・1-48 第63話 「源九郎、走る! 」
今から、野盗たちを退治しに向かう。
その言葉に、村人は驚き、慌てた。
「そんな、無茶だっぺ、旅のお人! 」
それから村人は、自身が駆けてきた方角を、村人たちが避難している
「今、オラたちの村のもんで、戦の支度をしてんだ!
戦い方なんざわかんねぇし、ロクな武器もねぇけんど、20人は集まるべ!
村のみんなで一緒に、野盗どもに思い知らせに行くだ! 」
「フィーナが、さらわれているんです」
野盗たちに殺されることになってもかまわない。
長老を殺され、村を焼かれた復讐をするのだ。
そう気色ばむ村人に、源九郎はできるだけ冷静な口調で言う。
自分まで感情的になってしまっては、収拾がつかなくなりかねないからだ
「フィーナが? ……そういや、
「どうも、長老さんの身代わりになろうとしたみたいなんです。
そして、野盗たちはフィーナを連れ去り、長老さんを斬って、村に火を放った」
源九郎のその言葉を聞くと、村人の血相が変わった。
野盗たちのあまりの非道さに頭に血が上ったらしい。
「くそぅッ! 奴ら、皆殺しにして、野犬に食わしてやるッ! 」
「それに! 」
感情的になりそうな村人を制止するために、源九郎は強い言葉を発する。
源九郎が急いで野盗たちを追わなければならない理由は、他にもあるのだ。
「あいつら、ただの野盗じゃなかったようなんです。
長老さんから聞きました。奴らの狙いは、最初からこの村を焼き払うことだったんです。
そうしてこの国を混乱させるために、外から送り込まれて来た襲撃者たちだったと。
冬の間、奴らは安全に過ごせる場所が欲しかった。
だからこの村に居座った。
けれど春になってその必要がなくなったから、本来の目的を果たすために動き始めたんです。
急がないと、あいつら、逃げ出してしまいます! 」
「な、なんてこった! 」
相手が普通の野盗ではなかったことを知った村人は、村人たちが戦の支度を整えている時間がないことを理解してくれた様子だった。
「だから、今すぐに俺が追いかけないといけないんです!
追いかけて、フィーナを救って、野盗どもを全員……、斬り捨てます!
馬を、サシャを貸していただけませんか!? 」
「……ああ、もちろんだっぺ! 」
村人はうなずくと立ち上がり、横たわったまま動かない長老に悲しそうに顔をよせていたサシャの手綱を取ると、源九郎に向かって差し出した。
「野盗どもの根城は、この道をまっすぐ行った先だっぺ!
森を抜けて、その先にある平原も横切って、今度は小さな森を抜けて……、そこに昔のご領主様のお城があって、そこにいるだ!
詳しい場所は、サシャが知っとるはずだ! 」
するとサシャは、任せておけ、と言うように自身の前足の
フィーナのピンチであるということを理解しているらしい。
「わかりました!
……それじゃ、サシャ、頼んだぜッ! 」
源九郎が村人から手綱を受け取り、サシャの背中に取りつけられた鞍の上に飛び乗ると、サシャは勇ましいいななき声をあげた。
どうやら気合は十分のようだ。
「よォし、行け! 」
そして源九郎がそう命じると、サシャはその言葉を待っていたかのように、勢いよく駆け出した。
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どうやら野盗たちが占拠している城というのは、源九郎が神に導かれて進んだ方向とは反対にあったらしい。
村を焼き払い、長老を殺し、フィーナをさらった野盗たちの馬の
「ハイヤ! ハイヤ! 」
源九郎は馬の背中の上で鋭くかけ声をしながら手綱を操り、さらに速度を速めるように指示した。
1秒でも早く、野盗たちが逃げ出す前に、フィーナを傷つける前に追いつかなければならないのだ。
源九郎はもっと速く、さらに速く、と急き立て、サシャはそれに応えるように精一杯に走っていく。
源九郎は、馬の乗り方は知っていた。
撮影などで何度か乗る機会があり、プロの調教師から詳しく乗馬のしかたのレクチャーは受けているし、実際に乗ったこともある。
だが、ここまでの速度を出したことはなかった。
せいぜい駆け足をさせる程度で、馬に全力疾走をさせたことなどない。
(任せたぜ、サシャ! )
源九郎は手綱を緩めなかった。
未体験の速度で、怖さもあったが、自分と同じくフィーナを救うために
バイクなどの乗り物と馬が違っているのは、馬には意志があるということだった。
機械は人間が操作し、すべてをコントロールしなければならなかったが、生きた馬は自分でバランスを取ってくれる。
だから源九郎がこれだけの速度で走ることに不慣れであっても、サシャがうまく調整してくれるはずだった。
サシャの
源九郎からの信頼に応えるように、風を切り、たてがみをなびかせながら、サシャは力強く大地を蹴りあげる。
開けた畑の中の道を駆け抜け、森の中に入って見通しが悪くなってきても、少しも速度を緩めることはない。
最初にフィーナを助けた小屋を通り過ぎ、なにも知らなかった源九郎が浮かれながら歩いた森の中を、勢いよく駆け抜けていく。
次々と流れるように過ぎ去っていく木々を横目にしながら、源九郎はまっすぐに前を向いていた。
そうしていなければサシャから振り落とされかねないというのもあったが、なにより、森を抜けるのが待ちきれないのだ。
やがて源九郎の見つめる先に、光が見える。
森の出口が近づいてきていた。
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