指先
傘立て
もう生きているのが厭になった、と言われたから、そんなつもりも覚悟もなかったのに、制服のタイで手首を繋いで、一緒に海に入った。赤い結び目の下で絡めた指先は、冷たくて熱かった。結局死ねずに、タイもほどけて、ふたり別々に救助される無様を晒して以来、話すこともなくなったあの子が、去年結婚した、と人づてに聞いて、同じ海に今度はひとりで飛び込んだ。手首を結んだ赤い布はもうないし、となりにあの子もいない。瞼の裏に、水中で揺れて広がった長く黒い髪が浮かぶ。あのとき、苦しがって藻掻いたあの子の手を離さずに、そのまま引き下ろして沈んでしまえばよかったのだろうか。繋ぐ手を失った指先が最期に触れることができるのは、ただ重くて暗い水だけだ。
指先 傘立て @kasawotatemasu
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