンジンの音を満足気に聞き、バイクを発進させた




紗奈の家は近い

バイクで15分程度だ

天音の家はここからさらに10分ほどかかるが滅多に行くことはない



「来たぞ!」


「来たか。…まぁ、座れよ」


「え、客を玄関に?」


「あがれって言ってんの!」



出迎えたのは煉河だった

紗奈は少し離れたところにある大型ショッピングセンターに買い物に出たという



「なんでそこまで…」


「なんか、計量系の道具が思ったよりなかったらしくて買いに行った。あそこならメスシリンダーすら置いてるし」


「ああ、理系ショップな…」



理系ショップには実験道具がかなり置いてある

ビーカーや三角フラスコ、さらにはアルコールランプや薬品用の瓶まであらゆるものを購入できる

さらには薬品まで買えるのだから需要というものはわからない

尚そこは夜暮の婚約者が経営してる会社の系列だ



「ってことは弥生と天音が蜂合わせるかもな」


「ああ、あの二人も行ってるのか。ありえるな。つまり」


「「遅くなる」」



二人は同時にそう言い、同時に笑った



「仕方ない、ちっとばかしグダグダするかな」


「そうだな、義兄様おにいさま?」


「うわすげぇ違和感」


「言ってて思った」



笑いながらテレビをつける煉河

やることがなくなったため、ぼーっとニュースを見る



「メールか?」



突如鳴り響いた警報のような通知音に煉河が顔をしかめる

夜斗はスマホを取り出して内容を確認すると、急に立ち上がって煉河を引っ張り上げた



「な、なんだよ」


「緊急通報だ!弥生と紗奈から同時に来たということは、ショッピングセンターでなにかあったのは間違いない!」


「は、はぁ?何が起きたんだよ」


「行かなきゃわからん!」



夜斗は家を飛び出して煉河の車の鍵を開けて乗り込んだ

煉河もあとに続いて運転席に乗り込みエンジンをかける



「法定速度は守るからな」


「ああ、無駄な時間を取られないためにも仕方がない。その間に霊斗を呼ぶ」



夜斗はスマホから霊斗に電話をかけた

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