ゴクアク警備会社
田仲ひだまり
第1話 盗撮
歌舞伎町にあるホテルに突然呼び出された。
ホテルといっても帝国ホテルのような格式あるものではない。靖国通りの裏に密集している、きらびやかなホテルである。
「歌舞伎町 ラグジュ 201号室へ行け」と命令を受けて、ルカは友人との食事を切り上げて指定されたホテルへと全速力で向かった。
もし命令を守らなかったら、野蛮な先輩たちに襲われてしまう。そして恥ずかしい写真を撮られて、ネットに拡散されてしまうんだ。
そういうことを平気でする男だらけの会社に入ったのが運の尽きと、先輩からの命令は何をおいても従うことが条件反射のようになっていた。
実際はそんなことをするわけがないのだが、ルカはそう思い込んでいた。
走りながらスマホでラグジュという名のホテルの場所を調べる。その間にも先輩から細切れの情報が次々と送られてくる。
「盗撮被害だ。俺らも向かうから逃がすな」
目的地のホテルに到着すると、フロントで会社名を告げて201号室の扉の前に立った。
軽く息を整えると左右を見回す。まだ先輩は到着していない。自分が行くしかないと覚悟を決めてインターホンを押した。
少しの間のあと、ガチャと鍵が開く音がして中からバスタオルで身を包んだだけの裸の女性が登場した。
「ゴクアク警備会社です。動かないで」
ルカは靴を脱がずに部屋に押し入った。ベッドの端に座っていた男は少し驚いたようだが、動じる様子はなかった。
先輩が来るまで時間を稼がなければ。
「話を聞かせてもらいます。まずは証拠保全のために録音させてもらいます。盗撮されたと言っているんですが、スマホを見せてもらっていいですか?」
さあ、男はどうでる。やっていないと否定してきたら厄介ではあるが、時間稼ぎは出来そうだ。
ルカの今回の命令はデリヘルでの盗撮から女の子を守ることであった。そういった世の中の厄介ごとを請け負うのが、弊社『ゴクアク警備会社』の仕事である。
「おう。話を聞かせてもらおうか」
ルカの時間稼ぎは大して必要なく、次々に人相の悪い男が押し入ってきた。ルカを入れて4人になった時に男は観念したようで自分の行動を認め、罰金を払うことを承諾した。
こんな悪そうな男たちに何かされるより数十万円で済むなら、そっちの方が利口であろう。
無事に仕事が終わって安堵した途端、ルカは友人と食事中だったことを思い出した。
「ああー 先輩すいません。友人と食事をしていたので私は戻ります」
言い終わる前に走り出したルカは、友人が怒って帰っていないことを願っていた。
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