:第11章 「凱旋」
・11―1 第213話:「歓待」
悪は滅び去った。
ケストバレーに巣くい、
抜け道から逃げ出そうとしていた裏切り者は、待ち伏せていたサムライ、源九郎の手によって縄をかけられ、アルクス伯爵とその軍勢に身元を委ねられて、罪人として王都に送られたのだ。
そこで厳密な取り調べを受け、今回の一件だけでなく、これまでに行って来た様々な悪事を明らかにされ、この国の法律によって然るべき裁きが与えられることとなるだろう。
当然、彼が蓄えていた大量の財産は、すべて没収となった。
元々は国庫に納められるべきだった公金を横領し、人々から
苦難を乗り越えて、事件を解決した源九郎たちは、仲間との再会を喜び合い、アルクス伯爵の領地で数日間の休養を得てから、王都へと
往路はひたすら歩いたが、帰りはアルクス伯爵が用意してくれた馬車だ。
往路で歩いたのは、ケストバレーに調査が入ることをシュリュードに気づかれないために身元を隠す必要があり、目立たないように流れ者の行商人を装ったからだが、もはやその必要もない。一行は堂々と、貴族が乗るための上等な造りの馬車に揺られていった。
そして、王都・パテラスノープルで待っていたのは、歓待であった。
「いよぅ! お前さんたち、でっけぇ仕事をやってくれたな! 」
最初は、源九郎たちをケストバレーへと送り出した張本人、禿頭のドワーフのトパス。
表の顔は両替商、その実態は裏社会の一部を仕切る悪党の一味、という体で姿をあらわした彼だったが、その正体は、悪人とは正反対の存在だった。
彼は王家に仕えている臣下であり、王都に二人いる司法長官の一人だったのだ。
司法長官といっても、令和の日本で言えば、警視庁の長官、といった役職。もっと近いのは、江戸時代にその首都であった江戸(東京)に存在した、北町奉行・南町奉行、という存在で、要するに警察と裁判の両方を担当し、二人の司法長官が定められた期間で交代しながら、王都の治安維持などを行っている。
トパスはいわば、時代劇で言う大岡越前のような立場にいる人間だった。
性格は、様々なドラマなどで有名な名奉行のイメージとはけっこう異なる。
源九郎たちを城門の外で迎え入れ、自身の邸宅に招いて労をねぎらい、用意された心づくしのごちそうでもてなしている時の彼は、なんというか、気のいい、豪快なおっちゃん、といった風で、名裁きをくり出す大岡越前のような威厳やカッコよさはなく、親しみやすいばかりだった。
もっとも、実際に人を裁く時にはまた、違った顔を見せるのかもしれない。
そこで源九郎たちは、ラウルとも再会することができた。
エルフの魔術師、ルーンの手で王都・パテラスノープルへと一足先に魔法の力で転移させられていた、犬頭の獣人。
一行は無事に再会できた嬉しさと、突然行方不明になって散々心配させてくれた恨みをこめて彼をもみくちゃにしたのだが、ラウルの話を聞くと同情を禁じ得なかった。
「いや、本当に……。今回は、死ぬかと思いましたよ」
一緒にトパスの用意したごちそうを楽しみながら犬頭が語ったところによると、ケストバレーで斬られたこともそうだが、王都に戻ってからも相当、大変だったらしい。
「だって、突然、ビュン! ってどっかに飛ばされたと思ったら、海の上だったんですよ、海の。……そりゃ、地面に叩きつけられるよりは良かったですがね。傷は直してもらっていたとはいえ、体力が全然なかったし、水の上に落とされるなんて思ってもみなかったから、危うくおぼれかけて……。なんとか浮き上がって来られたから良かったものの、そこから岸まで必死に泳がないといけなかったし……。あんな思いはもう、こりごりです」
ルーンの転移魔法は、意外と大雑把なモノであったらしい。
贋金作りに関与していたこともあって王都まで一緒についてきて、素知らぬ顔でごちそうも楽しんでいたエルフのルーンは、涼しい顔をしていた。
いわく、エルフでも物体を移動させる転移魔法はけっこう難しいモノであり、事前に転移元と転移先にそれぞれ力の強い魔術師を配置して相応の準備を整えなければ、ピンポイントで転移させることは不可能なのだそうだ。
「むし、ろ……、感謝、して、欲しい……。水、の、上……じゃ、なか……った、ら、あなた、死んで……た、よ? 」
「分かってますよ。分かってますけど……、はぁ……」
自分はちゃんとラウルが死なないように考えて、できるだけ安全に魔法を使ってあげたのだ。
ルーンは暗にそう主張していたが、理屈では理解できても、ラウルは
よっぽど、海に落とされたのが
———とにかく、トパスからの歓待は、一行にとってはただただ、楽しいものとなった。
肩ひじ張らずに、気軽に楽しむことができたおかげだ。
だが、源九郎たちに対する歓迎は、これだけでは終わらなかった。
「さ、次は、
宴の終わりにそう言ったのは、今回の調査に飛び入り参加し、散々に引っかき回したものの、最後はど根性を見せて王女としての責務を果たしきったセシリア嬢。
奸臣を討伐する手助けをしてくれた功績に対し相応の礼をするべきだと彼女が強く訴えかけた結果、一行はこれから王宮で、国王・ニコラウス五世の主催でもてなしを受けることが決まっていたからだ。
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