・3-11 第109話 「トラブル」
源九郎とフィーナは驚いた時の表情のまま固まって、呆気に取られて両替商の方を見つめている。
周囲の人々の反応も、概ね同じだった。誰もがいったいなにが起こっているのかという顔で騒音のしている方を振り返り、立ち止まって凝視したり、知り合い同士で噂し合ったりしている。
「ぎにゃーっ!! ミーはそんな、騙そうなんてしてませんにゃーっ!!! 」
「うるせぇっ、大人しくこの金貨の出所を吐きやがれっ!!! 」
店の中からは、マオの悲鳴と、ドスのきいた低いだみ声の怒鳴り声が響き、ドタドタと何人かの人間が走り回る音、物が倒れる音、何かが割れる音が途絶えることなく聞こえてくる。
「すまん、ちょっと降りてくれ」
「う、うん、わかっただおさむれーさま」
まだ事態は飲みこめてはいなかったが、とにかく、マオが何者かによって追いかけられ、店の中で乱闘騒ぎになっているのだということは理解することができる。
だから源九郎は背負っていたフィーナを下ろすと、しっかり身に着けていた刀を左手で確認し、いつでも抜けるように心づもりをした。
「わ、わーっ! た、助けてっ! 助けて源九郎さーんっ!!! 」
サムライが扉を蹴り破って突入するよりも先に、中から
そして彼は店の近くにいた二人を見つけると、慌ててその背中に隠れ、源九郎の腰に爪を突き立てる勢いでしがみつく。
ガタガタと震えているのがはっきりと伝わってくる。
「絶対に逃がすなッ! 追うぞ! 」
低いだみ声でそう叫び声をあげながら、店の中からは三人の、なんだかガラの悪そうな連中が飛び出して来た。
一人は人間で背丈は中くらいだが筋肉がついた身体つき。いかにも荒々しい性格をしていそうな顔立ちで、浅黒い肌を持つ髭面の中で双眸が剣呑な輝きを見せている。
もう一人は、マオと同じ
三人目はまだ名前を知らない、鼠のような姿をした種族だ。フィーナの背丈よりも小さい小柄な種族だったが、右目に眼帯を身に着けており、場慣れしている雰囲気でこちらを下から睨みつけてきている。
(こいつら、カタギじゃなさそうだぜ)
マオを追いかけて店の中から飛び出して来た三人の姿を観察した源九郎は、緊張からゴクリ、と唾を飲み込んで、いつでも刀を抜刀して応じることができるように体を半身に開き、柄に手をかけて身構える。
目の前にあらわれた三人の手には、それぞれ武器らしきものがすでに握られていた。
木製の棒に、縄、刺股の先端に返しがついたような長柄のマンキャッチャーと呼ばれる器具。
直接殺傷するというよりは、相手を弱らせたり捕まえたりするためのもの、といった雰囲気だ。
「なんだぁ、てめぇは? 」
マオとフィーナをかばうように立っている源九郎に向かって、虎柄の
「旅の者か? いったいどこから来たお上りさんか知らねぇが、部外者は引っ込んでいろ! オレたちはそこのペテン師野郎に用があるだけなんだ」
「ペテン師野郎? 」
サムライが意識をガラの悪い三人組に向けつつちらりと横目でマオの方を見やると、彼は怯えた様子で表情を青ざめさせながらブンブンと顔を横に振った。
「し、知りませんにゃ! ミーはただ、プリーム金貨の両替をお願いしただけですにゃ! そしたら突然、コイツは偽物だ、なんて言われて……。と、とにかく、ミーは人を騙すようなことはしていませんにゃ! 」
「黙れっ! 贋金でこっちから金を巻き上げようとしたくせに! 」
視線を戻すと、一歩前に出た鼠人がマンキャッチャーの先端をこちらへと向けながら凄んで来る。
「お、おい、贋金って……、いや、そんなはずはねぇはずだ! 」
一瞬、まさか、と思った源九郎だったが、すぐにそんなことはあり得ないと確信する。
「俺はこの人と、マオさんとここまで旅をして来た者なんだが、マオさんのプリーム金貨は城門のところで役人たちにしっかり検査してもらってるんだ! 偽物のはずがないっ」
「ハッ! 城門で検査した、だと? 」
しかしその言葉を、浅黒い肌の髭男は嘲笑する。
「どうせ技師が表面を観察したり、重さを計ったりしたくらいだろう? そんな簡単な調べ方で、本物か偽物か、見分けがつくわけがないだろう!? 」
「そうさ、うちは両替が専門で、商売をやってんだ! 」
髭男の言葉に続いて、鼠人がキーキー声でがなり立てる。
「そいつの持ってきたプリーム金貨は、とにかく偽物なんだよ! うちらにはそれが分かるんだ! おい、デカブツ! 大人しくその
「マオさんはちゃんと検査を受けてるんだ! そんなの、言いがかりなんじゃないか!? 」
「そうだっぺ! おらたちも、技師のドワーフの人がしっかり調べてるのを見たっぺ! マオさんの金貨が偽物なんて、そんなはずがねぇだよっ! 」
サムライが言い返すのに続いて、今までマオと同じように怯えながら源九郎の背中に隠れていたフィーナが、黙っていられなくなったのか叫ぶように断言する。
すると、虎柄の猫人はぺっ、と唾を地面に吐き捨て、その手に持ったロープを左右に引き、ピン、と張って姿勢を低くする。
「どうやら、らちがあかねぇようだな! 俺たちを騙そうとしたことのオトシマエ、きっちりつけさせてやるから、覚悟しやがれっ! 」
どうやら、対立は避けられないようだった。
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