・1-15 第30話 「初めての異世界村:2」
フィーナの案内で村へと近づいて行った源九郎だったが、向かって来る[サムライ]の姿を目にした村人たちの反応は、最初、冷たいものだった。
源九郎が近づいてきている。
そのことに気づいた村人たちは、外で作業をしていた大人たちも、遊んでいた小さな子供たちもみな、怯えたように逃げ出し、農機具や遊び道具をその場に放り出して、お急ぎで建物の中に隠れてしまったのだ。
フィーナとサシャが一緒にいるのにもかかわらず、村人たちの警戒心は強かった。
彼らは家屋の扉を閉め、窓の鎧戸をバタン、バタンと急いで固く閉じ、残ったわずかなすき間からじっと、近づいてくる源九郎の姿をうかがっている。
「ごめんな、おさむれーさま」
村人たちにあからさまに拒絶され、少し傷ついたような表情を見せていた源九郎に、フィーナが申し訳なさそうに、そしてとりなすように言う。
「ここ最近、ずっと、ロクなことがねぇから、みんな怖がってんだ。
野盗どもは、なにかいいもんがあればみーんな、持って行っちまうから……。
いつか人さらいまでしだすんじゃねかって、みんな心配しとっただよ。
だからみんな、知らねー相手が来たら家ん中に逃げて、隠れることにしとんだ。
おらは、逃げ遅れて捕まっちまったんだけんども……」
「……なるほど」
源九郎としては寂しい限りではあったが、村の状況を考えれば仕方のないことだと、納得せざるを得ない。
残念そうな源九郎に、フィーナは励ますような明るい声で言う。
「村の真ん中の広場で、長老さまが待っとるはずだ。
村に害があるもんかどうか、長老さまが見極めることになってんだ!
おさむれーさまのことを話したらきっと、長老さま、おさむれーさまがいい人だって分かってくれるべ。
そしたら、村人みんなで、歓迎してくれるだよ! 」
おそらく、村人たちは安全のために、長老が代表して身元を確認し、話しをつけるまでは、家の中にじっと隠れるように取り決めをしているのだろう。
源九郎は村人たちの警戒する様子から村を覆う暗い雰囲気を濃密に感じ取りながら、フィーナに案内されるまま村の中央へと向かって行った。
やがて2人と1頭が村の広場までやってくると、そこでようやく、この村の住人らしき人物を発見することができた。
老人だ。
頭頂部だけが禿げた、のび放題になった白髪とヒゲをたくわえている白人系の人物で、肌には年季を感じさせる深いしわがいくつも刻まれている。
背は曲がり、元々の身長は源九郎よりも10センチ程度低いだけのはずだったが、ほとんどフィーナと同じ目線にまでなっていた。
身に着けている衣服は、フィーナのものと同じように粗末なものだった。
ほつれや
そして手には、木の枝を加工して手作りしたらしい、うねうねと折れ曲がりのある杖をついていた。
「長老さまっ! 」
その老人の姿を見ると、フィーナは嬉しそうな顔をする。
しかしこの村の長老であるらしい老人は、長くのびた眉毛の下からフィーナを鋭く見やり、再会できた喜びからか長老に駆けよろうとしていた彼女の行動を制止した。
それから長老は、源九郎の方へその鋭い視線を向ける。
「フィーナ……。その男はいってぇ、なにもんだ?
得体の知れねぇもんは、村さ、入れるわけにはいかねぇだ」
長老のしわがれた声は、まるで、
減ることのない重税、人手不足に起因する連年の不作、そして近くに居座っている野盗たち。
ただでさえ問題の多い村に、これ以上の厄介ごとは持ち込ませまいと考えているのだろう。
場合によっては、源九郎を追い返すことも考えていそうだった。
源九郎は、その長老の断固とした姿に感心させられていた。
なぜなら長老は、武器らしい武器も持っておらず、丸腰で源九郎と相対しているからだ。
村人たちにとって警戒するべき異国の風体の大男である源九郎は、その腰に刀を差している。
そんなつもりはまったくなかったが、源九郎が斬ろうと思えば、苦も無く目の前にいる老人を斬り捨てることができるのだ。
だが、長老は自身の身を守れるようなものをなに1つ持ってはいない。
杖はあるが、そのうねうねと曲がっている形から、中に剣が仕込まれているとかそういったこともなさそうだ。
あるいは、長老はあえて武器を持たないことで、源九郎の正体を確かめるべく話し合いをする環境を作っているのかもしれなかった。
最初からケンカ腰に武器を手にしていたら、話し合いにならずにそのまま戦いに発展してしまうことだって考えられる。
(村の人らだって、まさか全員、丸腰ってわけでもないだろうしな……)
源九郎は、自身へと向けられている村人たちからの突き刺すような視線を感じながら、彼らがその手になんらかの武器を持っているのだろうと想像していた。
それは剣かもしれないし、棍棒かもしれないし、鎌や
もし源九郎が長老に対して危害を加えようとするのなら、おそらく、村人たちはその武器を手に反撃してくるはずだった。
相手が丸腰の老人ただ1人だけだからと言って、源九郎は、うかつな行動はとれない。
もしも村人たちに「危険だ」と思わせるような行動を見せてしまえば、たちまち、村人たちに袋叩きにされてしまうからだ。
だから源九郎は、ひとまずは何も言わずに、その場に立ち止まって、長老に近づき過ぎないように距離を保った。
刀には手をかけず、そして武器を手にするつもりがないことを示すために、あえて源九郎は身体の前で腕組みをして見せる。
この状況では、自分がなにかを言うよりも、村の一員であるフィーナに任せておいた方がいい。
そう考えた源九郎は、フィーナにすべてを任せるつもりだった。
別にそういう風にしようと打ち合わせしているわけではなかったが、フィーナが前に進み出る。
どうやら、自然とこの場は自分が矢面に立つべきだと理解し、長老たちに源九郎のことを説明してくれるつもりであるらしかった。
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